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第5話「吸血鬼な俺と、雨の中のあいつ」

遅くなって申し訳ありません。構想を練っていたら思いのほか遅くなってしまいました。もうそろそろ一部完ですかね。次あたりには無敵で馬鹿の先輩の活躍が見れると思います。

 波乱の朝から一転、俺の一日は平穏無事に終わりを迎えようとしていた。

 あとはリンともっと仲良くなるため、あいつと一緒に途中まで下校するだけ。

 の、はずだったのだが……。


「雨、か」


 生徒たちが口々に悲鳴を上げながら傘を差して向かっていくのは、どしゃ降りという表現がピッタリな雨の中だ。

 俺はそんな彼らを横目に、手持ち無沙汰の両手をぶら下げてただ突っ立っているのだった。


「最悪、だ」


 きっと頑固で男嫌いなあいつのことだ。傘を持っていない俺は、まるで道端のネズミにそうするように見捨てられてしまうのだろう。


「はぁ、走って帰るか」


 最悪の状況を覚悟してため息をついた。そのとき、


「ほら、傘」


 右肩に硬い何かが当たった。

 見るとそれは、少女が言う通りの傘だった。


「え、俺?」

「あんた以外に誰がいんのよ」

「いや、え? お名前お聞きしても?」

「筧リンよ! 馬鹿じゃないの?」


 そう言うとリンは俺から顔を背け、反対に俺に水玉模様の傘を差し出してくる。


「え、じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」

「あ、あげるんじゃなくて! その、えっと」

「ん?」


 聞き返すと、リンはもじもじと指を弄り出す。

 お、言うか言うか? 男なら一度は憧れるあの言葉を、あのシチュエーションを!


「相合傘、してやってもいいけど」

「えっ、あっ」


 やべ、本当に言われると思わなくて素っ頓狂な声が出てしまった。表情がバレないように口を手で覆い、リンから顔を背ける。


「じゃあ、そうするか」


 背後でリンが頷いた気配を感じると、隣に来るのを待って一緒に歩き出す。

 水溜りを踏んでいく度、不可抗力の雨水がズボンを濡らしていく。

 せめてこいつに雨がかからないようにと、傘をより一層こいつ側に傾けた。


「しっかし、今日はどういう風の吹き回しだよ」

「えっ?」

「だって、今までのお前ならこういうこと絶対しなかっただろ」

「それは、あんたが、私ともっと仲良くなりたいって言ったから」

「それはそれは、健気なこって」

「嫌なら私一人で使うけど!」

「いえいえそんなことは。光栄の限りです」


 雨音しか聞こえない沈黙。

 だけど、不思議とこいつとなら嫌な気はしない。

 こういうとき、先輩がいたらギャーギャー騒ぐんだろうなあ。ま、それはそれで面白そうだけど。


「そういえば今日、部活は良いの?」

「ん? ああ、今日は用事があるらしいから無しになった」

「そっか。先輩って、カッコいいけど不思議だよね」

「あんなことやられてカッコいいって言えるのお前くらいだぞ」


 俺がそう言うと、リンはキッと俺を睨む。


「でも、普段はすっごくカッコいいじゃない」

「普段? 普段こそ変だろ」

「まあ、あんたの方がよく知ってるわよね」

「まあな」

「きっと先輩の方もあんたのことを……」


 リンは軽く俯くと、ボソッと何かを呟く。


「ああ? 何か言ったか?」

「何でもない。ダマレ」

「何だよ急に。怖っ」


 リンの何か思い詰めたような雰囲気。隣にいる俺までそわそわしてきてしまう。

 学校の前の坂を下って交通量の多い道路に差し掛かったとき、リンは咄嗟に顔を上げて俺を見た。


「ねえ、あんたって私のことどう思って」

『バシャッ!』


 一瞬、何か反応する間もなく、それは起こった。

 一台の軽自動車が歩道を歩く俺らの横を通り過ぎたのと同時に、泥水がリンに降りかかった。


「あ、えっと」


 横から襲い掛かってきたそれは、俺がかざしている傘ではどうにも出来ず、リンは全身くまなくびしょ濡れになってしまったのだった。

 濡れた制服は隠していた秘境を映し出す。どうやらその法則に例外は無いらしく、リンの小さな胸を支える白いブラジャーが見えたかと思うと、そのすぐ下の小ぶりなへそに目を奪われる。


「大丈夫?」


 とりあえずそう聞くと、リンは涙でぐしゃぐしゃになった目で一生懸命に俺を見上げる。


「大丈夫なわけあるかっ! 馬鹿っ!」

「えっ、ちょ」


 何故か馬鹿呼ばわりされた俺は、ほぼへそ丸出しのリンに手を引かれていく。

 どうやらリンの目的地は、大きな公園には必ずある屋根付きの休憩スペースらしかった。

 なんかこういうアニメ昔見たことあるなと思ってたら、リンは哀愁たっぷりに俯きながら手持ちのタオルで髪を拭き始める。


「ほんと、最悪」

「わり、俺が車道側立ってりゃ良かった」

「ほんとよ。何で私がこんな目に」

「……」


 もし傍に泥水が入ったバケツがあったなら、俺はそれを躊躇なくこいつにぶっかけていただろう。


「あんたといると、いっつも調子狂う」

「お前に調子良いときなんてあんのかよ」

「そういうとこ。ほんと性格悪い。だから嫌われるのよ」

「じゃあ何でお前はいつも、嫌われてる俺の近くにいんの?」


 売り言葉に買い言葉。言った後、しまったと思ったが、もう引き返せない。


「そ、それは」

「お前は神社の娘で、俺はもう力が弱い吸血鬼の末裔で」

「怒らせたならごめん。そんなつもりじゃなくて」

「別に怒ってるわけじゃねえよ。ただ純粋に、何でこんな嫌われ者の俺に、お前も先輩も優しいのかと思って」


 それは本心からの疑問だった。ありがたいとは思っているが、どうにも疑念が晴れなかった。


「先輩のことはわからないけど、私は」


 振り向くと、タオルを濡れた髪に押し当てながら拗ねたように唇を尖らせているリンの表情が見えた。


「私は、あんたのことが好きでも嫌いでもないから」


 そしてそのまま横目で俺を見る。


「だから、そんなに卑屈になられるとムカついてくるんだけど」


 俺には、そう言うリンの表情に見覚えがあった。


『君には良いところがたくさんある!』


 俺が嫌われていることを知った先輩が、俺にそう言ったときの表情そのものだった。


「リン」


 リンの言う通り俺は、高校に入ってから素直になったと思う。

 それは自分の気持ちに対しても、自分の欲求に対しても。

 すると徐々に、俺の欲求の形がはっきりしてきた。


「嫌がらないのか?」


 濡れた首筋に口を近づけても、リンは身体をピンと張ったまま逃げ出す気配が無い。


「あんたがしたいなら、私は、別にっ」


 涙目で小刻みに震えているリンの表情。


「俺がしたいことは、本当はこんなことじゃない」

「えっ?」


 俺は顔を上げると、鋭い八重歯を隠すことなく笑った。


「リン、俺の中の吸血鬼を祓ってくれ」


 リンは一拍間を置いて目を見開く。


「でも、そんなことしたらあんたもたたじゃ済まないっ」

「それでも良い」

「身体に影響が出るのはもちろんだけど、最悪記憶が一部消えたり、人格に影響が」

「それでも、俺は普通の人間になって、普通に恋愛とかしてみたいんだよ」

「普通に、恋愛」

「お前しか頼める奴がいない」

「わかった」


 リンは仁王立ちでタオルを握り締める。華奢な首元から数珠が覗く。


「私に任せて」


 こいつと仲良くなった先にあるもの。

 俺はそれを想像すると、安心して微笑んだ。


読んでいただきありがとうございます。感想や意見待ってます。ぼちぼち評価がついたり、ブックマークに登録してくれる人が出てきたりと嬉しい限りです。性癖披露の場として書き始めた本作品ですが、書く度に構成の難しさを実感しています。お盆辺りに全話改稿しようかなー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正也くんの中の吸血鬼を祓って、性格が変わったり記憶が消えたりしたら、それはもう正也くんではなくなってしまうかも(;´・ω・)ちょっと心配
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