第7話 野生の味
修正済み
「あぁ疲れたぁ〜しんどすぎ」
アルはその場に倒れ伏す。
「突然錬り合わせの練習もせずにぶっつけ本番で合わせができたので驚きましたよ」
他人の魔力を自分の魔力と錬り合わせていながら平然と立っているアルバートは驚いた様子だった。
「えっ?師匠は、僕が師匠との"合わせ"成功しないと思ってたの?」
「ええ、ここで失敗してもらいまだまだ未熟といことを自覚していただこうと思っていたのですが....合わせができてしまったので叱る必要もなくなりましたね。それどころか五年のブランクがあるのにも関わらず合わせができたことには賞賛に値することですよ」
実際はアルバートから期待されていなかった事実にガッカリする。
「これでも僕は師匠の一番弟子ですからね?こんな大一番でブランクがあったとしても失敗はしませんよ」
「それはそれは、私が謝らなくてはいけませんね。アルはやはり私の一番弟子に相応しい弟子ですよ、これからも期待してますしっかりと精進なさい」
「はい!師匠。それとこれからこんな無茶を急に言うのをやめてくださいよ?いくら身体があっても身が持ちませんよ」
「ですが魔力の錬り合わせの感覚は取り戻せたでしょう?」
「まあ、師匠が言うのも一理ありますよ、今回の無茶な合わせのおかけで自分の魔力を身体に馴染ませる感覚を思い出せたのは事実ですし」
「まあまあ今回は成功できたことですし、後始末もあります。そろそろ動き始めるとしましょう」
「了解、師匠」
「それでは片付けた魔獣の処理を行いますか。アル、使える素材は剥ぎ取りあとはまとめて燃やしますよ、剥ぎ取って残った物はあそこのクレーターにひとつに纏めて燃やすのでクレーターの中に入れなさい」
「それじゃあ僕が担当していた方面の魔獣達の死体を拾ってくるね」
「私も周りの魔獣達の死体を集めましょう」
アルバートと別れ、自分が倒した魔獣達の死体を担いでクレーター近くまで持ってくる。動物型の魔獣はサイズによっては魔導ポシェットに収納でき、持ち運び易い物が多いから楽であるが、ゴブリンならまだしも大型タイプのオーガやオーク系統は魔導ポシェットに入り切らず、一体一体が大きいため持ち運び難い、いっその事ここで燃やしてしまおうか考えたが即その案を却下する。
下手に魔獣の死体を燃やし、魔力溜まりができてしまいアンデッド化されても困るので、時間はかかるが気長に運ぶことにした。
倒した魔獣達を一箇所に集め終わり、解体を始める。
「使える素材もあるけど、なかなかに数が多いから高値で売れる素材と私用で使うやつ以外は燃やすしかないな」
まず解体が簡単な人型タイプから解体を始める。
「ゴブリン系は小さな魔石しか取れないし全部燃やしてしまっていいかな」
運び終わった死体の山からゴブリン系をクレーターの穴の中に投げ捨てていく。
「オーガやオーク系なら使える魔石が取れるし一部内蔵が薬に使えるから一応取っておくか」
魔導ポシェットから剥ぎ取り用ナイフを取り出し、腹の周りから刃を通す。腹を開いて使える内蔵と心臓近くにある魔石を取り出す、魔石は袋に入れ内蔵系は種類毎に保存用液が入った瓶に入れていく。
「やはり人型タイプの魔獣は捌きやすいな、下手に体内が複雑化している特殊な魔獣に比べて人間種に近い配置になってくれてるからやりやすい」
一通り人型タイプの解体を終え、人型タイプ用の魔石袋と内蔵瓶を魔導ポシェットにしまい、次の魔獣へ作業を移る。
「次はシャドウウルフかな、コイツらはなかなかいい素材が採れるから戦いはめんどくさいけど採算はいいんだよなぁ」
シャドウウルフの魔石は闇魔術に関する魔導具を作る時に一番使われる王道な素材であり、ほかにも骨は触媒としての価値が高く、牙に至っては闇魔法との相性が良いのでそのまま他の素材と合わせて闇魔術を刻み込んだ武具としても使えるので、なかなかに狩り得な魔獣なのである。
「シャドウウルフはまだやりやすい方の魔獣だからありがたいな」
腹の辺りからシャドウウルフを切り分け、内蔵を全て出し切ったら皮を剥ぎ、食用にならない肉も捨て使える素材だけを解体していく。
「よし、これだけかな」
十二頭分の解体を終え、アルは次の魔獣へと解体の手を伸ばすのだった。
「ふぅ、やっと片付いた....素材は選別したつもりだったけどそれでも数が数だからな、多すぎる。てかもう日が暮れてるなぁ」
アルが愚痴をボヤいていると師匠が話しかけてくる。
「アル、今日は遅い時間なので、ここで野営をして明日の朝早くから境界都市へ向かいますよ。それと今日は大物のバトルバイソンが採れていますので夕飯は期待しといてくださいね」
「バトルバイソンがいたの!?よっしゃァァァ!!師匠急いで野営の準備をしますね」
車のトランクに置いてある野営道具を取り出し野営の準備をする。
「テント二張り分とあと寝袋と簡易椅子と焚き火や料理するためにも炭を取ってとりあえずはこれでいいかな」
クレーターから少し離れたところにテントを貼り中に寝袋を引き、焚き火のために炭を組み合わせ着火剤を振りかけて火魔法で火をつける。簡易椅子と組み立て式のテーブルを設置して僕は料理ができるのを待つ。
アルがテントを貼ったりしてる間にアルバートは食用になるバトルバイソンを捌いて夕飯の準備をしてくれている。傍からは肉がジュウジュウ焼ける心地好い音色が聞こえ、食欲をそそられる匂いが漂ってくる。
「こうやって師匠と野営するのも10年以上ぶりだなぁ」
アルバートと共に修行していた日々を思い出す。
(あの時もトルメキア霊峰で魔獣の巣へ放り込まれたり、大峡谷へ突き落とされたり、毒殺へ備えるために多種多様な毒物を食わされ...たり.....あれ?あれあれ?師匠との記憶物騒なことしかないんだが.....。よく今まで生きてこれたな自分)
一歩間違えたらお陀仏になりかねない状況で今も生きていることにホッとしたりアルバートのイカれ具合に頭を悩ましているとアルバートから声が掛る。
「アル、夕飯が出来ましたので食器の用意をしなさい」
「了解」
アルバートに言われた通り食器を野営道具の中から取り出し、師匠と僕の分それぞれ並べていく。
「今日の夕飯はバトルバイソンを使ったコンソメスープとステーキができていますよ」
バトルバイソンと言えば一般人から通の者まで絶賛する魔獣の名前だ。バトルバイソンは名の通り他の魔獣達に頻繁に喧嘩を売るため常に戦闘状態であり、その影響で締まった肉になり赤身の部分が多い。
その話だけを聞くとスジっぽくて食べにくい印象があるが、そのようなことはなく程よい弾力に噛みごたえのあるずっしりとした肉厚で一度食べたら病みつきになる美味しさなのだ。
もちろん魔獣なので肉に魔力が宿っており採れたての状態が一番肉の中の魔力が霧散せずに残っているので採れたてが一番美味しい。アルバートが、アルと自身のお皿に大きなステーキを乗せそれぞれの器にコンソメスープを入れていく。
「早速食べましょう師匠!!久しぶりに採れたてのバトルバイソンを食べれるのですから熱いうちに食べてしまいましょう!」
「そう慌てなくても夕飯は逃げませんよ、それではいただきますか」
「「今日も命を恵まれたことに感謝致します」」
僕達竜族に伝わる食事の礼を言い、早速アルはステーキにかぶりつく。
(もきゅっ、はむはむ、ごくん.....すごいなんて弾力だ!噛んだ途端から肉汁が大瀑布のごとく次々と溢れ出てきやがるッ!!
次にスープを口に運ぶ。スゥーっと優しく口に入れ、口の中でじっくりと味わいその後ゆっくりゴクっと飲み干す.....あぁ美味い、ただただ美味い、口に入れた途端バイソンから出る濃厚なコクと肉々しい味のパンチ!しかし肉々しい味のパンチだからと言って肉の味が濃すぎることもなく他の調味料や食材とマッチして一種の生態系を作り出しているほどだ!!)
「アル、そんなに呆けてどうしましたか?」
「あっすみません師匠、あまりの美味しさに意識を持っていかれてました」
「おやおや、そんな世辞をアルが言えるように成長したとはね」
「世辞抜きで本当に美味いですよ!やはり採れたての魔獣の肉は格別ですね!」
「スタンピードの影響もあって昂った状態に長時間晒されたことによって、魔力がより肉に染み渡り肉の質をあげたのでしょう」
「今のところ今回の旅で天然物のバトルバイソンを食べれたことが一番嬉しいです」
アル達はバトルバイソンの肉を堪能しじっくりと味わい、英気を養うのだった。
次回 第8話 異界が衝突せし場所