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竜と境界の都市グレンツェ  作者: 瀧澤流泉
第一章 「覚醒と騒乱」
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第4話 旅立ちとトラウマ後編



修正済み


アルはアリシアの部屋を後にして、久しぶりに会う師匠の元へ向かった。

師匠の部屋の前に着きドアをノックする。


「失礼します、師匠居ますか?」


「ええ、いますよ。お入りください」


師匠に促され、ゆっくりと扉を開ける。


「失礼します、師匠」


久方ぶりに再開する師匠に少し緊張する。


部屋に入ると年齢の影響で白髪になっているが、年老いてなお劣ることのない鋭い目と、しっかりとした佇まいで師匠が待っていた。


そう彼こそアルの師匠であり、龍王国に古くから伝わ<龍錬流魔闘術>免許皆伝を許されている人物で、父さんの右腕でもありアルの師匠に当たる人だ。




<龍錬流魔闘術>それは龍王国が建国した当初から、存在したと言われるアースガルズで最も古き武術の一つだ。

今現在数多くの武術が存在するが、源流を辿るとその大半が龍錬流魔闘術に辿り着く程の歴史と名声、そして新しき技術に淘汰されない武術の完成形としての威厳を持ち合わせている。

龍錬流魔闘術の魅力はその応用性そして基礎にして全であるところだ。


<錬成>このひとつに龍錬流魔闘術の全てが詰まっていると言っても過言では無い。

錬成とは自身の体内に巡る魔力をその名の如く錬成することである。魔力を錬り合わせ、通常の魔力質よりも高純度で、体内で巡り易い魔力に純化させる技法である。


それを纏うだけで合金で作られた鎧へ匹敵する防御力を得ることが可能だ。

錬成がただの防御手段とは侮るなかれ、錬成の本質はその応用性、防御から攻撃へ、攻撃から防御へ、あらるゆる状況に対応する応用性いや万能性こそ、この技の本質と言えるだろう。

体内で錬成した魔力を拳に合わせ、突きを放てば衝撃波を発生させることができ、その方向性、拡散性、そしてなんと言っても属性付与が出来れば、あるゆる状況に対応することが出来るだろう。





この技を開拓した龍錬流魔闘術創始者は、特別な資質や能力、これといって特筆すべき力を持っていた記録はない。

だが、かの創始者はその身に繋がる双腕だけで龍王国周辺国家を壊滅させた神話級魔獣に対し、タイマンでケリをつけ龍王国いや、世界を救う程の偉業を成し遂げたのだ。

そして時代が経ても尚、語り継がれる彼が言った言葉がある。



汝、特別な才覚は必要とせぬ、堕落せず頂きへと登る覚悟と信念さえあれば良い、さすればその拳は世界へと届き、神をも打ち砕く(いかづち)へとなるだろう、ワシの言葉を疑うか?ならばワシが通った道を見てみるといい、そこには神と讃えられたモノの死骸が転がっているだろう



彼が放ったその一言はビックバンの如く猛烈な勢いと熱気を余すことなく瞬く間にアースガルズ全体に駆け巡り、彼を一躍、時の人として押し上げた。

彼の謙虚な姿勢、そして何よりも特別な才能を有さず己の研鑽のみで世界を震撼させる魔獣をたった一人で討伐せしめた圧倒的強さ、英雄たる所以だろう。


そして何よりも龍錬流魔闘術は体得した者に竜族が多いことで知られている。それも仕方がないことだろう。

この龍錬流魔闘術の創始者はなんと竜族なのだ。

創始者の彼が自身の種族適性を鑑み、強くなるために編み出した方法がこの龍錬流魔闘術なのだ。

別に竜族じゃないと使えない、と言うわけではない。単純にこの武術と竜族の相性がよすぎるのである。

竜族は元々身体能力の高さに加え、他の肉体派種族に比べたら(魔法に特出した種族と比べたら低いが)魔法の適正が高い。それも魔力を操作することに長けている。

そのため、体内の魔力操作を技の基本とする龍錬流魔闘術と竜人の相性は抜群なのだ。

そう言う経緯があり竜族の体得者が多い、それに自国含め世界を救った英雄が扱う武術にロマンを感じるのは当たり前だろう?

若き竜人達はかつての英雄に憧れ、道場の門を叩くのだ。


そんな数多くの人々が門を叩く龍錬流魔闘術で現在唯一免許皆伝を許されており、今の龍錬流魔闘術の頂き(トップ)に座るものこそ、現龍錬流魔闘術師範アルバート・シュタインなのである。



「おぉこれはこれは殿下、お久しぶりです。大きくなられましたね」


アルバートは恭しくアルに挨拶を告げる。


「その言い方はやめてください、違和感がすごいです」


アルバートは久しぶりに会う、アルのために茶化し気味に答えたようだ。


「それはすみませんね」


改めて師匠に挨拶をする。


「ご無沙汰しています、師匠」

「かれこれアルと会うのは、五年ぶりですね」


五年前の事件以降、アルは辺境の領地に引きこもり王国首都内で仕事はしておらず事件後で会うのは今日が初めてだ。


正直久しぶりに会った師匠に対するアルの本音は、力の暴走により自我を忘れて戦い、敵どころか味方にまで被害を出してしまったことに対して師匠に会った時なんて言われるのか、想像するだけで震え上がるほど怖かった。

師匠に鍛えてもらいながら、この始末は弟子として頭が上がらなく、師匠の顔に泥を塗ったものだ。

なかなか会う気になれず、そのままずるずると五年近くも会えていなかったのである。



アルが話すのを言い淀んでいるのを感じたのか、アルバートが先に話し始めた。


「アル、5年前のことについては何も言いません、その代わりに境界都市でしっかりと働きなさい」

「はい!!」


下手に過去を掘り返し問題提起するより、明日の未来を見据えて五年前のことは不問にするらしい。

なんとも懐の広い師匠である。


「師匠にまた認められるように頑張るります!」

「ええ、しっかり精進なさい、アルは旅立ちの用意はできていますか?」

「一通り終わってます」

「そうですか、私はもう少し用事があるので先に屋敷の駐車場に向かってなさい」


アルバートはまだ用事が残っているようで先に向かうようアルを促す。


「わかりました、先に向かってます」


アルバートを部屋に残しアルは屋敷の駐車場へ向かった。




「はてさて、アルの実力が衰えていなければいいのですが.....まあその時はまた鍛え直しましょうか」





アルは急な寒気に襲われる。


「うわっ、なんだこの悪寒は?嫌な予感がするなぁ」


これから起こりそうな嫌な予感を抱きつつも駐車場へ続く道を歩く。


駐車場に着いたアルは、魔導ポシェットに荷物の入れ忘れがないか確認をして、時間を潰しているとアルバート、アリシアと父親、そして親しい従者や父さんの家臣達が見送りに来てくれた。


「おまたせしましたね、アル」


「いえいえ、それほど長いこと待っていたわけではないので、気にしなくていいですよ師匠」


次に父親が話しかけてくる。


「アル、当然のことだがお前の身分がバレたら一大事だ。そのため境界都市ではアルマス・クライムと名乗りなさい、そのように書類や新しい身分証の用意はしてある」


父親に新たな偽名を告げられる。


「わかった父さん、でも向こうの組織にも一応協力者はいるんでしょ?」


「ああそうだ、あちらの組織のトップには話をつけてある。困ったらソイツを頼ってくれ、あとの事はほとんどアルバートが何とかしてくれるから下手なことはするなよ、いいか?本っ当に頼むぞ!」


「ここに来てまで、まだ信用ないの!?逆に傷つくわ!」


父親にツッコミを返す、ここまで来てまだ信用されてないことに呆れる。


次に話しかけて来たのはアリシアだ。


「ふふっ今日の朝とは打って変わって元気そうね、安心したわ。怪我をすることもあるかもしれないけど、なるべく気おつけなさいね」


「うん、今日は色々とありがとう母さん!母さんのおかげで色々と決心が着いたよ」


「あら、それなら安心できそうね。ただ慢心だけはしてはダメよ?」


「僕もそこまで油断するほど馬鹿じゃないよ。なんて言っても、あの境界都市へ向かうんだからね警戒するに越したことはないよ」


「そう、ならいいわ。しっかり仕事を全うしてきなさい」


「了解!母さん」


家族との最後の会話を終え車に乗る。やはり最後に姉さんに会えなかったのがアルにとっては寂しく思うみたいだ。

だがこれも仕方がないことだろう。姉は仕事なのだ、最後に姉に会えなかったことに対して後ろ髪を引かれつつもアルバートが運転する車へ乗車する。


「アル、それでは出発しますよ」


「はい、師匠。それではみんな、今日までありがとう!僕、境界都市へ行っても頑張るから!」


アルは走り出した車の窓から上半身を出し、大きな声でお礼の言葉を述べながら、みんなが見えなくなるまで手を振る。それに答えてみんなもアル達が見えなくなるまで手を振り返してくれるのだった。


「はぁ、寂しくなるなぁ.....でもこれは父さんが僕に成長して欲しいからその優しさ(王命だから絶対に断れない)で今回の機会を設けてくれたんだ、前向きにとらえるしかないか」


トルメキア霊峰に向かって走る、車窓から見える大自然をぼんやりと眺めながら物思いにふけるのだった。



作中ややこしい部分があったので説明します。


竜族とは種族単位で呼ばれる場合の名称であり、個人単位に対する呼び方は竜人としております。

色々ややこしくすみませんm(_ _)m


次回 第5話魔闘術の力



次回もお楽しみに!


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