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竜と境界の都市グレンツェ  作者: 瀧澤流泉
第一章 「覚醒と騒乱」
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第3話 旅立ちとトラウマ中編



修正済み



アルは母親に呼ばれたことに対して疑問に思う。


「母さんと二人だけで会話か.....少し気が重い。なにか母さんに言われるようなことしたかな?」


最近の出来事を思い出すが思い当たる節は無い。

うだうだ言ってても、どうしようもないだろう。アルは腹を括って母親の部屋へ向かう準備を始める。




自室に戻ったアルは、普段出かける時に使用する腰に巻き付けるタイプの魔導ポシェットに必要な荷物をまとめる。

戸棚から数冊の愛読書を入れ、怪我を負った時のために各種医療道具が仕舞ってある医療箱と治癒 魔力回復 状態異常に対するポーションを追加で入れる。

最後に境界都市で家族を思い出せるように数年前に撮った家族写真をポシェットに入れ、これで完璧だろう。


先程入れた荷物に加え、その他必要な荷物の最終チェックを終えて最後にバンテージを巻き、ハンガーに掛けてあった白のローブに袖をかけて長年暮らして来た部屋に別れを告げ、母の部屋へと向かうのだった。








アルの目の前には普段簡単に開けられるはずの扉がとても大きく壮大に感じられる。

大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせるが、そう簡単には落ち着いてくれはしない。緊張はするが意を決して母親の部屋の扉を開いた。




扉を開けたそこに待っていたのはとても美しい女性、黄金に輝くブロンドヘアにアルと同じエメラルドの様な翡翠色の瞳をした人物、この人物こそアルの大切な家族で母親でもありこの国の母たる存在、アリシア・ドラグ・クライシスが彼を今か今かと待ち受けていた。


会話の切り出しはアルから入る。


「待たせたかな?」

「私から呼んでいるのだから気にしなくていいわよ」


どうやらそれほど待たせたわけではないらしい。だがアリシア自身から直接呼び出すのもこれまた珍しいことだ。


「母さんが僕に話なんて珍しいね、母さんになにかしたかな?」

「ふふっアルは昔からいつも卑屈ね。別にあなたを咎めようとして呼んだ訳じゃないわよ」


「そうか....なら境界都市へ行くことに関する話かな?」

「あなたが境界都市へ向かい、当分の間は二人で話すこともできそうにないからね」


アルは薄々勘づいていたがやはり境界都市へ向かうことに関してらしい。


「とりあえず僕がお茶を入れようか?」

「ええ。お願いするわね」


アルは魔導ケトルに魔力を流し、お湯が沸くまでにティーポッドと茶葉を用意しする。

お湯が沸いたら適度な量のお湯をティーポッドに入れ、お茶をカップに移しアリシアに淹れたてのお茶を渡す。


「アルのお茶はいつも美味しわ、今日呼んだ甲斐が有るってものね」


趣味レベルのお茶だがアリシアは本当に美味しそうに飲んでいる。


「こんなの別に趣味の範疇でやってる事だから本職の人に比べたら全然だよ」

「それでも私にとってあなたが入れる紅茶はとても好きよ」

「そう言って貰えると息子冥利につきるよ」


アリシアからの素直な褒め言葉に心が暖かくなりアルの顔には自然と笑みがこぼれている。


「少しは気が和らいだようね」

「えっ?そんなにカチカチになっていたの?」

「そうね、今から戦場へ行く兵士のようにカチカチだったわ」


アルは気づいていなかったが相当張り詰めていたらしい。


「境界都市へ行くなんてある意味戦場へ行くのと等しいからね」


そう言って言葉を濁す。


「それもあると思うけど、それ以外にも思い詰めていることがあるでしょ?」


やはり母親には誤魔化せないらしい。

ここは素直に言葉を返す。


「悩んでいないか?って聞かれたらNOとは言えないかな」

「やっぱりね。あなたって昔から自分で抱え込んだり思い詰める悪癖が治らないかしら?」

「治っていたら今こんな状況にならず次期国王として立派に仕事をしているだろうさ」


自虐気味に答える。

ここは真実を告げる他ないだろう。アルは覚悟して己の内に抱える闇について語りだす。


「そうだね、僕は....、はっきりと言って五年前の記憶がない、いや正確には五年前大変革で起きた魔獣騒動に関する記憶がないってところかな」


アルはゆっくりと落ち着きながら話し始める。


「やはり一部分だけ記憶がないのね、あの時のあなたの反応からしてなんとなくは予想してたけど.....」


アリシアは傷つけないようにアルの様子を伺いながら慎重に話しかける。


「やはり五年前に姉さんを救おうとして暴走したことを気に病んでいるの?」

「そりゃそうさ、目覚めたら病室の中で全身包帯だらけになってて、何が起きたかわけも分からず、知らされるのは姉さんが生死の境をさまよっている話。そのきっかけが自分だってことも.....話されて自分でも何が何だか理解出来ずに状況が進んでいたから、気に病むなって話が無理だよ.....」


過去のトラウマが蘇ってきて耐えられずアルの言葉は早口になり口調は荒くなってしまう。


「もし姉さんが危険な状態で僕が姉さんを救うために力を使ったとしても僕は家族に手を出してしまったんだ...。そんな暴走状態の僕を救うのに危険な状態だった姉さんに余計に命を削らせる様なことを僕はしたんだ.....。姉さんと一緒に僕を止めようとした兵士達にも怪我人が出ている.....はっきり言って魔獣の被害で手一杯の状況を僕という魔獣が余計に状況を掻き乱したんだ。その影響で出た被害も馬鹿に出来ないし僕は結局のところ未熟で力に溺れた大馬鹿者なんだ....だから....だから僕が力を振るうことなんてダメなんだ。またみんなを....傷つけると考えると怖くて、怖くてどうしようもない罪悪感と恐怖で支配される.....どうしようもない、どうしようもないんだよ、()()()()()....」


次々と蘇ってくる過去のトラウマに耐えられなくなり、地面に膝を着き手で顔を覆い現実から(物理的に)目を背ける。


「だから僕は辺境の領地に引きこもったんだ.....なるべく力を振るわないように、またみんなを傷つけないように.....()()()()()()()()()()()()()()()


アルは力なく項垂れる。

そんなアルに対してアリシアはハッキリと現実を突きつける。


「アル、あなたの気持ちは痛い程わかるわ。でもね?はっきりと言うけどそうやってずっと過去ばかりに囚われているのは良くないわ。後ろばかり振り向いていると突然前から現れる出来事に対処出来なくなるの、そうやってつまづいて行く人を多く見てきたわ。だからアルには酷かもしれないけど今回の境界都市に行くのは何がなんでも行ってもらうつもりよ」


アリシアは躊躇いなくこれは絶対的な決定事項だと言わんばかりの気迫がある。


「大変革から五年が経ちあの街は落ち着いてきているように見えるかもしれないけど、その内はまだまだ混沌としている状況なの。そんな状況だからこそ()()()()を欲しているわ」


僕が必要だって?馬鹿げている。


アルは心の内でそう思う。


「僕なんかよりもっと優秀な人材は他にもいるだろう?それに僕が行ってもまた人を傷つけるだけだ.....僕は僕自身を制御できる自信がない」


自分が境界都市へ行っても、なにかを変えるビジョンが思い浮かばずアリシアに言い返してしまう。


「あなたには力以外にもこの国の王子として政治的な知識もあるし、人付き合いも可もなく不可もなく適切な距離で出来る。そんなあなただからこそ行く必要があるの。それにあなたは変わる必要があるのわかってもらえる?」


アルはそれを聞いて強く反論をしようと思ったが、それはただの八つ当たりでしかなくアリシアを責めるのはお門違いだからだ。


アルはゆっくりと口を開ける。


「母さん、僕には無理だよ....僕はみんなが思うような立派な人間なんかじゃないんだよ。引っ込み思案で自分の力もまともに扱えないような人間なんだよ?」


体を震わせながらぽつぽつと語り始める。


「怖いんだ、さっきも言ったように...母さん、僕はまたみんなを傷つけるのが怖いんだよ.....もう二度と悲劇を繰り返したくないんだよ」


涙が出てきて堪えようとするが言葉に嗚咽が混じる。


「ダメなんだよ、僕は人を傷つけるだから.....」


嗚咽交じりに語っていると優しい香りと共に暖かいものに包まれる。それはとても暖かく、優しく、慈愛に満ちており、全てを包み込んでくれる太陽のような温もりであった。


「アル、あなたは確かに姉さんを傷つけたわ。でもね、それはあなたが姉さんを守りたい一心で力を使ったのでしょ?それなら誰も責めやしないし、あなたが気に病む必要はないわ。あなたが力を使ったから姉さんは生き延び、今ではあんなにピンピンしてるでしょ?あなたは誇っていいのよ、大切な家族を救ったのだから」


アリシアは落ち着いた優しい声でアルを抱きしめながら、耳元でゆっくりと赤子に言って聞かせるかのように話しかけアルを慰める。


そんな慈愛に満ちた優しさにアルは少しづつ言葉が漏れてくる。


「こんな僕でもいいのかな....僕なんかが力を振るうなんて、みんなをまた傷つけるかもしれない」

「あなたがもしまた暴走しても、境界都市で新たに出来る仲間達が助けてくれるわ。だからそんなに重く考えなくていいのよ、あなたは要らない人間なんかじゃない、()()()()()なのだから思う存分に力を振るいなさい」


「母さんっ僕は、僕は....」


言葉にならない優しさと慈愛と救いで満ちたこの暖かい慰めを受け、耐えきれなくなった心のダムは決壊し、とめどなく涙が溢れかえる。心が落ち着くまでアリシアの腕の中で母親の偉大さと暖かみに包まれながら心の闇が晴れるまで思う存分泣いたのだった。








アルは気持ちが一段落してアリシアから離れる。


「ごめんね、こんなみっともない姿を晒して」


つい恥ずかしくなり顔を背けながらアリシアに謝る。


「ふふっいいのよ、母親としての義務ですもの。泣きたくなったり辛いことがあれば私に言いに来なさい、いつでも話になるわ」


アルは母親という存在の偉大さに感服する。

「あぁやっぱりこの人には敵わない」と何があっても受け止める器量と懐の深さには到底無理敵わないと圧倒される。


「母さんのおかげで気持ちに一段落着いたよ、過去のトラウマが完全に消えたとは言えないけど境界都市へ向かう決心が着いた」


涙で腫れた目を拭い満面の笑みで言葉を返す。


「あらっ男前になったわね。そうやって笑っているあなたの方が素敵よ」


ニコニコと優しい笑顔でアルを褒めてくれる。


「そう言って貰えるなんて誇らしいよ」


アルは心の奥底から感謝の気持ちを伝える。


「今日は本当にありがとう、多分抱え込んだままの自分だったらどこかでトラウマが足を引っ張て死んでたかもしれない。そんな僕を救ってくれて.....ありがとう母さん」


「ふふっいいのよ。あなたが前を向いて進む決心が着いたのなら私としてはこれ以上にないほど嬉しいことですもの」


アリシアは本当に嬉しそうに語る。


「それとあなたに渡すものがあるわ」


アリシアは戸棚の中にある貴重品入れを取り出した。


「アルこれを持って行きなさい」


そう言ってアリシアが渡してきたのは十字にエメラルド色の宝石が埋め込まれたロザリオだった。


「綺麗な宝石が埋め込まれたロザリオだね。境界都市へ行く僕への餞別かな?」


アルは嬉しくなり母さんに聞き返す。


「それもあるけどそれとは別にあなたの力になる物よ」

「僕の力に?」

「あなたも知っての通り私たちには()()()()が流れているわ、母さんが古代(エンシェント)エルフの血を引いてるのはしってるわよね?」

「昔に姉さんが精霊化の力を使っているのを見たことあるから知ってるよ。それと関係するものなの?」


「ええ、そのロザリオには封霊石が埋め込まれているの。もしあなたが精霊としての力を必要とした時、万が一制御出来なくても封霊石が余分な精霊力を吸って暴走を抑えてくれる代物よ。余分な精霊力はそのロザリオに蓄積され予備の魔力タンクとしての役割も担ってくれるから普段から付けてなさい」


「っ!?封霊石って言ったら精霊の力を一時的にも宿しておけるあの希少魔力石の一種の!?そんな貴重な代物貰ってもいいの?」


まさかアリシアは精霊達の力を一部とは言え宿すことができる希少な封霊石が埋め込まれたロザリオをアルにくれるらしい。


「ええいいわよ。私も昔それを使って余分な精霊力を抑えながら精霊の力の練習をしたものよ、今の私には無用の長物だわ。使える人が使う方がそのロザリオにとっても幸せだろうからね」


アリシアは封霊石が埋め込まれた貴重なロザリオを本当にくれるらしい。

こんな貴重な物を貰うのに、自分には勿体ないものではあると感じるがここで受け取らなければアリシアの好意を踏みにじることになる。

アルはアリシアからロザリオをありがたく受け取る。


「母さん、こんな貴重な品物を僕にくれてありがとう。このロザリオを活かせるように努力するよ」


アリシアからの贈り物を貰い、アルはとても嬉しくて心が幸福感で満たされる。


「ふふっそう言って貰えて助かるわ」


アリシアもそんな姿のアルを見て嬉しそうに笑っている。


だが旅立ちの時間は迫ってきている。そろそろ話を切り、アルバートの元へ行かなければならない。


「まだまだ話していたいけど、師匠の元へ挨拶に行かないといけないからそろそろ行くよ」

「ええ、アルバートによろしく言っといてね」

「了解、また後でね。母さん今日は本当にありがとう!!」


アルは母親にお礼を言って部屋を後にし、師匠ことアルバートの元へ向かうのだった。




これにて主人公は物語のメイン舞台へ行く準備は整いあとは出発するだけ!しかしそう簡単には境界都市へ行けない、境界都市に向かう主人公に訪れる災いとは!?

次回 旅立ちとトラウマ後編 次回もお楽しみに!

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