第2話旅立ちとトラウマ前編
修正済み
気づくと周りは炎に囲まれていた。
少し時間を遡れば、そこは緑溢れる霊峰の麓で、耳を澄ませばそこには鳥のさえずりが響き渡り、風が織り成す植物達のオーケストラが奏でる演奏会が開かれていた場所だった。
けど、今周りを見渡しても生命の輝きは感じられない。
動物は逃げ植物は無惨にも燃え尽き、焼けず残っている木々も次第に消え失せてしまうだろう。周りはそんな荒廃とした風景だった。
姉さん! 姉さん! 僕は必死に呼びかける。僕の最愛の家族は姿を見せてはくれない。
姉さん! 姉さん! 必死に何度も呼ぶ、だけど姉さんは見つからない。
アルッ!
後ろを振り返ると僕の大切な姉さんはいた。だけど姉さんは右脇腹は太い棘のようなものが貫通しており、体の至る所に傷跡がある。
僕はそんな姉さんを見て急いで駆け寄ろうとして、姉さんの背後にいるソイツに気づいた。全長30mを超えるかもしれない得体の知れないバケモノ。
ソイツは僕の姉さんに鋭利で強靭な爪を振り下ろそうとしており、重傷の姉さんにはその攻撃を避けることも受けることもできないのは明白であり、それは逃れようのない死の事実だった。
アル来ちゃダメッ!
その時僕は得体の知れない感覚に陥り、僕の中でプツンとなにかが切れた。
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??????
遥か太古から神話は紡がれる、今再びピースは揃った、運命の歯車は廻る時を迎える、お前に遺志を継ぐ覚悟はあるか?
はっ!?
慌てて飛び起きる、アルは滝行をしたかのような全身汗だらけになっており、ベッドのシーツにもはっきりと人型ができるほどに汗をかいていた。
まただ、またあの五年前の悪夢を見た...何度目だろう、あの悪夢を見るのは…そうだあの悪夢を見る日に限って嫌なことが起きる。
「あぁそうか....今日が境界都市へ向かう日か、それなら悪夢を見るのも納得だな」
そう言い放ってベッドから立ち上がり窓際に立てかけてある等身大の鏡の前に立つ。
目の前に映るのは普段の姿のアルだ。腰まで伸ばしたぼさっとした長髪で、アルの周りの者たちはシルクゴールドなんて大層な呼び方で彼の髪を褒めるが所詮はただのプラチナブロンドだ。
前髪を梳きすきながら目に映るのはエメラルドのような翡翠色の瞳、母親譲りの尖ったエルフの耳にこめかみ周りの髪をかけて顔の調子を確認する。
やはり悪夢を見たせいかアルの顔色は悪い。
「はぁ、あまり調子が良くないな、体調不良で無かったことにできないかな?無理だな」
そんな意味の無い自問自答をする。
「殿下、朝食の用意ができております」
メイドが朝食の用意を伝えに来てくれた。
アルはすぐさまに返事を返す。
「みんなにもうすぐ向かうと伝えてくれ」
「承知致しました」
龍王国は民主制で王族は存在するが圧倒的な権力を持つ存在という訳ではなく、どちらかと言うと国の代表としての側面が強い、だから王族と言ってもそんなに堅苦しい生活は送っておらず朝食も家族揃って食べることが多い。
アルはメイドに食堂へ向かう返事を伝え、机に置いてあるメガネを着け部屋を後にした。
食堂に入ると僕の家族は着いていたが姉さんの姿だけが見当たらない。
「あれ、姉さんはいないの?」
その疑問に父親が答える。
「姉さんは昨晩急遽決まった教国との会談のために朝一で出発したよ」
「仕事なら仕方ないか、少し寂しくなるな」
アルは当分姉さんに会えないと思うと少し寂しくなる気持ちを心の奥底にグッと押し込め、みんなが心配にならないようにする。
今日の朝食は王道な洋食セット、手早く朝食をすませ食堂を出ようとするが母親に呼ばれる。
「アル、後で私の私室に来なさい」
「うん。わかったよ母さん、荷物の準備を終えてからでもいい?」
「あなたのタイミングでいいわよ」
そう優しい微笑みをアルに返してくれる。
「それじゃ準備が出来次第部屋に行くね」
そう言い残しアルは食堂を出ていった。
食堂には一組の夫婦がなにか悩ましそうに会話をしている。
「あの感じだとあの子相当思い詰めてるわね」
やはり親達には彼が思い詰めていることは筒抜けらしい。
「やはりそうか、だが大変革の事件から五年も経った。あいつはそろそろ変わる必要がある」
「そうね、長々と過去に囚われていてはあの子の人生に良くないもの」
「俺が言うよりお前の方があいつにとっても心に響くだろう。心を開かれてない俺なんかよりもな、よろしく頼む」
「ええ、任せてください。それとそんなに自分を卑下しないでくださいね。私が見る目のない馬鹿な女だと思われるじゃないですか」
「ふっ、それはすまんな。お前が馬鹿な女だと思われないように俺も精進するとしよう」
そこには仲睦まじく息子について語る夫婦の姿があった。
さてさて親子の会話そして主人公の過去のトラウマとは一体どうなるのか?
次回、第3話旅立ちとトラウマ後編お楽しみに!