第20話 孤高の発明家
新年明けましておめでとうございますm(_ _)m
クランクは酒乱会と教団の情報を少しでも得るべく馴染みの情報屋へと車で移動する。
彼が向かう先は四番街《棄てられし者達の街》だ。
《棄てられし者達の街》は境界都市の中にある数ある街の中で最も治安が悪い街と言えるだろう。元々棄てられし者達の街は大変革の復興に着いて来れず路頭に迷った者達で築き上げられたスラム街なのだ、それ故に法に縛られず自由に売買ができる。例えば賭博、違法薬物、風俗街、違法魔導具のオークションなど、法に縛られないアンダーグラウンドな街だからこそ始まりこそはただのスラム街だったが境界都市の闇が集まる故に四の番号を背負う程の街へと発展したのだろう。
車を走らせクランク馴染みの情報屋《アカシアの樹》に到着する。店前の駐車場に車を止め店内へと入る。アカシアの樹は表向きは飲み屋であるため店内のあちこちではそれなりの人数が酒と料理を楽しんでいる。
クランクは右奥の個室に入り情報を入手するべくウェイターを呼び注文する。
「ご注文は何に致しますか?」
「アカシアドリンクをならず者の又聞き仕立てにしてくれ」
「お客様ご注文を確認します。アカシアドリンクの又聞き仕立てでよろしいでしょうか?」
「それで頼む、あぁそれと疫災が飯を奢りたいと伝えといてくれ」
「わかりました。それではごゆっくりとおくつろぎください」
特別な注文が入ったためウェイターは料理人ではなく直接店長に注文を伝える。
「店長、十三番席アカシアドリンクの又聞き仕立てのオーダー入りました。それと席のお客様からの伝言で疫災が御飯を奢りたいとのことです」
店長ことゲルム・クラットは久しぶりに聞くその名に驚きと嬉しさが渦巻く。
「疫災だと?これまた久しぶりの常連が来たじゃねぇか、俺は厨房に入るからその間ドリンクを出して待たせとけ」
「わかりました店長」
ウェイターは厨房に戻り料理人にアカシアドリンクの又聞き仕立てのオーダーを伝え料理人は手際良くオーダーされたドリンクを作成する。ウェイターはドリンクが問題なく発動することを確認し、クランクの元まで運ぶ。
「お待たせしました。こちらがアカシアドリンクの又聞き仕立てでございます。本日は右に四時、左に一時、もう一度みぎに十七時となっております。店長は後から来ますので席に着いてお待ちください」
「ああわかった」
ウェイターは伝えることを伝え料理を運び終わると次のオーダーを取るべく席を離れて行った。
アカシアドリンク、店長自慢のオリジナルカクテルだ。泡立つ気泡はパチパチと虹色の光を伴って弾けている、豪快な店長から想像出来ないなんとも洒落たカクテルだ。これはアースガルズで採れる希少果実グレープパッションの果汁が気化すると七色に変化する性質を利用して作られたドリンクだろう。
クランクは届けられたドリンクを飲まずドリンクの下に敷いてあるコースターに触れる。
「えぇと右に四時、左に一時、もう一度右を一周回して十七時、最後にドリンクを一滴」
ウェイターに告げられた通りにコースターの表面を指先でなぞり最後にグラスを少し傾け一滴だけコースターに注ぐ、するとコースターは仄かに輝き始め魔術式が浮かび上がってくる。それと同時にクランクはドリンクと共にバーの一室へと転移した。
「おっ、どうやら成功したみたいだな」
クランクが転移した先は完全防音の魔術式が施された個室のようだ。クランクはお目当ての人物が来るまでカクテルをじっくりと味わい時間を潰す。そうしてカクテルを堪能していると個室の扉が開き、巨漢の男が入ってくる。そう彼こそクランクのお目当ての人物でありライトに照らされたスキンヘッドの男こそクランクの古き友人の一人、通称《ブン屋》のゲルム・クラットがやって来た。
「おぉ元気そうじゃねぇかクランク!」
「お前もなブン屋」
「その言い方やめろって言ってるだろ?俺にはしっかり名前があるんだからよ」
「あぁ済まないゲルム。今日は野暮用があってな」
「お前が飲みに来る以外で訪ねて来るとはこれまた珍しいな、何かあったか?」
「あぁ仕事の件でな、《酒乱会》と《アナテマの教会》について情報をくれ」
クランクが求めている情報を聞きゲルムは驚愕する。厄介な問題に関わりたがらないクランクが教団と最近一番臭い傭兵について話を聞いてくるなんて想像もしていなかったからだ。
「おまっ、酒乱会と教団の情報とか正気か?」
「あぁ正気だとも、お前なら合衆国と教国の会談について嗅ぎつけているだろ?」
「あぁ。最近の治安悪化に伴い教会直属の戦闘部隊を追加で境界都市に駐在させる話だろ?」
「そうだ。うちの諜報部が入手した情報によれば教会軍部が酒乱会と接触し、会談にやってくる教皇派の枢機卿を始末するよう依頼したらしい」
「おい、それほんとか?アイツら権力争いに敵対組織引っ張ってきたのかよ.....これは荒れるぜ?」
「あぁそうだろうな、会談が極秘だろうとどこかしらで嗅ぎつけている奴らはいる。それだけならいいんだが万が一枢機卿に死なれたら世情がだいぶややこしくなる。それを未然に防ぐために俺が出張る羽目になったんだ」
「お前も貧乏くじ引かされたな」
「まったくだ、こんな損な役回りしなきゃいけないなんて。本来狩人の連中でことは終わり切ってたのに教団が関与してるから俺が動くことになったんだ」
「それで何が聞きたい?」
「最近の教団の動きと酒乱会の構成、そして奴らが取引したブツについてだ」
「それはいいが....高くつくぜ?」
「それも織り込み済みだ、これで支払いは済ませてもらおう」
クランクはコートの内側から一瓶の薬品と数個の魔石を取り出す。
「ただのポーションではないぞ、身体欠損どころか瀕死の重傷そしてある程度の病気を完治させる俺特製の霊薬だ。それに加え錬金術で加工した市場に流通している物より高純度な準一等級各種属性の魔石、これでどうだ?」
「OK、それだけの対価を払ってくれるならできる限りの情報を出してこよう。奥の部屋から関連する書類と情報を確認するからちょっと待っててくれ」
「分かった」
そう言い終えるとゲルムは個室から出てバーの奥の部屋へと入り二束の書類を持ってくる。
「これが酒乱会の構成とメンバーに関する書類でこっちが教団関連の書類だ。早速説明するぞ」
「あぁ頼む」
「まずは酒乱会の構成についてだ。奴らは頭目を筆頭に二百人で構成されている。その内訳は百五十は戦闘員、事務関連が二十、最後に物資調達班三十で合計二百人となっていて基本的には事務部隊が外部からの依頼や取引を行っている」
「戦闘員の基本兵装は?」
「今入っている情報によればH&S社製魔法小銃を主兵装とし、各員防物魔耐性を付与された各種装備を身につけている」
「危険視する部隊はいるか?」
「一応今説明したように奴らの基本兵装は一般の軍隊に似た装備をしているんだが唯一頭目直属部隊だけ装備の自由が許されているらしくてな。今までの情報をみる限りコイツらの装備は毎度バラバラみたいでこれといった規則性はねぇ、注意するとしたらコイツらが自前で何かしでかすことぐらいだな」
(ふむ、一般兵はさして脅威ではない。狩人の連中で処理出来るだろう。となると懸念すべきはやはり頭目直属の部隊か.....。)
「教団と取引したブツについては掴めているか?」
「あぁもちろんあるぜ。最近頻繁に港関係が慌ただしかったからな、その影響で取引関連の情報は結構入ってきてるんだ」
「奴ら何を取引してた?」
「奴らやべぇモン取引しやがったぜ、何かわかるか?教団お手製の《母の寵愛》だ」
「おい、それ本気で言ってるのか?」
「本気で言ってるんだよ。アイツらが《母の寵愛》を取引したのは本当だ」
ゲルムが嘘を言うと思えないが流石にその情報をもたらされては疑いたくもなる。
なぜなら奴らが取引したのは教団が今まで外部に対して一切取引として持ち出したことがなかった奴らオリジナルの呪薬《母の寵愛》だからだ。
《母の寵愛》それは教団を名を知らしめるキッカケとなった最悪の呪薬だからだ。通常呪薬と言えば東方圏で使われる呪術がベースのポーションであり、つくり手がポーションに呪いを込め相手に様々な呪い(一部の魔法でしか解呪出来ないモノ)をかけることが出来る。
そして教団が裏世界から嫌われ、教会と敵対し、恐れられる理由が正しく《母の寵愛》なのだ。奴らが作り出した《母の寵愛》は人を変える、それは比喩やものの例えではなくその言葉通り人をヒトならざるモノへと作り替えるのだ。
作り替えられた人間を通称、《チルドレン》と呼び彼らは呪いによって体が肥大化し素体の魔力の有無関係なく通常の魔法使いより多くの魔力を保有し、瘴気を撒き散らして他の人間を同族へと作り替える。こうしていとも簡単に生物兵器を作り出すことが出来る最悪の呪薬のことを指すのだ。
そうは言っても呪いにより変化するのであれば解呪すればいいのではないか?そんな疑問を抱くだろう。だが《母の寵愛》は必ず解呪することは出来ない、いや正確に言うと人が込めたと言えるような代物ではない程に呪いが強すぎるのだ。故に彼らを解放するには殺すしかない、彼らを屠り魂を輪廻の輪に戻してやること以外彼らにしてやれることは無い。
《母の寵愛》の恐ろしさについてはいいだろう。クランクもかの呪薬の恐ろしさについては充分知っている。ならなぜ彼が驚くのか?それは奴らが今まで、それもクランクが産まれるよりはるか昔から存在する教団だが初めて外部の存在に呪薬を与えたからだ。
教団の彼ら曰く、我々以外の人間に寵愛を扱いきれない、母の愛を受け取るには器が足りない、貴様らには啓蒙が足りん、などなど彼らなりにの理由を振りかざし歴史上彼らが使う以外に外部の存在の手に渡ったことはなかったのだ。
そして今回、教団側の思惑が何にせよ奴らは動き出したのだ。それを意味するのが何かは今ははっきりとしない、だがとてつもないことが起きるのは間違い無いだろう。なんせ敵対組織の幹部を殺すために外部に渡すのを躊躇っていた呪薬を持ち出したのだから。
「ゲルム、それが本当だとしたら教会も本格的に動き出すぞ」
「あぁそうだろうな、境界都市誕生から五年目にして裏表どちらも大きく動き出すだろう。教会軍部もバカな奴らだぜ、教団関係の組織に手を出したら予想よりも痛いしっぺ返しを食らうんだからな」
「ことがことだ。この情報はどこまで回ってると思う?」
「裏界隈上層陣の一部それと俺みたいな一部の情報屋とお前ぐらいだな。それと噂になってるんだが教団の奴ら最近一般の組織にちょくちょく接触しているらしい」
「そうなのか.....教団により毒は撒かれた。これからじわじわと俺らを侵食してくるぞゲルム」
「ヤバいだろうな、俺も万が一に備えて北欧にトンズラする準備を進めている」
「そうか、今回の情報はとても助かった。チップとしてこれを受け取れ」
クランクはコートのポケットから対になる二つの魔石を投げ渡す。
「これはなんだ?」
「お手製の転移石だ。赤い魔石を座標とし、青い魔石に魔力を流し込めば赤い魔石がある場所に転移できる。飛距離としてはここが元ロサンゼルスだから.....まぁざっくり言ってニューヨークまで飛べるぐらいはあるな」
「お前そんな貴重な物いいのか?」
「あぁ今回の情報は一歩間違えれば簡単に弾道ミサイルレベルの脅威になる話だ。それと今まで世話になった礼だ」
「はっ、素直に礼を言えば可愛げがあるものを」
「ふん、そんな真似は俺に合わねぇよ」
「そうかい、また飲みに来いよ」
「あぁ、面倒事を片して飲みに来るよ」
クランクはそう言いながら振り返らずぶっきらぼうに手を振り駐車場に向かう。
彼が向かう先は一歩間違えれば世界を波乱の渦に飲み込み兼ねない地獄の会談。クランクは枢機卿を無事守り抜き、酒乱会の魔の手を跳ね除けることは出来るのだろうか.....。
それは分からない、だが彼が二つ名持ちであり特務機関の幹部までのし上がった傑物なのもこれまた事実だ。我々にできるのは彼が酒乱会から枢機卿を守り抜き、勝って特務機関に戻ってくることを祈るしかできないのだから。
to be continued.....。
さぁ世界の命運はクランクに託された!
次回 第21話 作戦会議
次回もお楽しみに




