第1話終わりはいつも突然現れる
修正済み
ここは科学に取って代わり、魔導工学、魔法、魔術が発展した世界<アースガルズ>だ。
この世界は地球と比べマナ濃度が高く世間一般的に魔法が普及している。
地球とは異なり(地球では魔力を持つのに生まれ持った資質がいる)あらゆる存在に魔力が宿り、その影響あってかアースガルズには多種多様な生物が存在しており地球では神話生物、妖怪、UMAと呼ばれるような生物まで存在する。
この物語の舞台、いや前日譚となるここ<ミッドガルド龍王国>について語ろう。
<ミッドガルド龍王国>とは古の神々が力を持ち世界を統治していた時代、世界創成の時代から現在まで唯一存続する国家である。
今では途絶えてしまった存在<龍>、その竜の血を引き継ぐもの達で構成される国である。
かの者らは他種族に比べ身体能力、魔力容量が高く、特筆すべき点は彼らが持つ特殊な能力だろう。
前述した通り彼らは竜の血を引いている。
彼らが闘争本能を顕にした時、彼らの身体からは角、一対の翼、一本の尾が生え全身の皮膚は正しく竜の如く硬質な鱗へと変貌し、その瞳は縦に長い瞳孔になり身体能力を飛躍的に上昇させる。
それに加え彼らは種族的な固有の魔眼を保有している。
魔眼<竜の瞳>は彼ら竜族だけが持つ特有の魔眼である。
その瞳は魔力の流れが視え本来見えざるモノの姿さえも見通す力を有しており、彼らの瞳は存在の本質を見抜くのに長けているだろう。
さてそんな太古から続く龍王国で穏やかな昼下がり、王の執務室で突如としてそれは言い渡される。
「父さんそれ本気で言ってる?もしかして二日酔い抜け切ってないの?」
そう言って彼は信じられなく、父親に聞き返した。
赤く燃え上がるような髪をオールバックに整え、見た人を吸い込むかのような深紅の瞳をした彼の父親はそれは真実だと言わんばかりに彼を強い眼差しで見返す。
「嘘を言うのにいちいち執務室に呼んでまですると思うか?もう一度言おう、お前は守護者に選ばれたんだ」
その一言を聞いて彼は頭が真っ白になった、理解が追いつかない。
「守護者ってあの守護者だよね?」
「あぁそうだ、この世界が外敵による脅威を感じた時、この世界を守るために資格ある者に世界を守護せし力を与えるあの守護者だ」
「その情報筋はどこ?そんな馬鹿げた話をされたって子供でも信じないよ?」
そんな御伽噺のようなことを説明されても信じることは出来ない。
「この情報は”魔塔”の最高責任者、予言のアルトシアスの婆さまが直接俺に言いに来たんだ」
この国に住むものであればその名を聞かされたら否が応でも納得せざるを得ない。
魔術研究塔院、通称”魔塔”と呼ばれる研究機関が龍王国内には存在する。
魔塔はこの世界屈指の魔法、魔術研究機関でありその最高責任者は”予言のアルトシアス”、その名の通り予知や未来視を得意とし、過去今までありとあらゆる未来を視て国難から国を救ってきた英雄の1人であり予知や未来視においてこの人物以上の存在はいないと豪語されるほどの傑物である。
「僕が守護者って本当なんだね.....」
「あぁそうだ、お前は守護者の運命を背負うことになったんだ」
唐突に告げられる予想もつかない返答に頭が追いつかない。
「お前は世界を守護するに値するって認められたんだぞ、もっと喜んだらどうだ?」
そんな嬉々として告げる父親を前に彼は反論する。
「喜べるわけないよ.....僕はもう、一線から引いた身なんだ、今更守護者として認められたとしても戦う力も衰えてるし立ち上がる気力なんてとうの昔に潰えたよ」
今更戦う意志などないとハッキリ告げる息子に対して父親は苦い顔をしながら彼を見返した。
「はぁ、お前は良くも悪くも表舞台に関わらなさすぎるんだよ。有力な政治家達とのパーティとかに出席したり王城内で働いてるならまだしもお前、辺境領地に引きこもって全くこっちに顔出さないじゃないか、お前これでも第一王子なんだぞ?お前がそんな引きこもり具合だから次の国王は誰になるかで権力闘争になってるんだよ。その事に対する火消しだって簡単じゃないんだぞ?」
実際反論の余地がない、痛いところを突かれる。
「それに対しては悪いと思うけど.....こんな僕よりはるかに優秀な姉さんがいるだろ?姉さんに次期王座を渡せばいいじゃないか、そもそも僕達竜族は長寿だから当分は父さんが国王するでしょ?なら問題ないよ」
なぜ分からない、と言うような顔で息子の顔を見返す父親。
「そんな簡単じゃないんだよ、次期国王にするにも次の代に代わるための下準備もあるし、派閥つくりだってある。そもそも姉さんも国王になる気はないそうだぞ?それにお前は守護者に選ばれたんだ、体裁的や派閥争い的にもお前が国王になるのが一番丸く収まるんだよ」
そう言いながら理解してくれとひしひしと漂わしてくる。
「それでも僕は国王になる気なんてないよ、父さん」
彼は真っ向から父親に反対する。
「はぁ、ならば仕方ないか.....」
おっ、やっと諦めてくれたかと思った矢先彼の父親はとんでもないことを言い出した。
「アル、今から三年間"境界都市グレンツェ"に行き特務機関MISTELの構成員として働いて来なさい」
「境界都市?あの五年前に起きた大変革で生まれた都市のこと?なんでそんな危険なところに行かなきゃならないんだよ」
「アル、これは王命だ、三年間何がなんでもMISTELの一員として働きなさい三年間働いたなら国に帰って来るもよし、境界都市に残るもよし、好きにしなさい」
「そんなっ.....卑怯だよ父さん、もしかして守護者としてのことも関係している?」
「あぁそうだ、アルトシアスの婆さまからも境界都市へ向かえ、さすれば新たなる門出となろうと予言されている。それとお前が引きこもりから卒業するためでもある」
「絶対後半の理由が父さんとしての本命だよね!?」
「つべこべ言わずに境界都市へ社会勉強してこい」
「言ったよ!この人認めたよ!?不出来な息子を再更生させてあわよくば国王にさせようと企ててるって言ってるもんだよね!?それに王命を行使するとか卑怯すぎだよ、このことについて母さんは許したの?」
「あぁ母さんも大賛成だぞ、これで息子が立派になるって喜んでたんだからな?姉さんについてもこれで愚弟が立派な国王になるのかって感動していたぞ」
「母さんまでもが賛成なのか.....サラッと姉さん僕に国王擦り付ける気だよね!?」
境界都市へ向かうのは確定らしい。
「あぁ、あと境界都市に行くに当たってアルバートをお前専属執事として連れて行くことにするから」
「えっ、師匠が?いいの父さん?父さん専属の執事で色々仕事手伝ってもらってるでしょ?」
「アルバートが不在でもそこまで問題になる程でもない、他で埋め合わせはできるしな、それにお前1人を境界都市に送り込むなんて出来るわけないだろ?」
しれっと皮肉を言ってくる。
「サラッと信頼してないって言ってきたよこの人!!」
「とりあえず1週間後、アルバートの運転する車で向かうことになってるからそれまでに準備すましとけよ」
「はぁ、わかったよ父さん......」
彼はそう言い残し父親の執務室を後にするのであった。
こうして彼こと
アルスノーゼ・ドラグ・クライシスの運命の歯車が廻り始めるのだった.....。