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第93話 成長と決意

 イノは走り続けた。



 分断された、薄い灰色の分厚い雲に隙間から、眩い太陽が見える。


 雨上がりの水溜りに朝日が映っていた。



 早朝の帝国の街が、目の端に流れていく。



 イノは後ろを振り向くことなく、ただ走り続ける。



 後ろを振り向くのが怖かったのだ。


 彼女がどんな顔をしてついてきてくれているのか、見れなかった。



「イノ……! イノ!?」



 アイナのつらそうな声が聞こえて、イノは我に返る。


 イノはゆっくりと足を緩めて、スピードを落としていった。



 気づけば、家からだいぶ離れたところまで来ていた。


 帝国の民はまだほとんどが眠っている時間であり、響いているのは二人の呼吸の音のみ。



「ど、どうしたの……? イノ……」



 二人で何とか息を整える。


 アイナの方を見ると、彼女は心配そうにイノを見つめていた。



「イノ、顔、怖いよ……? 大丈夫……?」



 アイナはイノの顔を覗き見る。



 イノは、一回、深呼吸をして、アイナの方を向いた。


 そして、アイナに提案するのだった。




「逃げよう」




「え?」




 突然の申し出に、アイナは驚いていた。


 イノは繰り返す。



「ここから、帝国から逃げよう」



 イノは真剣な目で、アイナを見る。



 これしかない。


 もう、アイナが助かるには、逃げるしかない。



 何もかも投げ出して、ここから逃げ出すしか。



「帝国に、もう未来はない。この国の内部は、もう手遅れなくらいに腐りきっている。内部から崩壊するのも時間の問題だ」



 イノは、今の帝国の実態をこの目で見てきた。



 汚職に手を染める帝国士官、どこまでも保守的な軍上層部。


 そして、闇を拡大する裏社会の勢力。



 一般市民のイノでも分かる。


 帝国は腐食が始まっているんだ。



 それは、もう修復できないところまで来ている。



「帝国の外は決して安全じゃないけど、それでも死ぬわけじゃない。アイナが……帝国のためにその命を賭ける必要はない」



 アイナが、終わりの見えている帝国のために死ぬなんて駄目だ。


 だから、逃げる。



 助かる道は、これしか、残されていない。



 帝国の外で身を隠せばいい。


 どこかの集落に、村に匿って貰えば良い。



 別の国に、亡命したっていいだろう。



 苦労するだろうが、死ぬよりも全然マシだ。



 だから————




「だから、ここから逃げ————」





「私ね」





 —————————————————————————————————





「私、考えたんだ」




 私は————アイナは、イノの言葉を遮った。


 胸に手を当てて、目を瞑る。



「どうしたら、イノの力になれるかって」



 どうしたら、イノの助けになるか。


 どうしたら、彼を支えることができるか。



 イノを喜ばせたい、とかじゃなく、彼が真に望んでいることは何か。


 ずっと、考えていた。



「たくさん泣いて、たくさん叫んで、震えて、悩んで、それで、決めたの」



 考えれば考えるほど、胸が痛くなった。


 何度もセシリアに迷惑をかけた。



 自分の命が、こんなにも惜しい。


 こんなにも怖くて、こんなにもつらくなるなんて、思わなかった。



 それでも、自分の運命と、イノの決意を天秤にかけて決めた。




「強くなりたいって」




 アイナは、イノのことをまっすぐと見つめる。


 人と目を合わすのはずっと苦手だったけど、これだけは、伝わってほしいと思ったから。



「イノは固い決意を持ってる。みんなを、今まで見送ってきた人達の家族を守るんだって。それは誰よりも立派で、すごいことだと思う」



「アイナ……」



 私が、イノの凄さを誰よりも知っている。


 ずっと、一番近くで見てきたから。



「だから、私、恐怖に負けない。この役目を全うすることが、イノのためになると思うから」



「違うんだ……アイナ!」



 イノは苦々しい顔で、首を横に降り続けている。


 私のことを思ってのことだと言うのが分かる。



 嬉しくもあり、その優しさがつらくもあった。



 でも。


 それでも、アイナは決めた。



 イノの、力になるんだって。




「全力で、最後の瞬間まで、生きるよ」




 最後の瞬間。



 それはまさしく、自爆魔法士として任務を全うする時のことを指している。



 それが、イノにも伝わっていた。



 自爆魔法士としての決意。


 大好きなイノに応えようとする想い。



 そこには、成長した姿の幼馴染、アイナの姿があった。






 魔導歴1921年、7月6日。




 アイナが正式に『エンゲルス』へ配属された。



<リファクタリング(改稿)期間のお知らせ>


これにて、第2章が終了になります。


第2章部分の改稿・調整をしたいと思うので、数日間、お休みしたいと思っております。


お休みの期間は、11/25~11/28を予定しています。


次話投稿は11/29からです。



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