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第80話 要求

「動くなっ!!」




 イノは思いっきり声を出した。



 急に大声を出したせいか、イノはふらぁっと意識が遠のく感覚に襲われる。


 ふらついて倒れそうなのをなんとか踏ん張り、空いている左手を胸の前で構えた。




『ヒール』




 イノは魔法を唱える。



 すると、淡い光がイノの体を薄く包み出した。


 白い光の粒達はやがて、部屋の中に分散するようにして消えていく。



 室内に何秒間かの静寂が走った。



「お前、それ————」



「白魔法が自分だけのものだとは思わないことだ」



 イノは目の前にいるスドーから目を離さないまま、呆然とした様子のスニッファに告げる。



 行使したのは『回復魔法』


 自身の魔力を生命力に変換する魔法である。



 すなわち白魔法だ。



 これにより、イノの体力は平常時点まで戻っていた。


 数時間にわたる()()で体力こそ奪われていたが、魔力だけは有り余っていたのである。



 しかし、媒介となる魔石も使っていないし、高レベルの白魔法を行使したわけでもない。


 よって傷は治せていなく、いまだに空腹と脱水がある。



 でも倒れるほどじゃない。


 目にも光が戻ってきた。体のふらつきもない。



「その場から動くなよ。さもなくば、大事な親分の首が飛ぶことになるぞ」



 イノは右手に少し力を入れる。


 それだけじゃ、目の前の大男は身じろき一つしなかった。



 精一杯、『フラッド・カンパニー』の親玉である目の前の男を睨みつける。



 もちろん、イノに人間の首を握り潰せるほどの握力はない。


 だが、イノに魔法が使えると分かった以上、これは十分な脅しになっているはずだ。



 スドーは睨みつけてくるイノを無視し、その奥にいるスニッファに目を向ける。



「スニッファー、やらかしたかぁ?」



「ち、ちげえよ親分! 俺はちゃんとこいつを縛っていたはずだ!」



 威圧感のある目でスドーに睨まれたスニッファは慌てふためく。


 唾を吐き散らしながら、スドーに向けて必死に弁明していた。



「縄が解けないか注意深く見ていたんだ! 緩みそうだったらその都度縛り直してやった! 鉄の椅子だってこんなに頑丈に————」



 スニッファが鉄の椅子の方を見てみる。



 そこには頑丈な金属製の椅子は存在せず、ボロボロに朽ちた椅子の破片が散らばっていた。



「な、なんでこんなボロボロになってんだぁ!? 新品だぞ!?」



 スニッファは憤慨しながら飛び回る。


 派手な橙色の髪を掻きむしり、引きちぎる勢いだった。



 それに対しスドーは目を細め、その様子を冷静に観察していた。



「腐食魔法……『蛮族の為せる技(アース・エレメント)』か」



 スドーの言う通り、これは魔法だ。


 イノは拷問で何も考えられなくなる前に、あらかじめ手を打っておいていたのだ。



 腐食。



 金属の最大の敵である。


 周囲の気体や自然物などと反応することにより、金属はその外見や機能を損なっていく。



 いわば古くなり、劣化していく。



 腐食魔法は、その反応を早めることができるのだ。


 非常に硬い金属でも腐食してしまえば、手で簡単に壊すことができるくらい脆くなる。




 イノは最初に目を覚ました時にこの魔法を発動しておき、じわじわと腐食が進むのを待っていた。


 これがあったからこそ、イノは壮絶な拷問に耐えられ、発狂しなかった。



 逆転の一手があったからこそだ。



 スドーはイノの方を改めて見る。



「お前、『六色(エレメンタリー)』だな?」



「……!」



 久々に聴いた()()()だった。


 魔法士学校時代、イノは少しの間だけそう呼ばれた時があった。



「お、親分、『六色(エレメンタリー)』って言ったら……」



「ああ、あの自爆魔法を作ってる『悪魔』だ」



 どうやら、裏社会でも自爆魔法を作るイノ達のことは知れ渡っているみたいだった。



 人を爆弾にする悪魔が闇組織からどう見られているのかは知らない。


 いや、スドーの口ぶりからするに、イノが第七兵器開発部に配属される前から、目をつけられていたのだろうか



「それで、そんな奴が俺達に一体何の用だ?」



 スドーは怪訝そうな表情を浮かべながらイノに問う。


 威圧感のある目とその声がイノに突き刺さっていた。



 だが、イノは狼狽(うろたえ)えない。



 目線を逸らさず、イノはここにきた目的を果たそうと、胸を張って要求を述べる。




「俺の要求は一つだ。テーリヒェンから手を引け!」



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