第77話 暗闇の中
その後のことは、あまりよく覚えていない。
何度か意識を失っているからだろう。
意識を保てている時間だって、記憶が曖昧だ。
覚えているのは、腕や足に何度も加えられた痛み。
体が飛び上がるほどの銃の衝撃。
異物が腕の中にあるという嫌な感覚。
体から生気が失われていくことの恐怖。
吐きそうなくらい、その感覚を体に擦り込まれた。
そして、スニッファの笑い声が聞こえるのだ。
狂気に満ちた奴の笑い声がぐるぐると頭の中を回り続けている。
それが定期的にくる強烈な痛みによって、ぐちゃぐちゃにかき回され、どこかのタイミングでプツンと切れる。
その後、冷たい水か何かを顔面にかけられ、溺れそうになりながら意識が覚醒する。
奴の笑い声が聴覚を刺激する。
そして、激しい痛みが再び体に刻み込まれ、喉から叫声が弾け出る。
これを永遠と繰り返した。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
途中で数えるのは諦めた。
やめろという拒否の声も、いつの間にか出なくなった。
なんでだとか、どうしてだとか、考えるのは意味のないことだと、早い時点で気づいていた。
足掻いたりするのもとっくの昔にやめていた。
もう自分が何をしたかったのかも、なんのためにここにきたのかも定かではない。
イノの中に残ったのは恐怖と絶望、そして、心の奥底で芽生え始めた、暗いもの。
何もかもメチャクチャにしたいという感情だった。
目の前で笑っているこの男。
こいつさえ、いなかったらいいんだ。
こいつを、ぐちゃぐちゃに、ばらばらに、めちゃくちゃにしてやれば、全てが丸く収まるんだ。
こいつだけじゃない。
テーリヒェンも貴族も帝国士官もニューロリフト家もフラッド・カンパニーも。
アイナも。
みんな、いなくなってしまえばいいんだ。