第7話 魔法技師の仕事
「では早速、武器を見せてもらえますか?」
まだ、彼女に対して不安に思うところがあるが、何も言わずにセシリアに自分の剣を渡す。
「ほほぉ、この質感もこのフォルムも、やっぱり本場は違いますねぇ」
セシリアはその剣を手に取り、目を輝かせた。
まるで子供みたいだ。
実際、セシリアの年齢はルビアとそんなに変わらないだろう。
それ故に疑問がある。
「一つ、聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょう」
「この武器の調整はどこが難しいんだ?」
セシリアよりも年上で、経験もその分詰んでいる魔法技師はたくさんいるはずだ。
信頼できる人物からの紹介と言えど、彼女に務まるのだろうか。
疑問をセシリアにぶつけてみると、彼女は答えてくれる。
「ああ、ニューロリフト家の『ヒートブレード』は有名ですから」
セシリアは、鞘からその刀剣を抜いてみせる。
中からは白銀の刃が、作業場の灯りを浴びて、光り輝いていた。
「この武器は、魔法エネルギー伝送効率がずば抜けてるんで、ちょっとでも魔力を込めてやると————」
セシリアはその剣を構え、思い切り振り下ろす。
すると、眩い閃光とともに、セシリアの前にあった車の部品が一刀両断された。切り口はドロドロに溶解しているのが見える。
「こんな感じに、そこらへんの金属ならバターみたいに切れちゃうんですよねぇ。誰だって、腕とか足とかを切り落としたくはないでしょう」
なるほど、取り扱いが危険なのか。
セシリアは部品の切り口を見て、うんうんと頷き、その剣を鞘に収めた。
「君は大丈夫なのか?そんな危ないものを」
「大丈夫です!腕には自信がありますから!それに、『ヒートブレード』に腕を飛ばされるなら、魔法道具好きとしては本望です!」
まったく大丈夫じゃないことを言っている。
未だ不安は残ったままだが、セシリアは早速作業に取り掛かっていた。
素人があまり口を出すものでもないか。やる気はあるみたいだし。
結構時間がかかるので、教室の方で待っててくださいというセシリアの提案を聞き入れ、ルビアはさっきの部屋に戻ることにした。
ルビアが教室に戻ると、イノ達、三人が集まって何かを取り組んでいた。
「ぬああ〜〜この僕でも無理だった〜〜!」
オスカーが机に突っ伏している。
対面にイノが座っており、その机にはチェス盤とその駒が並べられていた。
「まあ、オスカーじゃ無理だろうな」
「ひどいこと言いますね……リーダー」
見たところ、二人でチェスをしていて、イノがオスカーに勝利したらしい。
イノが平然としていて、オスカーが悔しそうにしているところからも分かる。
「あ……おかえりなさい」
ルビアがまじまじとその様子を見ていると、アイナに声をかけられる。
アイナが声をかけたことによって、チェスをやっていた二人もこちらに気づいた。
「チェスをしていたのか、仕事中ではないのか?」
「これも仕事のうちですよ」
チェスをすることが魔法技師の仕事に入るのだろうか。
ルビアは怪訝に思ったが、それよりも、チェス盤の状況に目を引かれた。
「すごいな、ボコボコじゃないか」
「こいつが弱いだけです」
オスカーがウッという唸り声をあげる。
ここまで大差のついている試合はなかなか見ない。
オスカーがよっぽど弱いか、イノが相当強いかだ。
ルビアは大差で勝利したイノにとても興味をそそられた。
「……私も挑戦してみてもいいか?」
ルビアはイノに提案する。
イノは驚いた表情を見せるが、すぐに笑みを見せる。
「おお、ぜひ。武器の調整は多少時間がかかるでしょうしね」
イノに促されて、ルビアは椅子に座った。
チェスの駒を並べ直す。
「ちなみに、チェスの腕前は?」
「あまり舐めない方がいい。チェスはニューロリフト家のお家芸のひとつだ。私もみっちり教え込まれたから、並の人間よりも強い自負がある」
ニューロリフト家のチェスは有名だ。
父上や兄上には及ばないが、ルビアも相当の実力の持ち主である。
ニューロリフト家以外での負けはないくらいだ。
久々に腕が鳴ると、意気込んでイノの対面の席に座った。
だがその時、気になることがあった。
「ん?その手に持っている魔石はなんだ?」
イノは紫色の魔石を左手に持っていた。
チェスをやる上では必要ないと思うのだが。
「ああ、お気になさらず。これも仕事の一環です」
本気で言っているのかどうかはわからない。
イノは魔法技師なので、魔石を手に持つこと自体はなにも不自然なことはないわけだが、チェス中に眺めるものでもないだろう。
負けそうになったら攻撃魔法を発動する気なのかもしれない、とルビアは少し警戒レベルを上げておくことにする。
「では、始めましょうか。先手、いいですよ」
「なに……?」
チェスは先手が絶対的に有利だ。
それを知らないのか、あるいは知っていてルビアを挑発してきているのか。
彼女の中の闘志に火がつく。
ルビアは腕捲りをして、イノとのチェスに挑んだ。