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第73話 奴隷オークション

『では最初の商品はこちらです!!』



 商品が脇から登場する。



 その商品とは、大きな檻に入れられた女性だった。


 彼女は空な目をして、虚空をぼうっと見つめている。



 ガラガラと音を立てて舞台正面まで商品が運ばれ、最初のオークションが始まった。



 その場にいる客が次々と金額を宣言していく。


 徐々に宣言される額が吊り上がっていき、発せられる声も熱を帯びていった。



 やがて、最高額が宣言され、その瞬間は会場が静かになる。


 そして、司会がハンマーを打ち鳴らし、奴隷という商品は落札された。



 檻に入れられている女性は終始、死んだ魚のような目をしてされるがままであった。



 また、次の商品へと進んでいく————




 あまりにも常軌を逸した光景。


 商品は商品、そこに同じ人間という認識は欠如していた。



 人間を人間として見ていない化け物の集まり。


 その様子を、イノは覗き見ている。



 だが、この場の異常さに気を取られてはいけない。



 イノはこの催しを止める正義の執行者でも、奴隷達を助ける英雄でもない。



 闇組織の情報を求めるただの魔法技師だ。



 罪悪感に目を瞑れ。


 安い偽善に蓋をしろ。



 ただ、アイナを助けるために動くだけだ。



 イノは揺るがない意志を胸に刻み込み、この場を観察することに努める。




 オークションは滞りなく進んでいった。



 しばらくして、次に商品として舞台上に並んだのは子供の奴隷だった。




 その時————カメラをつけたターゲットが大きく手を上げた。



 かなり大きい金額を提示していた。


 元々狙っていたのだろうか。



 誰もターゲットの男の金額に続かず、そのまま落札される。



 その男が、『フラッド・カンパニー』の商品を購入した。




(よし……これでこいつは、『フラッド・カンパニー』と接触するはず)



 ずっと狙っていた好機だ。


 闇に包まれた組織の正体を暴く。



 そして、どうにか接触して、テーリヒェンについて交渉を持ちかけるきっかけとしなければならない。



 緊張で額から汗が滲み、頬を伝っていく。


 息を呑んで、映像の先を確認した。



 ターゲットの男は、係員によって舞台裏まで誘導される。




 男が連れて行かれた別室は、薄暗くて狭いところだった。


 カメラ越しにははっきりと様子を確認できないが、二畳強くらいで軍の取調室みたいな場所だ。



 小さい机を挟んで向こうに座っていたのは、黒フードの男。



 例の北の酒場でテーリヒェンと取引をしていたあの時の男だった。



 座るように促し、金銭の話を進めていく。


 ここで、奴隷を買い取るにあたる手続きを行うみたいだった。



 イノは奴らの話す情報を一言一句記録した。



 覚悟しろよ……全部丸裸にしてやる。




 イノはうまく闇組織の情報を得られた。



 このまま安全に奴らと接触し、交渉できる————そう、()()思っていた。




 その時だった。



 フードの男がふと、怪訝な顔をする。



 すると、落札者に鼻を近づけて、犬のようにその体を嗅ぎ回った。



 な、なんだね、と困惑する落札者。




 数十秒間ほど落札者の体を嗅いで回った後————黒フードの男は笑い出した。



 高笑い、とてつもなく下卑た笑いが、狭い室内に響き渡った。


 とても人間とは思えない、壊れた笑い声。



 悪魔が笑っているかのようにさえ思えた。




 ひとしきり笑い、長いため息をついた後————



 男は懐から()()を取り出して、こちらに向けた。




 イノは、それがなんなのかを、取り出された瞬間に分かってしまった。




 次の瞬間————




 乾いた音が鳴り響く。




『うわ……あ……うぎゃああああああああっ!!」




 落札者の悲鳴が聞こえた後————続けてもう二回同じ爆発音。



 そこで、カメラの映像が途絶えてしまった。




「今のは……!」




 イノの目が間違っていなければ、あれは拳銃……!



 一般人が手にしてはいけない()()()()だ。


 銃火器はその殺傷能力の高さから軍人、しかも限られた者にしか携帯は許されていない。



 それを今、こちらに向けて発砲した……?



 あの人が、カメラをつけていた落札者が撃たれた……?




 殺された…………?




 悟った瞬間、全身に悪寒が走った。




 やばい————やばすぎる。



 こんなに前触れもなく、簡単に、人が殺された……?



 正気の沙汰じゃない。




 体をとてつもない恐怖がおそい、すぐにこの場から離れたい衝動に駆られた。



 こんな異常空間にいつまでも居たくない。



 気がおかしくなってしまいそうだ。




 情報はとりあえず手に入れた。



 でも————接触なんて無理だ。



 今日は一旦体勢を立て直したい————




 この場から離れようと、イノは息を切らして路地裏を走った。



 しかし————



 狭い一本道の角を曲がると、そこに、黒ずくめの男が立っていた。



 心臓が止まった気がした。




 イノは、反射的に路地を引き返す。



 だが、いつの間にか、後ろからも黒いフードの人間が迫ってきていた。




 なぜか、イノの周りは既に包囲されていたのだった。




 一体、なんなんだ……!?



 なんなんだこいつらは……!?




 何もできず、イノは狼狽えることしかできなかった。




 そして、次の瞬間————



 後頭部に衝撃が走り、意識が断絶した。




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