第45話 招かれざる者達
「こんな時間に何してんのー?」
アイナ達が『ベックス工廠』から出てきたのを待ち構えるかのように、柄の悪い男達は工廠の正門周りを囲っている。
男達の風貌はあまりに荒れていた。
着崩した服装、体のどこかしらについている貴金属の装飾、どこからどう見ても、工廠に来るような人間じゃない。
男に声をかけられた時の、セシリアの反応は早かった。
「いくよ、アイナ」
咄嗟の出来事に反応できなかったアイナの腕を取り、セシリアはぐいぐいと引っ張っていく。
そのまま、男達の反対方向にセシリアは歩みを進めるが————
「ちょっとちょっと、無視しないでよー」
金髪の男が、右手を壁に突き立て、二人の道を阻んだ。
男はこちらにニタニタと不快な笑みを送ってくる。
それに対し、セシリアは金髪の男をキッと睨んだ。
「なんですか? 通してください」
「そんな冷たいこと言うなよ〜〜ちょっと一緒にお酒飲むだけでいいから、ついてきてくんね?」
男は鼻につく口調で、再びアイナ達を誘ってくる。
その男の目線は、明らかにセシリアの豊満な胸部に注がれていた。
それにセシリアも気づいているのか、全く取り合わない。
「お断りします」
セシリアは再びアイナの腕を引っ張り、男の横を通り抜けようとする。
しかし、金髪の男は壁を半ば殴るかのような勢いで、右手を壁に打ちつけた。
「なんで逃げんの?」
男はがっちりと腕を壁に押し付けており、二人を通さないつもりであった。
「はあ……うっざ」
セシリアはしつこく誘ってくる男に対し、大きな溜め息をつく。
そして、行く手を阻むその男の体を強く押した。
「どいてよ!」
「……!」
セシリアに押された金髪の男は、数歩後退する。
その瞬間、ヘラヘラしていた男の顔つきが変わった。
「あんたらみたいなチンピラに構ってる暇ないって言ってんの。とっとと消えてくれない?」
「ちっ……なんだおめえ」
セシリアの態度が癇に障ったのか、男は舌打ちをする。
そして、セシリアの方に詰め寄り、今度は金髪の男がセシリアの肩を強く押し返した。
男の強い力に、セシリアの体は後ろに押し出され、自然と掴んでいたアイナの腕から手が離れる。
「……ってえな」
後方へ吹っ飛ばされたセシリアは、男の方を睨みつける。
「あんま舐めてっと、知らねえぞ?」
金髪の男はセシリアにガンを飛ばしながら、どんどん距離を詰めていく。
それにつれて、周りを囲っていた他の男も、セシリアを囲むように集まってきた。
まさに、一触即発、といった空気になる。
セシリアと柄の悪い男達が、今にもぶつかりそうになっていた。
彼女が熱くなっているのが、アイナにも分かる。
アイナは危険な雰囲気を感じ取り、なんとかしてセシリアを止めないと、と思うのだが、セシリアとチンピラ達に気圧され、何もできずにいた。
アイナがおろおろとしていると、セシリアから声がかけられる。
「アイナ、先帰ってていいよ」
「セシリア!」
セシリアは睨みを効かせた目を金髪の男から逸さずに、アイナに指示する。
そんな指示を素直に聞けるわけがない。
親友の危機だというのに、自分だけ逃げるなんてことはしたくない。
だが、自分がここにいて、何かができるとも思えなかった。
「あ? やる気か?」
「どうせこのまま帰す気ないんでしょ? だったら力ずくで通るしかないね」
セシリアは男に対して拳を構え、臨戦態勢になる。
目の前の金髪の男はやれやれと言った表情で、セシリアから一瞬、目を離した。
「女だからって手加減————ブウッ!!」
金髪の男がセリフを言い切る前に、男の口がセシリアの拳によってひしゃげる。
一瞬の隙を見逃さず、セシリアがとんでもないスピードで一気に間合いを詰め、男を殴り飛ばしたのだ。
大の男を吹き飛ばすほどの凄まじい力で、金髪の男は後方に転倒する。
拳を振り切ったセシリアは、仁王立ちでチンピラ達に、その拳を突きつけた。
「あたしは『ガントの森』のガキ大将! 一般人相手だからね、魔法は使わないであげる!」