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第32話 説得

「ルビア!」



 声を張って呼びかけると、ルビアは振り下ろそうとしていた剣を止める。



 イノはルビアと軍が睨み合っているその間に割って入った。


 軍隊の方からざわざわと何かが聞こえていた気がするが、その意識を頭から削除する。



 イノは真っ直ぐとルビアを見据える。


 炎魔法をその体に纏わせているのもあって、今の彼女には近寄り難い、ピリピリとしたプレッシャーがあった。



 こんなルビアは今まで見たことがない。


 対話が成立するかも分からないが、まずは話してみないことには始まらない。



「もうやめろ。こんなことをしてもお前の立場が危うくなるだけだ」



 イノはあくまで冷静に、ルビアに話しかける。


 ルビアはイノが目の前に現れても一切表情を変えなかった。



 彼女はゆっくりと口を開く。



「なぜだ……?」



 苦しそうに声を絞り出すルビア。



 次の瞬間、ルビアは激昂する。



「なぜ私を止める!? 止めるのは私じゃなくてお前の後ろにいる軍隊だろう!」



 辛い感情がこもった声で、イノに訴えかけてきた。


 ルビアはイノが、帝国軍側につくのが納得いかない様子だった。



「彼は! お前にとっても大切な人だったはずだ! それを、こんな非道な作戦で死なせるわけにはいかない! そうだろう!」



 ルビアの訴えが、イノの耳を通って心臓に響く。



 イノだって、止めれるものならこの軍隊を止めたい。


 死地に赴くクルト達、特別作戦部隊を引き止めたいのはやまやまだった。



 だが、もうそんなことをしても遅い。



「今、ここで作戦を頓挫(とんざ)させることに意味はない。特別作戦は必ず遂行される」



 今の帝国はスラムが形成されていることからも分かる通り、逼迫した状態だ。


 帝国民を賄うための土地が不足しているのが原因である。



 魔族軍の動きも今は落ち着いているが、予測はできない。


 いつ、帝国の要である城塞都市『アルディア』に攻め込まれてもおかしくない状況なのだ。



 このような状況を打開するべく、特別作戦を長期的にコンスタンスに続けていかなければならない。



 そんな帝国の最優先事項と言うべき特別作戦。


 延期はあっても中止はあり得ない。



「後で、より苦しむことになるだけなんだ」



 止めたところで、軍は作戦を強行する。


 無理にイノ達が止めようとしても、そのペナルティを負うのはイノ達自身である。



 だからこそ、ルビアを止める必要があるのだ。


 こんなことに意味はないんだと、残酷な現実を突きつけるしかなかった。



 イノは落ち着いた姿勢で、ルビアを過度に刺激しないように話す。


 しかし、ルビアが引き下がることはなかった。



「どうしてそんな簡単に割り切れる!」



 ルビアはその感情に任せて、剣を縦に振り下ろした。


 魔力によって形成された斬撃が、イノの真横を通過した。



「人が死ぬんだぞ! 大切な人が!」



 ルビアは叫びすぎて、喉を枯らしていた。


 目元には涙を浮かべているのが見える。



「せっかく、会えるのに……昔みたいに戻れるかもしれないのに……!」



 ずっと会いたかった人。


 会って、償いたかった人。



 そして、あの頃の日常、楽しかった日々を取り戻したい。



 そう思っていたところに、突きつけられた現実。



 もう元には戻れないと知った彼女の叫びは、悲愴と残酷な現実に対する怒りに満ちていた。



 そんなルビアの姿に、イノは何も言えなくなってしまった。



「邪魔をするなら、たとえお前が相手でも私は容赦しない!」



 脅しなのか、ルビアはイノに剣を向けて、そう告げる。



 イノはそれでも動かないことを選択した。


 ルビアの激情が痛いほど胸に刺さるが、彼女のためにもここを通すわけにはいかない。




 手を大きく広げて、ルビアを通さんとする。



 (がん)として動かないイノを見て、ルビアの剣を持つ手が震える。




「……う、うわああああああああっ!」




 ルビアは邪念を振り払うように、咆哮を喉から迸らせながらイノに突進した。





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