第28話 繋がってしまった現実
嫌な沈黙が室内に流れる。
換気扇の音がやたら強調されて聞こえるような気がした。
「あの……ルビア、違うの。これは————」
「どうして!」
セシリアがルビアに弁明しようとするも、それを許してくれない。
激情がこもったルビアの叫びによって掻き消される。
「どうして否定してくれない! 何も言ってくれない!」
「……」
彼女の悲痛な声を聞き、もう何も言えなくなってしまった。
今更、彼女に何を言ってやれる。
弁明したからなんだというのだ。
ルビアは、イノの方に顔を伏せたまま振り向いた。
「君達はなんなんだ!?」
ルビアは声を荒げて、イノ達の正体を問いただす。
「……魔法技師だ」
イノは当たり前の答えを口にした。
それは、ルビアの質問をはぐらかしているようにも聞こえた。
ルビアはイノとの距離を詰め、再び問いかけた。
「本当に、人を爆弾にしていたのか!?」
ルビアの顔は苦々しい表情でいっぱいになっていた。
そんな非人道的な行いを口にすることも憚られるのだろう。
その問いにイノは即答することができなかった。
しかし、嘘を言ったところでしょうがない。
イノは正直に彼女に伝える。
「そうだ」
イノの返答に、ルビアは目を見開く。
だが、ルビアは信じられず、悲痛な声でイノに再び訴えかけた。
「本当に、罪もない人間を! 弱き者を、殺していたのか!?」
「そうだと言っている!」
イノも自然と声が荒くなってしまった。
その返答に、ルビアの顔は蒼白になる。
ルビアは否定して欲しかったのだろう。イノ達はそんなことはしていないと言って欲しかったのだろう。
ただ、これは紛れもない事実であった。
この非人道的な所業を、認めるしかなかったのである。
「ね、ねえ」
アイナがルビアに後ろから声をかける。
「ルビア? こんなことで終わったりしないよね。これからも————」
「……」
ルビアは何も言わなかった。
ずっと下を向いているルビアの表情は、イノ達には分からない。
怒っているのかも、泣いているのかも。
五人を取り巻くその場の空気は、最悪だった。
「そうだ! 人探しの話だったよね!」
その時、アイナは思い出したかのように、なんとかその場の空気を変えようという思いで話し出す。
このままルビアが離れてしまうような気がして、アイナはなんとか繋がりを保とうと必死だった。
しかし、彼女の一言が裏目に出る。
「イノ、知り合いでしょ? あのエルステリア人のクルトさん————」
一瞬だけ、空気が凍りついたような気がした。
嫌な予感がしたイノはルビアの顔を伺う。
ルビアは両手で口を塞いで、息を呑んでいた。
「ルビア! ちがっ……待て!」
ルビアは教室を出ていった。
教室でクルトの名前を見た時のイノの豹変ぶり。
そして、ペートルズによるイノ達の正体の暴露。
彼女の洞察力においては、これらの情報で十分だった。
アイナの一言で、一番知らせてはいけないことを察してしまったのである。
ルビアは工廠の廊下を必死に走る。
そして、先程、教室を出ていったペートルズに追いついた。
「おい!」
ルビアは前を歩くペートルズを大声で呼ぶ。
ペートルズはその声に反応し、ゆっくりとルビアの方に振り返る。
「はい、なんでしょう?」
「次の『エンゲルス』、編成されたのは、誰だ!?」
ルビアの突然の質問に、少し怪訝な顔をするも、ペートルズはすぐに笑顔を見せる。
「ふむ、あまり部外者に作戦の情報を話すべきではないですが……まあニューロリフト准尉なら大丈夫でしょう」
ペートルズは周りの部下に指示し、何かの書類を持ってこさせる。
それは、軍人の名簿のようであった。
ペートルズは、そのリストをペラペラとめくり、その隊長の名前を口にした。
「クルト・イステル准尉、それが部隊長になりますね」