第25話 拒絶
クルト・イステル。
『サン・ミッシェル王国』出身のエルステリア人である。
帝国の首都『アルディア』の戸籍に登録されたのは、四年前。
中央街『レグルス』の西側、『ダンテ』という街で、喫茶店『イステル』を経営している。
コーヒーのうまい店だ。
もちろん、イノは名前を知っていた。
彼のことを知っていた。
帝国軍少尉により、『エンゲルス』、その隊長に任命された名前。
それは昨日の夜、頭の中を何度も巡った名前だ。
それがルビアが探している人だと。
大切な人間だと言っていた。
「厳密に言うと、ルビアが探しているのは奥さんの方なんだって。奥さんは元貴族の人らしくて、ルビアが幼い頃とてもお世話になったって————どうしたの? イノ」
セシリアは説明している最中に、イノの様子がおかしいことに気づく。
オスカーもアイナもイノの異変に気づき、作業を止める。
「だめだ……」
「え?」
突然の拒否の言葉を、他のメンバーは聞き取ることができなかった。
イノの顔は暗く、体が小刻みに震えている。
「ルビア、もうお前帰れ」
イノはかつてないくらいに低い声を出して、ルビアに言い放つ。
さっきまでのちょっとした軽口がまるでなかったかのように。
「二度とここに来るんじゃない」
突然のイノの言葉にルビアもチームの三人も動揺する。
こんなにあからさまに誰かを拒絶するイノを、ルビアもチームメンバーも今まで見たことがなかった。
「き、急にどうしたの!?」
「ひどいよ! そんなこと言うなんて」
セシリアとアイナがイノのあんまりな言動に抗議する。
しかし、イノの態度は変わらなかった。
これ以上、ルビアをこんなところに居させるわけにはいかない。
「……私の行動が煩わしかったなら、素直にそう言ってくれ」
ルビアは苦々しい声を出す。
彼女は自分が悪いと思っているのだろう。
そんなことはないと弁明したいところだったが、今のイノには考える余裕がなかった。
素直になんて話せるわけがない。
今のクルトに、彼女を会わせるわけにはいかなかった。
ただ乱暴にルビアのことを突き放す。
「いいから帰れ!」
「何も言わずに拒絶されるのは納得いかない! 訳を話してくれ!」
ルビアはイノが突き放そうとしても引かない。
真っ直ぐとイノのことを見るのだった。
その純粋な視線をイノは受け止めることができず、目を伏せる。
「私の初めての友人なんだ……」
ルビアはイノに訴えかける。
その目には涙を浮かべていた。
「こんなことで、もう会えなくなるなんて嫌だ!」
彼女の声が、訴えが、イノの胸に刺さる。
ルビアは何も悪くない。
だが、彼女を遠ざける必要があった。
このまま、事実を、現実を知ってほしくない。
彼女の大切な探し人が『自爆魔法士』となること、その魔石を、イノ達が作ること。
これを伝えてしまえば、全てが壊れてしまうだろう。
「なんとか言ってくれ、イノ……!」
みんなの視線が、イノの元に集まる。
しかし、イノは何も言えない。
ルビアを帰らせるだけの咄嗟の理由が思いつかなかった。
ただ、ルビアに頼むしかない。
頼む。
今は帰ってくれ。
イノが心の底から、ルビアに懇願している、その時だった。
「何やら,騒がしいですなぁ」
空気を読まず、教室のドアが開かれ、男の声が聞こえる。
そこに立っていたのは、帝国軍人であった。




