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第22話 昔と今の友達

「そんなことがあったとは……」



 ルビアは自分の経緯を話し終える。


 話し終えるまで、三人は黙って聞いていてくれた。



「あれからもう三年だ。この不安定な帝国の情勢の中、追放された彼女の行方は未だ分かっていない……」



 現在の帝国の治安は決していいとは言えない。


 年頃の女性が一人で生き抜くにはかなり厳しい世の中だ。



 ましてや、元貴族家の令嬢である。


 もし身分を知られるようなことがあれば、どんな扱いを受けるか分からない。



 酷い目にあっているかもしれない。


 一人で泣いているかもしれない。



 あるいは、どこかで死んでいるかもしれない————



 大好きだった私の友人が、私のせいでそんな目にあっているのは、到底耐えられないのだ。



「だから、『アルディア』の巡回業務(パトロール)を……?」



 私は兄上に無理を言って、治安維持の一環として巡回業務を買って出ている。


 帝国士官になってある程度自由に動けるほどの地位を得るために、並々ならぬ努力もしたつもりだ。



 それもこれも、彼女の手がかりを得るためである。



 ルビアは街を歩いている最中、常に周囲に気を配っていた。


 街行く人の言葉に聞き耳を立て、それらしいことを喋っていれば話を聞きに行った。



 その情報を頼りに、次の日は東へ、またその次の日は西へと、至る所に場所を変えて行った。




 二週間ほど前に、イノと闇組織の一部を取り締まったのも情報を得たからだ。



 『アルディア』の中で()()()()()()()()は、全て探し尽くしたつもりだ。


 それでも見つからないのであれば、残るは日当たりの悪い場所のみ。



 闇に関わるところに、彼女がいるのではないか。



 ルビアは日に日に焦りを増していく心を押し込めながら、調査に赴いた。




 イノと共に鎮圧した廃工場で得た、()()()()()()()




 これしかないと思ってしまった。



 彼女は、ここに囚われているに違いないと————




「あまりに雲を掴むような話ですね……そんなことをしていたらきりがない」



 そんなことは、ルビアでも分かっていた。


 だが、何かをしていないと気が済まないのだ。



 世間知らずな私が犯してしまった罪は、これだけでは(あがな)えない。



「私自身、時間がいくらでもあるわけではない。焦ってしまっていたんだ……」



 近々、大規模な作戦が開始されるという話も聞いている。


 ルビアがその部隊に編成されるかは決まっていないものの、もし招集されれば、戦場に行かねばならない。



 そうすれば彼女を探す時間も短くなってしまう。


 だからこそ、私の身を削ってでも必ず、彼女を保護しなければならない。



「ルビアは悪くないよ」



 ルビアが浮かない顔をしていると、アイナが近寄って声をかけてくれた。



「……私は償わなければならないのだ。あの日私が奪ってしまった日常を、取り戻さねば————」



 償ったところで、彼女は私を許さないだろう。


 今までの地位も生活も、愛する人との日常も、全てを奪ってしまったのだから。



 それでも、私は彼女に生きていてほしい。



 まず、彼女に会いたい。


 会って、また話がしたい。



 もう一度、あの日みたいに————




「うーんよし!」




 セシリアは勢いよく立ち上がって、背筋をうんと伸ばす。



「そうなったら、絶対に探し出さないといけなくなったね!」



 セシリアが肩をぐるぐると回して、とても張り切った様子を見せていた。


 オスカーが彼女の言葉に、頷いて賛成する。



「そうですね! これもお客様の願いです! 優秀なこの僕にかかれば————」



「うん! みんなで、ルビアの願いを叶えてあげよう」



 アイナもいつもとは違う、とてもはきはきした様子でオスカーの言葉を遮った。



 三人ともやる気に満ちていた。


 ルビアを助けようとしてくれていた。



「ちょ、ちょっと待ってくれ!」



 ルビアは慌てて彼らを制止した。



「これは私の問題なんだ! 君達を私の都合に付き合わせたくはない」



 ルビアと第七兵器開発部は、あくまで顧客と専属技師の関係だ。


 これ以上、ルビアの個人的な事情に、みんなを巻き込みたくはなかった。



「もうここに来るのはしばらく控えようと思っていたんだ。イノは嫌そうな顔をするし、みんな忙しそうだから……」



 ルビアは自分の目元が熱くなるのを感じる。



 人探しなんて明らかに専属魔法技師の仕事ではない。


 これ以上迷惑をかけて、彼らの仕事を妨害するのは嫌だった。



 しかし、セシリアはルビアの言葉を一蹴する。




「何言ってんの」




 セシリアの言葉に、ルビアはぱっと顔を上げる。



 みんなは笑顔でこちらを見ていた。




「私達、もう友達だよ」




 アイナがルビアの手を取る。


 そして、小さな手で優しく包み込まれた。



 彼女の温度が伝わり、とても温かい。




「友達の力になりたいのは、当たり前の感情なんだよ」




 アイナ達とルビアの関係は、もう客と技師というだけでは説明できない。


 もっと深く、そして温かい関係。



 つながりなのだ。



 その温もりがアイナの手を伝って、ルビアの胸に届く。



 友達の熱が、ルビアの張り詰めていた心をゆっくりと溶かしていった。



 その瞬間、嬉しいような切ないような感情が込み上げ、涙が自然と流れ出ていた。




「ありがとう……アイナ、セシリア」



 

 私はみんなを見くびっていた。



 第七兵器開発部の人達はこんなにも優しく、情に厚い。



 やはり、彼らは嫌われるような人間ではない。


 この工廠内に彼らの優しさを言いふらしたかった。



「まあ、イノが嫌な顔をするのはデフォだからね」



「もともとあんな顔なんですよ、リーダーは」



 セシリアとオスカーはいつもの軽口で、その場を明るくしてくれた。



 不思議と、自分の顔に笑みが戻ってくる。


 セシリアとオスカーはイノについて勝手なことを色々と言った後、ルビアの方に向き直った。




「さて、何から始める?」




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