第214話 真実に最も近い
通信部隊、戦争情報記録小隊。
その存在を、ずっと特別作戦に向き合ってきたイノだけが知っていた。
それが、この審議における切り札である。
こんな奴に最後に頼るのは癪なので、できればそれ以前に判決を覆すことができればよかったのだが、こうなってしまえば仕方あるまい。
「うちの部下はこういうもんの管理が杜撰で、たまにどこにいったか分からんくなる時があんのよ。探すの苦労したんだぜ? それに————」
ラルフはいつもの調子で、口角を釣り上げて見せる。
「いいタイミングだろ? ここで逆襲と行こうぜ」
ギルベルトが近くにいる部下に指示し、その録音テープの確認を行う。
音響魔法の準備が執り行われ、審議場内でラルフの持ってきた物証の検証が始まる。
*
『総員! 詠唱————』
『!!?』
『うわあああああっ!!?』
『な、何が起きたんだ!?』
『……っ!』
『や、やばいぞ!』
『誰か!? 誰かああああ!』
『このままじゃ作戦どころじゃないぞ! 地面に叩きつけられて犬死だ!!』
————
『ルビア!!』
『怪我はないか?』
『早急にここを離れるぞ。これからアイナ達を安全域まで連れていく』
『ダメっ! 魔石を落としてしまったの! まだ術を発動できてない!』
『いや、いいんだ』
『え?』
————
『よ、よくないよ! このまま作戦が失敗したら、私は今まで散っていった多くの人達を、その家族を裏切ることになってしまう!』
『大丈夫だ。アイナ』
『魔法は必ず発動する。イノを信じよう』
*
音響魔法を通して、戦場の声が審議場に響き渡る。
収音部分に風が当たっているのかノイズがひどいところもあるが、確かにアイナ達『エンゲルス』、そして帝国軍准尉、ルビア・アマデウス・ニューロリフトの声がそのテープには入っていた。
「いかがでしょう。これで、パップロート准尉が故意に戦線を離脱してはいないことの証明になりますでしょうか?」
審議場、主に旧体制派の方で動揺の声がいくつか聞こえてきた。
『ライト・ピラー』に代わる新魔法は完成していたのか————それが、誰の許可もなくすり替えられていたということか————確かにニューロリフト准尉であれば、魔石を土壇場で交換することも可能か————
憶測も含め、数々の議論の種が一気に膨れ上がっていく。
またあの娘が、という声も、どこからか聞こえてきた。
「確かにのう……このわしが実の娘の声を聞き違えるはずもない。この魔法に吹き込まれている声は間違いなくニューロリフト准尉のものじゃろう」
「!!」
うおおおおっ! という驚嘆の声が審議場に響き渡る。
ギルベルトもその声が自分の娘のものであると言い切り、それに対して神像も罰を下さない。
これにより、イノ達の持ち出した証拠が、嘘偽りないものであるということが確定した。
弁護側、イノ陣営の顔が明るくなる。
そうだ。
この審議が真実を追求するものである限り、そもそもイノ達が負けることは絶対にないのだ。
なぜなら、イノ達がここにおける真実に最も近いところにいる。
たった一つ、それを証明するものがあるだけで、イノ達の主張をひっくり返すことはできなくなる。
審議場にいる人間が、そのことを理解し始めていた。
一人を除いて————
「い、異議ありだ!」