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第209話 Aの罪

 審議の準備が整った。



 ここからは、事前に決められた形式に則り、審議が進行していく。




「まずは審議の対象者よ、名を名乗りたまえ」




 ギルベルトが壇上からアイナに問うた。



 最初に行われるのは、審議対象の確認。


 その人物が、本当に今回の議題にあがっている人間かどうかをはっきりさせるものだ。



 アイナはその小さい口を開く。




「帝国軍准尉、アイナ・パップロートです」




 彼女から発せられた声は、いつものアイナの声だった。


 別段、元気でも、弱っているわけでもない普通の声。



 それでも、イノはアイナが心配になったが、ここはグッと堪える。



 こんなことで狼狽(うろた)えているわけにはいかない。




「准尉は、今回の審議対象として間違いないか」



「はっ! 間違いありません」




 ギルベルトの確認に、イノ達の向こう側、旧体制派の軍人の一人が、通る声で返事をする。



 巻き髪で綺麗に整えた髪型をしているその男は、如何にも貴族の出身であることが見て分かった。




「では、准尉に問われている罪について聞こう」




「はっ! 私、ディーデリヒ・ツー・クラネルトより報告させていただきます!」




 先程と同じ軍人が、懐から羊皮紙の書状を取り出す。



 自身の胸の前で広げた後、一つ咳払いをし、それを読み上げ始めた。




「当官、アイナ・パップロート准尉は、第十四次特別作戦において、作戦内容からはるかに逸脱した行為を行った後、戦線から許可なく離脱しました。准尉の行いは作戦の失敗に大きく加担するものであり、当作戦の重要性を考えると、帝国の安寧を著しく損なうものでありました。よって、アイナ・パップロート准尉をA級戦犯とみなし、極刑に処すべきであると主張します」




 旧体制派の軍人によって、アイナが『A級戦犯』であると主張された。



 『戦犯』には、それぞれA、B、Cの三つの種類があるわけだが、この中でもA級は非常に重大な戦争犯罪とされており、主に帝国の平和、秩序を著しく脅かすもの、という位置付けで使用される。



 なお、この基準は『ウォル・フォギア帝国軍』独自のものらしく、他国ではまた別の基準で戦犯が決められると聞く。




 つまりはこの規則も、帝国の独りよがりなものだということだ。


 我が身かわいい旧体制の頃の帝国軍が決めた規則を、いまだに使用している。



 そもそもその軍規で、アイナが裁かれること自体がおかしいのではないか。



 しかし、そんなことを今更、この場で主張することほど意味のないことはない。




「罪状は把握した。ならば、准尉に問おう。この罪を認めるかね?」




 続いて、審議対象に罪状の認否の確認が行われる。


 ここで、言い渡された罪状を認めれば、審議は終了となる。



 だが、もちろんここで終わらせはしない。



 アイナが口を開く前に、ディルクが風を切るかのように手を挙げた。




「それについては、弁護人、ディルク・シャハナーから罪状の否定をさせていただきます」




 審議場にいる全員の視線が、突然声を発したディルクの方に向けられる。



 中央で下を向くアイナも、少しだけこちらに反応を示した。




「では、弁護人の意見を聞こう」




 向かい側の旧体制派の軍人達があからさまに嫌な顔を浮かべているのを無視し、ギルベルトが発言を促す。



 ディルクは一歩前に出て主張を続けた。





 ここからが本当の勝負の始まり。





 最も勝ち目のない裁判の始まりであった。





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