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第207話 ヘクセ・フェアブレ

 目の前には、無機質な白い廊下がまっすぐ伸びている。



 飾り気のない床と壁を見ていると、どこか空虚な気分になり、景色がぼんやりとしてくるような錯覚を覚える。


 現実感がなく、自分がここに何をしに来たのかも忘れてしまいそうになる。



 どこまでも清潔で、どこまでも殺風景。



 公正な場所に相応しい『白』の空間。



 清い者には安らぎを与え、(かげ)りがある者には圧を与える。




 この場所特有の雰囲気だ。




 その廊下を進んでいけば、やがて大扉に辿り着く。



 木製の荘厳なその扉は、現実と夢想を分かつかのような近づきがたい威圧感を放っていた。



 事実、開け放ち、一歩踏み出せば、別世界。





 両手に力を込め、大扉を開け放った。





 先ほどの圧迫感から一転して、広大な空間が目に飛び込んでくる。



 数十人、数百人は入れそうな広さで、天井が高い。



 正面には大きな天秤を持った神像。


 その手前に一際大きな()()




 中央にある人一人が立てるくらいの壇をコの字に囲むように、軍服を着た人間がずらりと並んでいる。




 ここは審議所。



 帝国のあらゆる不祥事や罪人、その行く末を決定づける場所。




 『ヘクセ・フェアブレ』である。




 全ての事柄は、全てここで終了する。



 これまでに何人もの極悪犯、戦争犯罪人、国家反逆者がここで裁かれ、善悪の決定が必ず行われてきた。



 『ヘクセ・フェアブレ』の地下には牢獄も死刑台も設置されており、悪と見なされた人間がここから出られたことはない。




 全て、ここで完結する。




 周囲の光景に圧倒されていると、向かって左側に立っている青年、ディルク・シャハナーに手招きされた。



 イノ達は、音を立てないように早歩きで移動し、ディルクの横に並ぶ。




「……一分遅刻だな」



「審議が始まるまであと五分あるだろう。時間通りのはずだ……」



「緊張感を持つんだな……お前達とあの娘の運命は、ここで決まる」




 緊張なんてとっくのとうにしている。


 着慣れないスーツを着ている横のセシリア、オスカーの二人もそうだろう。



 ここでイノ達が勝てなければ、一巻の終わりだ。




 イノは少しでも呼吸をしやすくしようと襟元を弄り、正面を向く。



 鉄の柵で仕切られた対岸には、帝国軍の旧体制派の軍人や貴族が揃っていた。



 その中には、テーリヒェンの姿もあった。


 特別作戦の担当官のため、この場に出席しているのは当たり前である。



 テーリヒェンは貧乏ゆすりをしていて、明らかに不機嫌そうであった。


 自分がここに招集され面倒なことになっているのが嫌なのだろう。



 周囲を険しい表情で見渡していたテーリヒェンは、イノと目が合うとこれでもかというほどの睨んできた。



 これが終わったら、一体何をされるか分かったものではないな。



 イノの脳裏に不安がよぎるが、それを一瞬で掻き消す。


 後のことは終わってから考えるべきだ。



 この場で一体何ができるのかは分からないが、最善を尽くさねばならない。



 大切な人を守るために。




 イノがそう気を取り直していると、先ほどイノが入ってきた大扉が再び開かれた。




 入ってきたのは、アイナだ。




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