第204話 親愛なる敵
白銀の鎧に陽炎のように漂う赤い魔素粒子。
『赫星』、赫耀の騎士。
帝国軍准尉、ルビア・アマデウス・ニューロリフトが突如としてそこに現れた。
二つの集団の中心に降り立ったことで、声を上げていたエルステリア人も、発砲しようとしていた帝国軍人も、その勢いは削がれる。
ルビアは双方を観察した後、帝国軍側、銃隊の方を向いた。
そして、声を張って警告する。
「彼我の戦力差が分からないのか! このまま集団が暴走すれば、一般人にも被害が出るぞ!」
両陣営とも、突然の出来事に混乱している。
公爵家の令嬢に銃を向けることなどできない。
兵士達は、銃を下ろすか下ろさないかでおろおろし始めた。
「な、何をしている!? 早く撃たんか!」
「し、しかし、射線上に准尉殿が……!」
「な、なにぃ!?」
思いがけない状況に、テーリヒェンも顔を顰める。
誰もが戸惑っている中、当の本人はただ冷静に警告を続けた。
「相手には強力な魔法士がいるやもしれない。そうなれば、こればかりの戦力では太刀打ちできないぞ。刺激するのは危険だ」
兵士達に向かってそう言い放ち、背を向ける。
そして、エルステリア人の抗議集団と向かい合った。
一通り見渡し、集団の中央————セシリアと目が合う。
ほんの一瞬だけ、彼女の目が細くなったような気がした。
「ここは私に任せろ」
ルビアはそう言うと、胸の前で両手の掌をパンッと合わせる。
すると、炎の壁が帝国軍本部の前に現れた。
とてつもない熱量と大きさの障壁が、銃隊とエルステリア人の集団を断絶する。
それは、エルステリア人達から帝国軍本部を防衛するもの、それでいて、銃隊の発砲を阻み、エルステリア人の命を守るものでもあった。
「賊共、この私が相手をしよう」
ルビアは剣を抜き、それをエルステリア人達に向けた。
テーリヒェンのように汚いものを見るような表情でも、ただ命令に従う兵士達のような無機質な表情でもない。
彼女の表情は、彼らに真摯に向き合おうとする、実に真剣なものであった、
「いいね」
セシリアは笑みを浮かべる。
なるほど、そう来るか。
それが、あんたがとった選択肢というわけね。
突然の軍のエースの来訪に狼狽える集団の中、セシリアは前に出た。
そして、地面に拳を突き立て、渾身の気合を込める。
『内燃術式』
真っ赤な魔法陣の中心で、セシリアの体がみるみると赤い輝きを放つ。
エネルギーが放出され、腰に巻いた上着が強くはためいていた。
セシリアの運動能力は数倍に跳ね上がる。
最初は憧憬だった。
相手は有名人で、自分とはかけ離れた存在だと思っていたから。
でも、話してみたら、ちょっと世間知らずなただの女の子。
大事な親友になった。
だからこそ、通じ合う。
今は、立場によって分たれた帝国軍人と反乱分子。
敵同士だ。
でも親友だから、お互いのことを思い合える。
ここで何をすべきかが分かる。
セシリアとルビアの視線が絡み合う。
二人の考えていることが噛み合い、自然と心が高鳴っていた。
おもしろい……!
「ルビアとは一度……真剣に戦ってみたかったんだよね!」
「————いざ、尋常に勝負!」
セシリアが数倍に膨れ上がったスピードで飛び出し、ルビアとぶつかった。