第197話 話
アイナ達、第14次『エンゲルス』の秘匿死刑執行日まで、残り四日。
イノ達、ディルク、ラルフ、ウラさん、そしてエルステリア人達『革命連合』は、話し合いの末、革命の実行日を秘匿死刑執行日の前日に設定した。
イノ達は連日集合し、朝から晩まで念入りに計画を練った。
目標を達成するために何が必要か、何を準備して、そのためにどれほどの時間が必要か。
当日、どんな段取りで、誰がどうするのか。
元より、こういう革命運動は成功率が低いものだ。
失敗すれば何も残らず、成功すれば歴史の片隅に刻まれる。
そもそも何がどうなると革命が成功したと言えるのかも曖昧だ。
偉い人がうんと頷けば成功なのか、正式な文書が発布されれば成功なのか。
あるいは、数十年単位で、エルステリア人達の独立が認められて初めて成功なのか。
何を目標とするのかも、全員でしっかり話し合う必要があった。
そして、全員が同じ目標を目指して、成功の確率を少しでも上げようと必死になった。
もちろん、話し合いは壁に付箋を貼り付けて、立って話を進めるイノ達のスタイルで行った。
最初は、みんな困惑していたが、やっていく内に徐々に慣れていき、話し合いが進んだ。
試してみて改めて分かったことがあるが、この手法には、初対面の人間、あまり話すことが達者でない人間でも、コミュニケーションを加速させることができるという利点があった。
各々が自分の意見を筆跡で残す必要があるので、基本的に参加する人間が均等に意見を出す構成になっている。
話をする中で、相手の為人が分かり、考え方も分かった。
話し合いが進むにつれて、イノ達の進む方向が一つになっていくのが感じられた。
それからは、少しでも作戦の成功率を上げるために、『ダンテ』で協力者を募った。
街にはイノの知らない色々な人がいて、色々な話ができた。
思った以上にアイナ達の噂は『ダンテ』の中で広がっており、この死刑は不当だと、同じように考えている人間がほとんどであった。
多くの人がイノ達に賛同し、協力してくれることになった。
もちろん非協力的な人もいたが、決してイノ達のことを無碍にはしなかった。
門前払いになることもなかったし、ましてや暴力を振るわれることも全くなかった。
今まで、ずっと今まで。
イノは自分が憎まれているものだと思っていた。
人を爆弾にする悪魔であると、エルステリア人の大半の人に思われているものだと思っていた。
だが実際は、イノが考えているようなことは一つも起こらなかった。
結局、イノが勝手に勘違いしていただけなのだろう。
人はどこまでいっても人で。
人種も考え方も何もかも違っても、口がついていれば話ができる。
話ができれば、誰とでも分かり合える可能性がある。
話さえできれば————
脳の片隅でそんなことを感じながら、時間は矢のように過ぎ去っていった。
そして、決戦当日。
イノは最後に、ルビアと相対することとなった。