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第192話 決起

「————ちょっと、待ってくれないか?」



 そう言ったのはイノだった。


 場の空気に水を差すように、手のひらを突き出して制止した。



「考え直したい……本当にその方法しかないのかということを」



「おいおい、お前がそんなこと言ってたら始まらんだろうが。お前が得意な()()()()()()()ってやつでちゃんと考えたのか?」



 ラルフが揶揄(からか)うようにイノに問う。


 だが、彼のそんな煽りを聞き入れられる心境ではない。



「もし、その作戦を実行した場合、帝国に住むエルステリア人全員が、帝国軍の敵になる」



 地区『ダンテ』にいるエルステリア人は、『エルゼウス同盟』の元、帝国軍の庇護下にある。


 しかし、エルステリア人が自ら叛逆の意思を見せれば、軍も黙ってはいないのではないか。



 確かに帝国軍にとって今、エルステリア人に危害を加えることは、自分達の首を絞めることになる。


 だがそれはあくまで理屈であって、感情的に動いた帝国士官の一人が、エルステリア人達に対して攻撃を始めないとも限らない。



 それが起こり得ると考えるほどに、イノは帝国軍人が優秀な人間ばかりではないことを知っていた。



「俺————俺達だけならまだしも、全く罪のないエルステリア人達を命の危険に晒すわけにはいかないじゃないか」



 その言葉にセシリアもオスカーも表情を歪ませる。


 ラルフも気に食わねえとでも言いたげな表情でそっぽを向いた。



 帝国軍の中には、元よりエルステリア人に対して嫌悪感を抱いている者が多い。


 どんな制裁が待ち受けているか分からないのだ。



 そんな状況で、エルステリア人のみんなに無茶をさせるわけには————




「イノ君」



 その時————



 いつの間にか後ろにいたウラが、イノに声をかけてきた




「ウラさん……」



「あなたは、魔法技師として、これまでずっと自分の正しさを貫いてきたでしょ」




 彼女の優しい声音が、すっとイノの胸の辺りに入ってくる。



 どこか温かいものと共に、イノの中に過去の情景が浮かび上がった。



「道を間違えたり、挫けてしまったりしたこともあったけど、それでもあなたの中にあるその正しさだけは失うことはなかった」



 闇の力を借りようとしたこともあった。


 誰かを殺そうとしたこともあった。



 それでも、イノは今生きて、自分の正しいと思う道を歩んでいる。



 それは、イノのことを見てくれている人がいたからだ。


 今までのイノを知り、これからのイノに期待してくれる人がいるからだ。



「みんなその姿をちゃんと見ているから。あなたは自分が正しいと思ったことをやりなさい」



 間違っていたら、行く先を訂正してくれる。


 後戻りしようとしたら、振り向かせて前に進ませてくれる。



 そして、このように背中を押してくれる。



 イノは周りにいる自分の仲間を見た。



 セシリアとオスカー。


 ずっと一緒に頑張ってきた俺の仲間。



 誰よりも信頼している彼らも一緒に、背中を押してくれるのなら。



 きっと、俺の進む先は間違っていない。




「————やるよ、アイナを救うために」




 イノは決意した。



 何度目かも分からない、アイナを救い出すという決心を。




 セシリアもオスカーも、イノを見返して頷いてくれた。




 その様子を見たウラは満面の笑みを浮かべる。



 そして、胸の前でパンと手を叩いた。




「よし! そうと決まれば————みんな入ってきて!」




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