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第177話 落ちていく光

「ルビア!!」



 アイナの体を支え、飛行術式を用いて空中に留まっているのはルビアだった。



 それは、アイナが今まで見たことのない姿。



 ラフな私服姿でも、深紅の軍服姿でもない。


 完全武装の白銀の装備をつけた戦闘体勢。



 長い赤髪をたなびかせ、戦場を舞う『赫星』



 光り輝く騎士、最強の兵士がそこにいた。




「怪我はないか?」




 口を開くと、いつもの優しいルビアだった。


 顔を上げて周りを見ると、他の仲間達も帝国軍の飛行魔法士によって救助されている。



 一体、何が起こっているというのだ。



 地獄への片道切符しか渡されていないアイナ達に、救助部隊など用意されているはずもない。


 まるで、アクシデントが起こることが予期されていたかのような展開だった。



 ルビアは飛行魔法士部隊に合図を送り、移動を始める。



「早急にここを離れるぞ。これからアイナ達を安全域まで連れていく」



 眼下は、既に戦場になっている。


 帝国軍が強大な魔族軍に対し、火属性魔法を行使してなんとか抗戦していた。



 このまま、私達はここから逃げていいのか……?



 いや、いいわけない。



 アイナは必死にルビアの服を引っ張った。



「ダメっ! 魔石を落としてしまったの! まだ術を発動できてない!」



「いや、いいんだ」



「え?」



 アイナの言葉を無視し、真っ直ぐと戦線から離脱しようとする。



 地上で戦っているのは、アイナ達を信じて戦っている人達だ。


 彼らにはみんな、帰りを待っている家族がいる。



 アイナ達が、必ず魔族達を殲滅してくれると信じて、必死に戦っているのだ。



 彼らだけじゃない。



 帝国中の誰もがこの作戦が成功することを願っている。



「よ、よくないよ! このまま作戦が失敗したら、私は今まで散っていった多くの人達を、その家族を裏切ることになってしまう!」



 私にも優しく接してくれたクルトさんやその家族。


 ダンテ園のお爺さんと無邪気な子供達。



 そして、何よりもイノを裏切ってしまうことになる。




 ルビアはそれを分かっているのだろうか?



 ひたすら服を引っ張るのだが、ルビアは止まってくれない。



 その時————




「!!」




 ルビア達の目の前に大きな影が現れる。


 アイナがハッとして見上げると、そこには化け物が三体、アイナ達を囲んでいた。




 漆黒の大きな翼。


 吊り上げた口角の端から見える鋭い牙。



 ヴァンパイア。



 翼を持ち、空を飛べることで有名な大型の魔族だ。



 体の表面は鉄のように固く、使用する魔法も非常に強力だ。


 少なくともB級以上の魔法士複数人で対処すら必要がある。



 それほど、危険な個体であった。




 間違っても、人一人を抱えたまま対抗できるような相手ではないはず……



 アイナは咄嗟に叫んで、ルビアに危険を伝えようとした。




「あぶな————」




 警告を発そうとしたその瞬間————



 ルビアからとてつもない魔力が発せられるのを感じた。



 そして、目に見えない程の速さで剣が抜刀され、一瞬の熱が顔の前を通り過ぎる。



 反射的に目を閉じてしまったアイナがその目を開けた時、そこにいたはずのヴァンパイアが両断されていた。



 それも三匹同時に、一瞬で。



 魔法士が束になってかかっても勝つのが難しい強大な相手を、たった一振りの剣で無力化した。




 そして、ルビアは剣を進行方向にかざす。



 目の前には飛行型の魔族の大群が行手を阻んでいた。



 無数の魔族を睨みつけるその目が、徐々に赤く染まっていく。


 それと同時に彼女が纏う魔力のオーラが次第に増していった。



 魔力の全開放。



 剣をかざした先に巨大な魔法陣を展開する。




 そして、次の瞬間、魔法陣の上で膨れ上がった熱が超高出力の熱線となって目の前に放たれた。




 向かって行く魔族、退避しようとする魔族、その全てがルビアの放った魔法に飲み込まれて行く。



 全てを白い光の中に包み込み、溶かしていく。




 魔法が終わり、視界が夕方の空の風景に戻ると、ルビア達が進む先に魔族はいなくなっていた。




「すごい……!」




 とてつもない破壊力だ。


 これほど強力で、こんなにも綺麗な魔法を、アイナは今まで見たことがなかった。



 これが『赫星』と謳われた最強の兵士の力。



 単騎で中隊規模の魔族群を殲滅したと言われる軍のエースの力なのか。




「大丈夫だ。アイナ」




 ルビアはアイナに声をかけると、飛行魔法で再び前進する。



 彼女の瞳には希望の光が宿っているように見えた。



 何かを信じる強さがあるのだ。




「魔法は必ず発動する。イノを信じよう」




「イノを……?」




 その言葉をすぐには理解できなかった。



 アイナ達の手から離れた魔法が発動するとはどういうことだ。


 それに、イノを信じるとは……?




 昨日からずっと、予定外のことが起こってばかりだ。



 昨夜、セシリアが押しかけてきたり、本番になって魔法が発動しないアクシデントとこうなる事が分かっていたかのようなルビアの助け。



 一体何が起こっているというのだ。



 そういえば、あの魔法が発動できなかった魔石。


 てっきりアイナ達が何か間違っているのかと思っていたが、そうじゃない……?



 イノは決して、動かない魔石をアイナに渡したりはしない。



 じゃあ、あの魔石は想定通りに動作をしているということ……?



 アイナ達を拒絶したのも、青く発光したままひとりでに落下して行くのも全て正常だということなのか。




 だとすると、まさかーーーー




 一つの可能性にたどり着き、アイナは落ちていった魔石の方に目をやる。



 青く輝く一つの点が、魔族達の海に吸い込まれようとしていた。




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