第174話 道の先にあるもの
夜が明けてからは早かった。
部屋で待機していると、担当の士官が呼びに来る。
特に説明もなく黒いローブで顔を隠され、詰め込まれるかのように軍の装甲車へと乗せられた。
車には先に、アイナの部下にあたる『エンゲルス』のみんなが搭乗していた。
他のみんなも黒いローブに包まれ、よく顔が見えなかったのだが、おそらく明るい顔をしている者は一人もいないだろう。
搭乗してから程なくして、装甲車はゆっくりと前進を始める。
そのスピードは目的地に急ぐものではなく、人間が歩行する速度程度に合わせていた。
英雄達の出発を讃えるパレードが始まったのだ。
装甲車を護衛するかのように、帝国軍人達が取り囲み、行進を始める。
フードを目深に被せられている上に社内の窓も小さいため、外の様子をうかがうことは難しい。
だが、パレードの喧騒は伝わってきた。
国民達の激励の声、必ず祖国の領地を取り戻してくれるという厚い信頼を感じる。
何も知らない帝国民。
全てを知った上で、悲哀の目を向けてくる同胞。
様々な思惑を張り巡らせる軍上層部。
ただの余興だとしか思っていない貴族達。
そして、希望を持って見送る、大切な仲間達。
あらゆる人達が、様々な思いを背負って、アイナ達を見送っている。
それに、アイナ達が手を振り返すことはなかった。
ただ、道が続く。
延々と、大樹の幹のような枝分かれのない道が続いていく。
枝を刈り取って別れのない道は、交わることのない道は。
たった一つの素に、終着点に向かっていくことだろう。
人間の稀有なつながりのように。
魔素の神秘的な反応のように。
その先は暗闇が広がっているのか、それとも————