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第164話 落とし穴

「な、なんだこれは……!」



 ルビアが目を見開いて固まっている。



 ルビア達が早足でたどり着いた場所は、帝国軍本部の北側。


 特別作戦用の格納庫があるはずだった。



 しかし、そこは————



「な、何もねぇ……」



 そこはもぬけの殻だった。


 本当に物と呼べるようなものが何一つない、ただの空き倉庫であった。



 何もないどころか、兵士すらいない。



 ここにくるまでに何人か帝国軍人の姿を見たが、その数はこの倉庫に近づくに連れどんどん減っていった。



「嘘だ……確かにこの指令書にはここにあると……」



 イノ達も先ほど一緒にその指令書を見ているので、確かにそう書かれていたのは知っている。



 指令書に書かれていた場所には何もない。


 これが意味するのは、多分一つだ。



「まあ————ダミーの情報だったってことか」



 ルビアがかなり焦っている中、イノは冷静だった。



 指令書がたまたま間違っていたとは考えにくい。


 ならば、その格納庫の場所が嘘だったってことだろうと、イノは考えているようだ。



「ダミーの情報ですか?」



「ああ、万が一に備え、誰かに戦略魔導兵器の場所を悟られないようにな」



 恐らく他の兵士の指令書にも、また別々の場所が記載されているのだろう。



 それくらい、やりかねない。


 ルビアもそれを確信していた。



 指令書の一番上に書いてあるあの名前。


 特別作戦の最高責任者。



 ヴィルヘルム・アマデウス・ニューロリフト。



 ()()()()ならルビア達のような工作を想定して、重要な書類に嘘を含ませるようなこともやってのけるはずだ。



「じゃあ、本当はどこだっつうの?」



「多分、この作戦の重要関係者のみしか知らされていないんだろう」



 重要関係者とはすなわち、先程セシリアが殴り飛ばしたテーリヒェン。


 そして帝国軍最高司令官、または軍の上層部などなど。



 情報はそれくらい制限されていてもおかしくない。



 魔石の在処、そしてアイナの居場所を知るには、特別作戦の指揮を取る上層部の人間から聞き出す必要があるだろう。



「だが……流石に現実的じゃないな、それは」



 ルビアは顔を(しか)める。



 そんな面々に今から頼み込んで、簡単に格納庫の場所が分かるとは思えない。



 そこまで情報に制限をかけているということは、軍内部でもその格納庫の場所を秘匿しているということだ。


 いくらルビアが公爵令嬢と言えど、一介の軍人には場所を知ることはできないだろう。



 それに————



「もう、時間がない……!」



 ルビアは懐中時計を取り出して、時間を確認した。


 現在時刻は、二十三時三十分を示している。



「え、それはどういうことですか?」



 オスカーが時間を気にするルビアを疑問に思い、その意図を聞いた。



 作戦に参加する部隊がパレードを行い、『アルディア』を出発するのは明日の昼頃の予定だ。


 アイナ達の出立までは、まだいくらか時間はあるはず。



 イノ達はそう思っていただろう。


 だが、それ以上にイノ達に残された時間は少ない。



「深夜零時を回ると、軍本部への出入りが制限される……そうなれば、もう私達は身動きが取れない」



「!!」



 予想だにしていなかった状況に、イノ達は少なからず動揺する。


 ルビアは事前にそれを話していなかった。



 沈んだ顔をして、ルビアは頭を下げる。



「すまない……指令書に偽の情報が書かれていることを想定していなかった私の落ち度だ」



 本来は、本部の制限がかかるギリギリで潜入し、少しでも守衛達の疲れと気の緩みがあるところにつけ入ろうと考えていた。


 だが、格納庫の場所が分からないのであれば、それ以前の問題だ。



 本部の出入り制限がかかるまで残り三十分。


 今から機密情報を軍上層部からなんとか手に入れて、アイナのいる『エンゲルス』の武器格納庫の場所を特定する。



 どう考えても時間が足りなかった。



「格納庫の場所さえ分かれば、どうにかなるんだが……」



「時間が足りなさすぎる……何か場所を一瞬で特定する方法があれば別だが……」



 そんな都合のいい方法があるはずもない。



 やってしまった……ヘマをした。


 まんまと()()()()の策略にハマってしまった。



 いや、あの人のことだ。私のような反逆者の行動がお見通しすぎて策とすら思っていないかもしれない。



 みんなを奮い立たせて、先導してここに来たというのに、その結果がこのザマとは……




 どうすれば————



 どうにかして、この状況を打開せねば————




 どうしようもない焦燥に、額の汗が吹き出してくる。



 だが、その時難しい顔をしていたのは、ルビアただ一人だけだった。




「……やむを得んな」



「ええ、しょうがないですね」




 オスカーはひと息吐くと、その四角縁の眼鏡を外した。


 彼は目を固く瞑ったまま、三人の前に出る。



「……何をする気なんだ?」



 もうこれ以上手は尽くせない。


 ルビアはそう思っていたのだが、イノ達は何かをしようとしていた。



 三人の前に躍り出たオスカーの様子はいつもと違う。


 声をかけても、ルビアの声が届かないくらいに彼は深く集中していた。



 雰囲気の違うオスカーの姿に、ルビア達は自然と静かになる。




 オスカーは胸の前で印を結んだ。



 そして、数秒間の集中の後、目をカッと見開く。




 その瞬間、オスカーの魔力が解放された。




「うわあ! な、なんだ!?」




 ビリビリとしたプレッシャーがオスカーの周りを包む。



 オスカーの目が虹色に光っていた。



 突然、様子が一変したオスカーに、ルビアは目を見張る。




「分かるか? オスカー」




「えっと……見つけました! あちらの方向に光属性エレメントの残滓があります」




 右手で印を結んだまま、もう片方の手でその方向を指し示す。


 ルビアにはそこに何があるのか、全く何も見えなかった。



「行ってみましょう」



 オスカーは徐に歩き出し、空っぽの格納庫から出ていく。


 イノとセシリアも何の疑問も持たずについていくので、ルビアも必死に後を追いかけた。



 オスカーは何をしたんだ?



 魔力を解放して、突然雰囲気が変わった。


 彼の眼は虹色に輝きだし、何かが()()()と言い出して、それを追いかけ始めたのだ。



 一体何を見ていたのか。



 光属性エレメント……魔法の残滓を感知した?




 それって————



 ルビアはその能力に、心当たりがあった。





「まさか————魔眼!?」





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