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第149話 依頼者の指摘

「なあ、イノ。『展開術式』の大きさはこれが普通なのか?」



 『展開術式』とは、魔法発動時に魔力光とともに浮かび上がる円状の図形や魔法文字式のことである。


 魔石に刻まれた術式が魔力に反応して展開し、魔法が現実世界に顕現するまでの処理を行うのだ。



 基本的には、魔法技師達の開発した術式がそのまま展開され、開発時の術式の規模に応じて 『展開術式』も大きくなる。



 イノはルビアの問いに首肯する。



「ああ、軍用魔法の規格通りだ」



「もう少し、小さくはできないか?」



「……できると思うが、それはどうしてだ?」



 思ってもみない提案だったのか、イノは少し困惑の色を見せる。



 今まで言われたこともない意見だったのだろう。


 イノ達の担当士官があの豚男(テーリヒェン)であることを考えると納得である。



 ルビアは一呼吸置いてから、自分の考えを述べた。



「この魔法の術式はもっと大きくなるのだろう? だとすると、術者の視界の妨げになる可能性がある」



 戦場に出る魔法士は、魔法発動時も常に周囲を警戒しなければならない。


 魔法の発動という無防備な状態から逸早く敵の攻撃を察知し、回避行動を取らなければならない。



「『エンゲルス』の戦場は、常に周囲を敵が囲んでいる状態になるはずだ。何よりもまず、周りが見えていた方がいい」



 大きな展開術式は、術者の視界を奪ってしまう。


 周りが見えていなければ、回避が遅れ、被弾してしまうかもしれない。



 前々から気になっていたことであった。



「なるほど……目から鱗ですね」



 オスカーが感心する。


 実際の戦場を経験した魔法士の意見は、イノ達にとって新鮮なものだった。



 ルビアはこの場で有意義な意見を言えたことに、ちょっと嬉しくなる。



「確かにルビアの意見は最もだろうな。軍の規格からは外れることになるが、その提案を取り入れよう」



 軍の意向から外れるなんて今更だしな。


 イノはそんなことを付け足して、鼻で笑う。



 手近にあった付箋に『展開術式の縮小』と書いて、黒板に追加した。




「……ちょっと」




 その時、セシリアが小さく声を発し、オスカーの袖を引いていた。


 オスカーの耳に顔を近づけ、ヒソヒソと耳打ちする。



 しばらく、二人で話をした後、オスカーは黒板の付箋を整理するイノの元に向かった。



「あ、あの、リーダー」



 オスカーの呼びかけに、イノが反応する。


 彼の様子は、どこか挙動不審だった。



「次は何に手をつけますかね……?」



「ん? とりあえずはこの修正だな。その後は術式の改良を進めていく」



「なるほど……あ、はい、分かりました」



 オスカーはヘコヘコした様子で戻っていく。


 そしてまたセシリアとヒソヒソ喋る。



 二人の挙動はかなり怪しかった。



「ええ……別にこのまま術式を進めてもいいような気がしますが……」



「ああ、はい……まあそうですね」



「なんで僕が言いに行かないと————い、いった……!」



「分かりましたよぉ……もうほんとにぃ……」



 オスカーの声が微妙に絞り切れていなく、優れた聴覚を持つルビアには筒抜けだった。



 二人はコソコソとした話し合いを切り上げ、オスカーが再びイノの元へ赴く。



「リーダー、ちょっといいですか?」



「なんだ?」



「術式の改良の前に、魔石の構築に取り掛かってもいいんじゃないかと……」



「まあ……反論はないが、どうしてそう思うんだ? オスカー」



「いや……僕じゃなくて、その……」



 オスカーは短くまとめた青髪の後頭部を掻く。 


 四角ぶちのメガネの奥にある瞳は、後方のセシリアの方に泳いでいた。



 それを見てイノも察したのか、大きく溜め息をつく。



「確かに、魔石の構築は時間もかかるし精密な作業が求められる。早いうちに手をつけて慣れておいてもいいだろう」



 イノはそう言って、黒板の中から該当の貼り紙を剥がし、明日行う作業一覧のところに付け加えた。



「————そう伝えてくれ」



「そうですよね……はい」




「いや、ちょっと待て」




 流石にもう黙って見てはいられない。



 ルビアはオスカー、そしてセシリアの腕をガシッと掴んだ。




「「え?」」



「……ちょっと二人には来てもらうぞ」




 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている二人に構わず、強引にその手を引く。




 これは緊急事態だ。



 ルビアは引き摺るようにして、二人を教室の外に引っ張り出していった。




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