第146話 とある英雄譚
古の時代。
人々が冒険者として大陸を開拓していた時代がある。
大陸には未開の地が無数に存在し、山脈、森林、ダンジョンなど、人が手付かずの土地がほとんどだった。
そこには、魔族、魔獣といった敵も数多く蔓延っていたとされている。
そんな大陸でかつての冒険者達は、それぞれの夢や目標を持って、危険生物達に立ち向かった。
剣や魔法を駆使し、自分たちよりも強大な敵を倒し、未知を既知に変えていったのだ。
だが、歴戦の冒険者達でも、成し遂げるのが難しいこともあった。
その最たるのが、竜殺しである。
竜はこの世界の中で、最強の魔獣であった。
何人もの冒険者が竜に挑んだものの、その圧倒的な力に返り討ちにあったとされている。
かつての軍師が数年にわたる念入りな長期計画を経て、竜討伐に挑んだことがあった。
その軍師はとてつもなく優秀であり、穴のない完璧な作戦を立案することで有名であった。
だが、どれだけ完璧な作戦を立てたとしても、竜には勝てなかった。
原因は竜が戦いの中で成長し、形態変化を繰り返すからである。
竜の討伐が困難を極めるのは、討伐対象である竜自体が日々成長し続けることにある。
いくら優秀すぎる軍師といえど、竜の突発的な形態変化を予測する術は持ち合わせていなかった。
だからこそ、軍師は竜に敗れたのである。
そんな竜を打ち倒したのは、かつての勇者。
最強と言われていた竜を、たった三人で討伐したとされている。
三人の勇者はそれぞれ、剣術、魔法、その全てに長けていた。
刻一刻と変化する戦局に、流動的に対応していった。
戦闘中に何度も話し合い、剣を交えるごとに修正していく。
そのようにして、三人の勇者は戦いの中で、竜と同じく、いや、竜以上に成長を続けたのだ。
そして、繰り返す成長の末、遂に竜を打ち破ったのである。
この話は英雄譚として、現在も語り継がれている。
ルビアの大好きな話の一つだった。