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第140話 術式を壊す

()()()だ」



 イノが椅子に座って放心状態になってから五分。


 ようやく、口を開いた。



 数分ぶりにイノから発された言葉は、ルビアにとって聞き馴染みのないものだった。


 他の二人の様子を伺ってみても、あまりピンときている感じではない。



「どういうことなんだ? イノ、一体何があったというのだ?」



 ルビアは怪訝な顔をして、イノに聞き返す。



 片付けの途中で散らかったままの教室は、妙に静かな雰囲気を保っていた。


 イノは未だ滲み出る汗を拭いながら、ルビアの質問に答える。




「分かったんだよ。エルステリア魔法士を一人も殺さずに、魔族軍を止める方法が」




 あまりにもイノがさらっと言うので、その場の誰もすぐには反応できなかった。



 それってつまり————




「どういうこと!?」




 すると、ルビアの隣にいたセシリアが身を乗り出した。


 訳が分からないといった様子で、イノに鋭い視線を向けている。



 感情が揺れ動くのも無理はない。


 この一ヶ月間、イノ達は血の滲むような努力でアイナを救う方法を模索していた。



 ルビアもイノ達の苦労は知っている。



 そして、失敗した。


 現実に打ちのめされた。



 昼にここに訪れたルビアは、この教室の惨状と弱りきったイノの姿を見ている。



 そんなイノが、この一日で別人のように変わり、新魔法の糸口を見つけたと言い出したのだ。


 一体、何があって、何を考えているのだろう。



「敵を殲滅するには、エルステリア人魔法士七人分の命を燃やすほどの魔力量が必要なんでしょ? それを一体どうやって用意するってんのよ!?」



 セシリアは強い語気でイノを問いただした。


 だがイノは反論してくるかと思いきや、セシリアの主張に頷いていた。



「ああ、それ自体に間違いはないよ。魔族軍を消し去るには、魔法士の犠牲は避けられない」



 犠牲なしに殲滅は不可能だろう。


 あっけないくらいあっさりと、イノは現実を認めた。



 三人とも空いた口が塞がらなかった。



 何だというのだ。


 犠牲は避けられないというのなら、イノは何が言いたいのだろう。




「じゃあ、どうやって————」




「魔族軍の殲滅はできないが、()()()()()ことだったらできる」




 室内がまた静かになった。



 術式を壊す……?



 確かに術式が動かなければ、魔法はその効果を維持できないだろう。


 だがそれは、魔族軍を滅ぼすことと等価(イコール)ではないのだろうか。



「そ、それは、どういうことなんだ?」



 困惑しながら、ルビアはイノの発言の意図を聞く。



 すると、イノの視線はルビアではなく、隣にいるセシリアとオスカーの方を向いた。




「俺達は見ただろう? 実際に、魔術が壊れる瞬間を」




 その言葉は、開発チームである二人に向けられていた。



 しばらく時間が経った後、オスカーが何かに気づき、息を呑む。




「まさか……新型『ライト・ピラー』の検証がうまく行かなかった時のことを、言っているのですか?」




 衝撃を受け、おぼつかない足取りでイノに近づく。



 結合(インテグレーション)試験の時のことは、ルビアにも覚えがある。



 試験の失敗。


 新型魔法が機能しない。



 残酷な現実の前に、抜け殻となったイノ達。




 その全ての原因は、魔術が壊れていたからだと。




 イノはオスカーのその問いに頷く。




「そうだ。あの時、『ライト・ピラー』は確かに壊れていたんだ」




 イノは椅子から立ち上がり、まだ散らかったままの室内を歩く。



 そして、書類や魔法器具の破片の山に向かう。




「実際には、この魔石から出た『魔法量子線』によって術式が壊れた」




「……!」




 散らかった残骸を掻き分けて、取り出したのはイノ達が開発した魔石。



 光を閉じ込め、増幅する魔石だった。




「これは————『量子』は、全てのつながりを壊す」




 イノは、詳しく話し始めた。




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