第137話 つながる
あれ?
俺、今なんて言った……?
『量子』はあらゆる物質と相互作用を及ぼす。
ワークスが何度も俺に教えてくれたことだ。
それがどうして今更こんなにも引っかかる?
ルビアにもっと説明したいのに、これ以上前に進まない。
そもそも、何でそんな話になったんだっけ。
人間は魔法に似ていて。
魔法は人間に似ていて。
どこが似ているかといえば。
つながり。
人同士はつながることで、世界に存在している。
つながることで、様々な形を作り、様々な影響を及ぼす。
人は一人だけじゃなくて。
二人だけでもなくて。
この世界にたくさん居て。
その全てが必ず誰かと互いにつながり合っている。
でも、つながりは永遠とは限らなくて。
別れはいつも突然訪れる。
例えば、光のような眩しい人がいて。
世の中全ての人間に影響を与えるような人もいて。
それが、つながりを作ったり、壊したりすることもある。
魔法も同じで。
何かのタイミングで。
『量子』のような万物に影響を与える存在が。
つながりを形成し、そして断つこともある。
けど、魔法も人間も一人では生きていけないから。
この世に存在できないから。
つながりを求めて。
また誰かとつながろうとして。
誰かとぶつかったり。
他の人間を押しのけたり。
誰かを引っ張って連れていくこともあったり。
そうして、また別れが生まれる。
別れは、再びつながりを生み出す。
別れとつながりは伝播していき。
世界が形を変えていく。
再形成されていく。
つながり。
別れ。
繰り返される現象。
世界を作り替える過程。
どうしてこんな話になったのか。
それは————
人間と魔法が、こんなにもよく似ているからだ。
その瞬間、イノの頭のどこかが弾けた。
脳神経が無理やりつながったような感覚。
脳内物質が溢れ出て、止まらなかった。
「ワークス……まさか……!」
イノは目を見張る。
あまりの衝撃に震えが止まらなかった。
こんなことを。
こんなことを、あいつは考えていたというのか。
もしそうだとすれば、全ての辻褄が合う。
全てがつながっていく感覚だ。
ワークスがどうして人間に例えて魔法を語っていたのか。
イノにこの恥ずかしい本を残したのはなぜか。
あの発言も、この論文も。
全ては収束する。
あいつが俺に伝えたかったのは————
「ど、どうしたんだ? 急に固まって————イノ……?」
イノは道端で固まっていた。
太陽が落ちてから数分経っており、もう空に明るい部分はなくなっている。
説明の途中で急に立ち止まって喋らなくなったイノを、ルビアは心配そうに見つめていた。
だが、イノの耳には届かない。
止めどない思考の濁流を制御するのに必死だった。
脳内物質を掻き分け、その先にある何かを必死に掴もうとしていた。
「イノっ!!」
ルビアに体を揺さぶられ、イノはやっと我に帰る。
そうだ……ルビアに説明している途中だった。
この分からず屋に早く言ってやらないと。
そう思い、ルビアに向き直って口を開こうとするが、うまく言葉が出てこない。
説明文の一言一句を考えるのを、渦を巻く思考の波が邪魔する。
まるで、イノを逃さないように。
目を背けるな、と言われているかのように。
「確かめなくちゃ……!」
この可能性を、逃しちゃいけない。
心のどこかで誰かがそう叫んでいるような気がした。
それを聞いた瞬間、イノの体は勝手に動いていた。
「イ、イノ!?」
イノは突然走り出す。
目の前にいたルビアの腕を強く掴んで。
「一緒に来てくれ!」
「ちょっと!」
今度はイノがルビアの手を引いた。
イノとルビアの腕は力強くつながれている。
確かめなくちゃ。
人間の、いや、魔法のつながりの可能性ってやつを。
確かめられるのは、あそこしかない。
イノの向かう先は、『ベックス工廠』、第七兵器開発部であった。




