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第129話 魔法量子

 ワークスの言っていることをすぐには理解できなかった。



 光は、波であると。


 光の正体が、海が作り出すような波だとは到底思えなかった。



 すると、ワークスは紙とペンを用意し、いつものように図を書き始める。


 先程行った実験の略図だった。



『これは波動性を持つ物質が生み出す縞模様なんだ。波はこのような隙間に当たると、()()と言って後ろに回り込むような現象を引き起こす』



 今度、海に行って試してみるといい。


 ワークスはイノに提案する。



 彼がそこまで言うのなら、そういうものなのだろう。


 確かに実験で使用された紙には縞模様が現れているのだから、光はワークスの言った通り、波動性を持っていると考えられる。



『でも、この現象に惑わされて本質を見誤ってはいけない。イノが最初に言ったとおり、光はエレメントである以上、魔素を核とした()()で構成されているのは間違いないんだ」



 未知の物を無闇に遠ざけては行けない。


 それはよく見てみれば、自分の知っているものかもしれないからだ。



 ワークス曰く、今の魔法学者は光の『波動性』という神秘に魅入られ、光もエレメントの一つだという本質を見失っているという。


 だが、『波』であり、『粒子』であるということはいったいどういうことなんだろうか。



 ワークスは実験の略図を書いた紙の裏に、『波動性』、そして『粒子性』の二つの単語を書いて丸で囲む。




『すなわち光は、波動性と粒子性の二つの性質を持つ物質で構成されていると考えられる。僕はこれを()()()()と呼ぶことにした』




 ワークスは目をこれでもかというくらいに輝かせていた。



 彼にとってこの発見はそれほど大きなものなのだろう。


 いや、彼の中のみならず、この世界全てにおいて。




『イノ、これは可能性の塊だよ。この魔法量子という存在は自然界の全てを支配している法則と言っても過言ではない。魔法量子をもってすれば、この世の全てを理解することが可能なんだ』




 『魔法量子』は自然界の全てを支配している。



 この世のあらゆる物も、つながりも。




 全て、『魔法量子』が知っている。




 ワークスはそんな壮大なことを言っていた。



 初めて聞いた概念であり、それがそんなに大層なものだとは、当時のイノには到底思えなかった。



 まさに光のようなワークスの思考に、イノは追いつくことができない。




 十年近くの月日が経った今でも。





 イノとワークスが議論を交わしていると、部屋に誰かが入ってくる。


 その女の子は目を擦りながら、お兄ちゃんと掠れた声を出していた。



『アイナ! 起きたのか!』



 ワークスは幼き頃のアイナの元に駆け寄る。



 アイナはワークスの懐に抱きついた。


 おなかすいた、とワークスに甘えるアイナ。



『もうそんな時間か……そうだね、ご飯にしようか!』



 そう言いながら、ワークスはアイナをギュッと抱きしめた。


 アイナは心地良さそうに目を瞑る。



『魔法量子の可能性は無限大だ。それはこの世のあらゆるつながりを作るものかもしれないし、あるいは引き裂くものかもしれない。でも————』



 ワークスはアイナを安心させるように頭を撫でる。



 太陽のような笑顔で懐のアイナに告げる。




『にいちゃんとアイナのつながりは、何にも引き裂かせないから』




 仲睦まじい兄妹の姿がそこにあった。




 それを、イノはただ見ているしかなかった。




 こんな日々がずっと続くと思っていた。



 だが、世界が、時代が、現実がそれを許さなかった。



 この世の全てが、二人のつながりを否定したのだ。




 そして俺は、ワークスの魔法でアイナを————




 イノは、手を伸ばす。



 目の前にいるワークスとアイナに。



 それは過去の記憶で、いくら手を伸ばそうとも手に入れることはできない。




 嫌だ。



 こんな現実を認めたくない。




 必死の思いで、イノは手を伸ばすが————




 その手が届くことはなかった。






「……ノ……イノ!」






 イノは、我に返った。




 そこは教室の隅だった。



 足の踏み場もないほど、イノ達が培ってきた物の残骸が散らかった場所で、ただ一人うずくまっている。




 そこで、ルビアがイノに手を差し伸べていた。





「私と、デートしない?」




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