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第127話 教室の隅

 窓からうっすらと日の光が入る。



 太陽が昇るにつれて、教室の中が徐々に明るくなっていった。


 すると、昨日の惨状が生々しく現れ始める。



 文献も魔法具(デバイス)も何もかもが床に落ちている状態。


 ちゃんと立っている机や椅子は一つもなく、あちこちに散らばったそれらが床や壁を傷つけている。



 教室内は荒れに荒れていた。



 イノ達が希望を持って作業していた面影は何一つない。


 光の増幅に成功して喜んだ瞬間も、一週間寝る間も惜しんで真剣に取り組んだ時間も。



 全て、消え失せていた。


 抜け殻のような空間がそこにあった。



 その時、教室の扉がガラガラと音を立て、ゆっくりと開かれる。



 荒れた机と椅子を掻き分けるような音を立てながら、気配がこちらに迫ってくるのが分かった。


 知っている足音だった。



 ()()はイノの目の前で歩みを止める。



「イノ————」



 その人物はルビアだった。


 いつも通りの長い赤髪に暖色の私服。



 何も変わらない彼女の姿がそこにあった。



「……ひどい顔だね」



「……」



 口調だけは、いつもとは少し違う優しいものだ。



 イノは教室の隅でぼろぼろになって座り込んでいた。


 口元の傷の血を拭うこともせず、虚空を見つめている。



 声をかけてくれているルビアに、イノは何も返答しない。


 生きているのか死んでいるのかも分からない状態だった。



「……何があったかは、今更聞かないよ。この日がやってきて、君がそんな顔をしているんだから」



 イノは言葉を発さず、教室にはルビアの声のみが響いている。


 開けっ放しにしている窓から、風の音が聞こえてくるくらいだ。



 全てを投げ打っても何もできず、この日が来ることを指を咥えて見ていることしかできなかった。


 挙げ句の果てにメンバーに酷いことを言って、()()()()()を犯してしまったイノは、自分がどうしてここにいて、息をしているのかも分からずにいた。



 全てが夢だったらどんなにいいか。


 虚空を見つめる行為は、ただの現実逃避に過ぎないと分かっているのに、どうにかして醒めない悪夢から逃れようとしている。



 そんな、地球上の誰よりも醜くて情けないイノを、ルビアはただ優しい目で見つめていた。




 二人の間に、時が止まったかと思うほど、ゆったりとした時間が流れる。



 ルビアは少しだけ迷ったような表情をした後、意を決したようにイノに呼びかけた。




「ねえ、イノ」




 ルビアは地面に座るイノに手を差し伸べる。


 白い朝日に照らされた彼女の頬は、少しだけ赤く染まっていた。




「私と、デートしない?」




<リファクタリング(改稿)期間のお知らせ>


これにて、第3章が終了になります。


第3章部分の改稿・調整をしたいと思うので、数日間、お休みしたいと思っております。


お休みの期間は、3/10~3/16を予定しています。


次話投稿は3/17からです。



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