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第125話 壊れていくものと壊せないもの

「あんたのせいだよ……」




 セシリアは顔を伏せながら、呟くように言った。




「あんたの設計が悪いんだよ!」




 そして、何かが爆発するように、セシリアは顔を上げ、イノに指を差して叫んだ。


 その言葉に、イノは目を見開いた。



「セシリア!!」



 オスカーが咎めるように声を上げる。


 だが、セシリアはもう止まらない。



「あんたの設計はいつも緻密で完璧を求めてくる……まるで自分が一番正しいと言わんばかりに! そんな無茶な要求と切羽詰まったスケジュールに追い込まれるこっちの身にもなってよ!」



 セシリアの口から濁流のように自分を責める言葉が出てくる。


 今までずっと溜まってきたものが、吐き出されるかのように。



 イノは、叩きつけられる言葉を受け止めきれず、呆然とそれを聞いていた。



「あたしはベストを尽くした! できること全部やって、大事なものまでこの開発に注ぎ込んだのに! それでもできないなら設計が悪いってことじゃない! 自分のやることが全部正しいと思ってんじゃねえよ!!」



 不満が一気に爆発し、イノにぶつけられる。



 そんなふうに思っていたのか……



 信じていた仲間に、このように思われていたことが素直にショックだった。


 そして、じわじわと腹の奥底から熱いものが迫り上がってくる。




「お前だって……! お前だって、仕事がいつも雑なんだよ!」




 イノは体を震わせながら、湧き出す激情を言葉にした。



 イノにだって、セシリアに思うことはあったのだ。



 リーダーであり、こんな状況だったから、口には出すまいとしていた。


 今は魔法の開発が最優先だから、チームの和を乱すわけにはいかないと。



 しかし、そんな理性ももう吹き飛んでしまった。



 こうなってしまっては、イノの口も止まらない。



「大雑把に魔石やデバイスの調整しやがって! お前に合わせてどんだけ術式を調整しないといけないと思ってんだ! 半端な仕事するくらいだったら魔法技師なんてやめちまえ!」



「言わせておけば……!」



 セシリアはイノに飛びかかった。



 室内に散乱している椅子や机に二人の足が当たり、ガタガタと音を立てる。


 一瞬、セシリアに押し倒されそうになったイノだったが、どうにか踏ん張って抵抗した。



「また暴力か!」



「あんたが分からずやだからでしょ!」



 セシリアが物凄い力で押してくる。


 だが、女に負けるほどイノも貧弱ではなかった。



 地面にあるあらゆるものを跳ね除けながら、二人はお互いの胸ぐらを掴んで睨み合う。


 今にも殴り合いが始まりそうな状態だった。



「二人とも本当にやめてください!」



 オスカーは二人を引き剥がそうと、再び間に割り込もうとした。


 二人を押し除け、仲裁を図ろうとしたのだ。




 だが、二人とももう引くに引けなくなっていた。




 そして、イノは思わず力を入れて、オスカーの手を振り払い、体を押してしまった。




 イノに押されたオスカーは、体勢を崩し後ろによろけた。


 姿勢をコントロールできず、そのまま後ろにあった机にぶつかってしまう。




 ガタンと大きな音をたて机が揺れ、机の上にあったオパール製の魔石が零れ落ちた。




 まるで時が遅くなった気がした。




 自由落下の法則に従い、みるみると地面に近づいていく魔石。




 そして、地面と衝突した魔石は、ぱりんと、ガラスのような音をたて、割れた。



 破片が散らばり、イノ達の足元にまで転がってきたのだった。




「はっ————!」




 オスカーが必死の形相でそこに飛びつくが、もう遅い。


 魔石は虹色の破片を教室にばら撒き、跡形もなく砕け散っていた。



「そんな……代えはもうないのに」



 新魔法用の魔石は現在用意しているので、全てだった。


 追加の素材発注はしていない。



 イノは血の気がサーッと引いていくのを感じる。



 やってしまった。



 感情に任せて……俺は……!



「オスカー……!」



 イノがオスカーの方に手を伸ばして、声をかけようとした。


 その時、魔力の波動が正面から押し寄せる。



「————今すぐ、二人ともこの場から出て行ってください!!」



 オスカーは魔力を解放した。


 魔法による圧力が、二人を魔石の周りから遠ざける。



「俺は————」



 イノはそれ以上言葉が出てこなかった。


 オスカーの泣きそうな目を見たら、もう何も言えなくなってしまった。



 セシリアが口元を押さえ、教室の扉を開けて出て行く。



 それにさえ、イノは何も声をかけられなかった。



「俺……は……」



 行き場の失った腕をだらんと降ろし、その拳を強く握りしめる。



 もう何も言うことはない。


 出ていくしかなかった。



 イノはセシリアが乱暴に開けて出て行った扉を再び開け、静かにそこから出て行った。






 そこからは地獄だった。





 メンバー全員、何一つ口を聞くことなく、ただただ時が過ぎ去っていく。




 壊れてしまったものは、元には戻らない。



 割れた魔石のように、たとえ破片を掻き集めたとしても、完全に元通りにはならないのだ。




 バラバラになってしまった魔法技師達は、何の力も発揮できない。



 どれだけ一人で本を漁っても、術式を改良しても、割れた破片を組み合わせようとも。




 現実は何も変わらなかった。




 そんな中でも、残酷に時が過ぎていく。





 そして、イノ達は————




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