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第106話 調査開始

 イノ達の挑戦が始まった。



 作業量が一気に増え、休憩する暇も惜しく、四六時中教室内を走り回っているかのような忙しさ。


 暗くなってからも、工廠には第七班のところにだけ最後まで灯りがついており、時にはその光が朝まで消えない時だってあった。



 それくらい、イノ達は作業に没頭していた。




「この魔法、使えないかな? イノ!」



「これは……俺も少し考えたけど難しそうなんだ。主にここが————」



「リーダー! これとかどうですか!?」



「ちょっとあんた! 掃除用の魔法が一体何の役に立つっていうのよ!」



「ええ〜〜!? これすごいんですよ!? 油汚れとか全部魔法で浮かせて————」




 この日も、第七班は急ピッチで作業を進めていた。



 実際に開発に入る前にイノ達がしなければならないのは、この新魔法をどのように実現するかを考えることである。



 どんな魔法技師でも、何も考えず、何も用意せずに、何かを作り出すことは不可能だ。


 開発の方針、実現可能性を考え、素材、技術の調達、開発環境の整備などを行っていく必要がある。



 そこから必要な要件を洗い出し、大体の規模感を割り出す。


 そして、設計、開発、検証(テスト)にかかるそれぞれの工数を見積もり、スケジュールを引く。



 ここまでが開発に入る前にやっておかなければならないことだ。



 現在は、二人に手伝ってもらいながら、新魔法の開発の方針を決めるべく、資料集めをしているところである。



「イノ! この方法はどうかな?」



 また、イノのところにセシリアが走り寄り、ある資料を見せてくる。



「見せてみろ————なるほど、太陽光か」



 その資料には、太陽光を集めてエネルギーに変換しようとする実験について記載されていた。



 イノ達が実現しなければならないのは、光を増幅するということ。



 どのようにすれば光は強くなるのか、その方法を見つけ出すためにイノ達はあらゆる文献を探し、実現可能性のある方法や要件に合う魔法を探した。



「太陽の光を集めれば、魔族を倒すのに十分な光量を得られるんじゃないかな?」



「————いい発想だが、難しいかもな」



 イノは(かぶり)を振った。


 理由はいくつかあるが、最もこの案が難しい理由はこれだ。



「太陽光のような自然の光では魔族を倒せない。光は必ず人が作り出したものでなければならないんだ」



「ああ〜〜、やっぱりそうだよねぇ」



 自然の光と、魔法で作り出された光は性質が違う。



 そもそも太陽光で魔族が浄化できるなら、魔族はこの世界に現界(げんかい)できない。


 今、この世に魔法が存在するのは、魔法が自然とは切り離されたところにあるからだ。



 魔法で作り出された物体、()()を魔法士の用語では、()()()()()と呼ぶ。


 火、水、風、土————光や闇に関しても、自然界にあるものと()()()にあるものとでは全く別物であった。



 エレメントに対しては、エレメントでしか対抗できない。



 魔法士であるならば切っても切り離せない、この世界のルールだ。



「————だから、自然の光に頼ることはできない。俺達が模索しなければならないのは、一度発動した光魔法をどうにかして()()し、増幅することだ」



「そ、そんなことできんでしょ!」



 一回発動したものをちょっと待ってってキャッチするとか、それじゃ何のために魔法発動したか分かんないじゃん。


 セシリアの言い分はもっともだった。



 ()()()()()()



 光のエレメントが失われないように保つという課題は、今までの魔法の常識が通用しない、非常に困難なものだった。



 エレメントには、火ならばやがて燃え尽き、水ならば蒸発する、といったように、時間が経つにつれて保有する魔力量が失われていくという性質がある。



 それでも火や水ならば、そんなにすぐに魔力を失うことはないが、光属性のエレメントは別だ。



 光のエレメントは、空間に顕現した瞬間に霧散し、魔力が一気に失われてしまうのである。


 すなわち、光のエレメントを保持しようにも、発動した瞬間にエレメント自体が消えてしまうのだ。



 では、どうすればいいか。



「なんとかして、光を閉じ込める仕組みが必要だな……」



 光を閉じ込める。


 口では言ってみたものの、そんな離れ業ができるのだろうか。



 光をちゃんと扱ったことがないイノ達には、光の性質も、光魔法の構造も、ほとんど分かっていなかった。



 これは、イノ達が不勉強というだけではない。



 サラメリア人は火属性に適性のある人種。


 よって光属性魔法を扱うことはできないため、エルステリア人に協力を求めた。



 帝国が『サン・ミッセル王国』と同盟を結んでまだ五年である。


 しかも、今日に至るまでサラメリア人はエルステリア人を迫害してきた。



 研究も兵器開発も進むはずがない。


 帝国にとって光魔法とは、まだまだ未知の領域なのだった。



 すると、オスカーが挙手する。



「単純に箱に閉じ込めるとかじゃ駄目なんですかね?」



「試してみるか?」



 え? どうやって? というオスカーの疑問に答える前に、イノは机の引き出しから一つの木箱を取り出す。


 魔石納品用の箱で余ったやつだ。



 イノは箱を開け、底に簡単な魔法陣を描いた。


 蓋を閉め、セシリアとオスカーが見えるところに箱を移動させる。



 そして、イノは魔力をその箱に注ぎ、魔法を発動させた。



 魔力光に照らされたその箱は、しばらくすると箱の隅から光を発し始めた。



 しばらく中から漏れ出すように光を出し続け、一定時間経つとそれが収まる。



「オスカー、蓋を少しだけ開けて、中を見てみてくれ」



「は、はい」



 イノの意図が読めないオスカーは困惑しながらもその箱の蓋を少しだけ浮かせる。


 そして、その隙間を覗き込んだ。



「何が見える?」



「暗闇……ですかね?」



 箱の中は真っ暗だった。


 変化があるとすれば、魔法を発動したことで魔法陣が消えていることくらいだ。



「イノ、これが一体何なの?」



「今、俺が発動した魔法は光魔法だ。もし箱で光が閉じ込められるのだったら、その箱の中は明るいはずだ」



 あるいは、蓋を少しでも開けた瞬間に眩い閃光が出てくるか。



 いずれの現象も見られず、中身は暗いままだ。



 つまりは、光を閉じ込められていないことを意味している。



「魔法発動の際に光が漏れていましたし、箱の隅や空気の通りそうなところを塞ぐとかでは駄目でしょうか……?」



「多分、そんな次元の話じゃない」




 おそらく、これは光の性質の問題だ。




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