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第103話 エルゼウス同盟

 『エルゼウス同盟』



 我らが『ウォル・フォギア帝国』と、イノとアイナの故郷、『サン・ミッセル王国』の二カ国の同盟である。



 天使から生まれたとされるエルステリア人の国、『サン・ミッセル王国』は国としての力はそこまで強くなく、争いを好まない国家だった。


 だからこそ、帝国とクーダルフ人国の戦争には不干渉の姿勢を取っていたのである。



 それに対し、帝国は圧倒的な軍事力を誇示し、王国に半ば強引に同盟を取り付けた。


 同盟が締結され、王国のエルステリア人の約半数が、帝国に兵士として動員される。



 これは、イノ達の苦難の元凶でもあるが、帝国にとっては戦況を打開するための唯一の策であった。



 エルステリア人の得意とする光魔法。


 それはクーダルフ人の闇魔法に対し特攻を持っており、魔族を浄化することができる。



 光魔法の影響を受けた魔族は、()()()()()()()()()


 魔族の脅威の一つである、『生命力の高さ』を無効化できるのだ。



「————ですが、エルステリア人の魔法士を動員しても戦況は変わらなかったんです」



 戦況が変わらなかった理由。



 それは単純で、エルステリア人魔法士の()()()()()()()()()からであった。



 戦争を知らないエルステリア人は、魔族に対し圧倒的に力不足だった。


 たとえ弱点を突けたとしても、戦闘不能にするほどの力がなければ、敵を打ち倒すことはできない。



 今のルビアのような、火力に特化したエルステリア人魔法士はいなかったのである。


 彼らが徒党を組んでも、魔族一匹さえ碌に倒すことができなかった。



 当時の軍は再び焦燥に駆られ、一刻も早く魔族軍を退ける方法を考えなければならなかった。


 必要なのは魔法士の数や質といった次元ではもうなくなっており、より根本的に状況を変えるものが必要であった。



 より具体的に言えば、戦況をひっくり返す兵器、または『魔法』の存在が必要だった。




「……そこで考案されたのが、『エンゲルス』、魔力を暴走させる『魔力爆発』によって、エルステリア人を特攻させるための部隊だ」




「なんと……非道な……!」




 ルビアが苦言を呈する。



 同盟の話が始まってから、ルビアは明らかに怒っていた。


 彼女の顔は徐々に赤くなり、じんじんと音を立てて湧き上がる怒りが、空気を伝ってこちらに伝わってくる。



「そんな不条理なことがあっていいのか? 帝国の都合で、協力してくれる他国の人の命を使うなどあってはならないだろう……!」



「ルビア……」



 ルビアの肩にセシリアが手を添える。


 セシリアの心配そうな顔を見て、ルビアは我に返り、呼吸を整えた。



「すまない。取り乱してしまった……」



「いいんだよ。あたし達とエルステリア人のために怒ってくれてるのが分かるから」



 ルビアは溜め息を吐いて落ち込む。



 彼女の怒りは最もだ。


 イノ達はこの怒りを、この三年間ずっと心にしていた。



「しかし、まだ疑問はある。エルステリア人魔法士の魔力がその程度なら、たとえ特攻させたとしてもあまり意味はないんじゃないのか?」



 冷静な問いだ。



 そしてルビアの疑問は的を射ていて、当時のエルステリア人魔法士の『魔力爆発』では、魔族を一体か二体殺せるかどうかの威力だった。


 単純計算すれば、敵軍が一万なので、こちらも五千〜七千ほどの犠牲が必要となる。



 エルステリア人魔法士の数も限られているので、この方法では実現不可能だった。



「その時の全ての問題を解決するために、とある天才魔法学者が開発した魔法こそが、『ライト・ピラー』だったんだ」



 イノは黒板にとある魔法陣を描いた。



 魔法陣は術者の魔力を増幅させたり、あるいは封じたりなど、魔力の調節弁の働きを行うことが多い。


 魔法の練習として使用したり、複雑な魔法を発動させる時によく用いられる。



 そんな魔法陣でも、黒板に描かれたものはなんとも異質だった。


 陣の中心点から放射状に七つの円が出ており、刻まれた術式もただ魔力を増幅させるといった単純なものではなかった。



「これは出力増幅型七点魔法陣————『セブンス・シェルト』、魔法の出力を上げることができる術式だ」



 それなりの時間をかけて、黒板に描いた魔法陣をルビアに見せる。



 この魔法陣は術者が魔力を解放し、それを陣に沿って循環させるという構造になっている。



 魔法士達の魔力は、ある程度差がないように選出するにしても、どうしてもばらつきが出てしまうものだ。


 ばらつきがあると、魔力を複合した場合に魔法が安定せず、想定通りの出力を得られないのである。



 それをこの陣によって循環させることで、そのばらつきを(なら)す。


 こうすることで、魔法が安定、かつ高純度なものとなり、ただ魔力を複合させるよりも何十倍、何百倍もの出力を得ることができるというわけだ。



「ちょ、ちょっと待ってくれ。それはおかしいだろう」



 ルビアはさらなる疑問を提示した。



「魔法学に疎い私でも知っている。人間の魔力を、他の人間の魔力と複合させることはできないって。魔法の基本原則の一つだ」



 魔法は個人によって構成するものが違ってくる。


 遺伝子によって似通うことはあっても、唯一無二なものだ。



 もし、誰かの魔力が自分の魔力に混じってしまえば、他人の魔法に体が耐えられなくなり、細胞がたちまち崩壊してしまう。


 血液型の違う血液を輸血するようなものである。



 これは基本原則として、人間が魔法を生み出したはるか昔から分かっている事実である。




 だから、ルビアの指摘は何よりも正しい。



 しかし、イノは顔を暗くしながらルビアのその疑問に解を与えた。




「————だからこその、『自爆魔法士』なんだろうな」




「……!?」




 ルビアは目を見開いた。



 そう、魔力を複合できない理由は術者が死に至るから。


 元より、死ぬことを前提としていれば、その問題は問題にならなかった。



 この魔法を開発した()()は、魔法士が魔法を発動するという当たり前の考えをねじ曲げた。


 魔法士をただの()()とし、魔石に仕込まれた術式が魔法を発動させるという前代未聞の発明をした。



 魔力主義で凝り固まっていた当時の帝国軍には到底思い付かない。



 その魔力主義を、魔法原理主義に変えた革命の一手でもあった。



「一体、誰だ……?」



 ルビアは驚きを隠せないまま、イノに尋ねる。



「そんな魔法を作った、悪魔のような天才は……!?」



 彼女は体をふるふると震わせていた。


 そんな、人の心がないような魔法を作った魔法学者に、怒りを湧き上がらせているのだろうか。



 だとすれば、イノはルビアにさらに残酷な現実を突きつけなければならなかった。




 『ライト・ピラー』を開発した悪魔的天才。



 そして、帝国の魔力主義を覆し、魔法原理主義を提唱した革命的な魔法学者。



 そして、魔族軍から帝国を救った英雄。




「『ライト・ピラー』を作ったのは、アイナの兄、ワークス・パップロートだ」




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