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第八話 通り魔の標的

 誰もが寝静まった夜。 

 小川に架けられた小橋に奏衛門が立っていた。奏衛門は和服の袖から携帯電話を取り出し、誰かに電話をしている様子だった。

「ではやはり六堂組(ろくどうぐみ)の仕業だと?」

 重みのある奏衛門の声が夜の暗い空間で徐々に消えていく。彼の表情は悩みと迷いが混ざったような、そんな表情だ。

「はい、出来る限りは暴力沙汰にならないようにします」

  そう言って奏衛門は携帯電話を閉じて袖の中に仕舞った。


 夜も明け、日の出が見えてきた頃だ。

『昨夜大丈町で三十代の男性が何者かに殺されるという通り魔事件が起こりました』

 ニュース番組のアナウンサーがそう告げた。他人事のように、淡々とした口調だった。机の上に置かれた原稿を読んだだけ。そして次のニュースをまた淡々と伝えた。

 思い返せば、ここ最近は残虐な事件が多い。簡単に人を殺せる道具が買えたり、簡単に人を殺せる術を身につける事が出来たりする時代だからだろうか。

「いってきます」

 バッグを持ち、彰介は家を出た。今日はいかにも雨が降りそうな天気だから折り畳み傘も持っていくことにする。

 いつも通りにバス停まで行ってバスに乗り、そこから学校まで歩く。彰介が教室に入ると、数人の男子生徒が教壇の周りに集まっていた。教壇の上に広げられていたのは今日の新聞。きっと誰かが持ってきたものだろう。

 特に仲の良いわけでもなかったから、彰介は男子生徒の集団を無視して自分の椅子に座った。そして教科書を机の中に入れて、暇な時間を潰すべく本を読もうとした時だった。

「あ、これ今日の朝やってたよな。通り魔事件」

 一人の男子生徒が通り魔事件の記事に指をさした。その声を聞き、彰介はその生徒の方に耳を傾ける。凶器は刃渡り二十センチ前後のナイフで、被害者の胸部にピンポイントの刺傷があったという。被害者の所持品には手をつけた形跡はなく、単純な殺人目的だとして警察は調査を進めているらしい。

「後悔するぞ」

 あの時の誘拐犯の言葉を思い出した。もしかしたら、あの誘拐犯の仲間が通り魔事件の犯人で、何らかの脅迫の意味を表しているのではないか。と彰介は考える。

「考えすぎか……」


 下校時間に迫った学校はいつも慌ただしくなる。それはどこの学校も同じ事だろう。今日もいつも通り、蓬奈を連れて家に帰ろうとしたのだが、蓬奈が「商店街に行きたい」と言ってきたので、一緒に行くことにした。蓬奈が言うには五日後は奏衛門の誕生日らしい。そのプレゼントを今日買うと言うのだ。

 二人はつい最近商店街に出来たばかりの百貨店へ足を運んだ。商店街と言うと老舗の八百屋や魚屋などが並んでいるイメージだが、大丈町の商店街は少し華やかさもあった。そのため、若者達が多く立ち寄る場所でもある。 

 百貨店の店内は隅まで手が行き届いているらしく、とても奇麗な場所だった。開店から間もないという事もその理由となるだろう。

「あ、これとか良いかも……」

 蓬奈が手にしたのは数珠を小さくしたようなデザインのブレスレットで、一つ一つの球は青い透明のプラスチック製のもので作られていた。確かに和風の彼には似合う一品かもしれない。

 そんな中、彰介の携帯電話から電子音が流れた。店の中で出ようと思ったのだが、ここは狭い個人店。店員が少しこちらを睨んでいたように思えたので外に出ることにした。あまり店側の品位を落とさせたくはないのだろう。

「姉ちゃん、何か用?」

「学校から帰る際に醤油買ってきて。これ命令ね。忘れたらあんたの部屋にあるDVDとCDををカラス避けの道具にするから」

「……はい。買ってきます」

 相変わらず横暴な姉だ、と彰介は心の奥底で思った。けど姉の事は嫌いでも苦手でもない。逆にそんな姉でも彰介は好きだった。

 ふと百貨店の脇にある小道に彰介は目を向けた。薄暗くて、この先に何があるのか少し気になる道だ。彰介は好奇心と冒険心に負けてしまい、その道を進んで行った。行き着いた先は普通の路地裏。人気が少ない静かな道である。

 その時だった。何かが倒れる音がし、一体何だろうと彰介は音が鳴った方を見てみる。

 一瞬思考が働かなくなった。こんなもの見たのは、ドラマやアニメの架空の世界だけだったからだ。

 人が血を流してうつ伏せになり倒れていた。彰介は急いでその人の元へと走り、倒れている人を仰向けにする。その顔を見て彰介は目の前の出来事を信じたくなくなった。倒れていたのはとても親しい人だったからである。

「瑞樹……」

 血を流して倒れていたのは高瀬瑞樹本人だった。胸部に一つの傷。殺害手口は昨夜起こった通り魔事件と全く同じである。彰介は急いで携帯電話で警察に連絡をし、その数分後に警察と救急隊員が駆けつけてくれた。

 彰介の発見が早かった事から瑞樹はすぐさま病院へと搬送された。死んでいないという事実は正に不幸中の幸いである。

 

 人生二度目の長い取り調べが始まった。しかし、瑞樹が誰かに殺されかけたというショックから何を言って良いのかわからない状況にあった。警察の質問に全く応答が出来ないのだ。

「君、よく事件に巻き込まれるね」

 彰介の心境を察したのだろうか、一旦質問を止めて優しく語りかけてきた。その警官は以前誘拐事件で彰介の取り調べを行った人で、顔を覚えてくれていたらしい。けれど彰介はどこか遠い場所を眺めているような目をしていた。

「あのー、俺の名前は大木考一(おおきこういち)って言うんだ」

 あはは、と感情のこもっていない小さい笑い声を出しながら彼は名乗った。普通の警官はここで頭に血が上るであろう。きっと「黙っていないで質問に答えろ!」と怒鳴り散らすはずだ。けれども彼は怒らない。柔軟な性格らしい。

 そんな中、彰介の携帯電話が鳴り出した。

「電話に出ていいよ」

 と、警官は言ってきたので彰介は携帯電話を開く。掛けてきたのは蓬奈だった。

「ちょっと、今どこにいるの!」

「……交番」

「は? あんた何かしたの? そういえばさっきサイレンの音が鳴ってたけど」

「いや、あの……。とりあえず来てくれないか?」

 彰介はそう言うと、「仕方ないなぁ」と蓬奈は返してきた。さて、今回の件はどう説明しようか。いきなり「瑞樹が通り魔事件の被害者」とは言い難い。むしろ彰介はそんな事を言いたくない。きっと警官が上手い具合に説明してくれるだろう。そう願った。

「おじゃまします」

 蓬奈がやってきた。軽く頭を下げると、考一は少し驚いたような表情を見せる。

「あの時のお嬢さんか。どうぞどうぞ」

 考一は椅子を用意して蓬奈に座らせた。その後は二人にお茶を出し、彰介がこの場所に理由を蓬奈に話す。別に悪事は一切していない彰介だが、考一の説明を聞いていて辛くなってきた。

 考一の話を聞いていた蓬奈は黙り込んでいた。同級生が通り魔に殺されかけました、と言われ、さすがの蓬奈も言葉を失ったようだ。

 考一は腕時計を見る。時間も遅いし、何より彰介にこれ以上の質問を尋ねても無駄だろうと思ったのだろうか、考一は二人に「もう帰っていいよ、気をつけてね」と言った。

 

 日も沈みかけ、度々通りかかる家からはカレーや焼き魚などの夕食の準備をする匂いが漂ってきた。彰介も一応の心の整理をつけ、バス停まで歩く。

「ねえ、今度の休日病院に行って瑞樹ちゃんのお見舞いでもしない?」

 と蓬奈は提案をしたのだが、瑞樹はかなりの重症だ。見舞いどころではないだろうと彰介は思った。考えたくもないが、最悪の状況に陥る可能性もあるのだ。

「まぁ……。できたらな……」

 彰介はそう言った。それは小さな声で、すぐに周りの空気に掻き消されてしまいそうな。そんな声だった。

さて、瑞樹ちゃんの件なのですが、本来の物語上では死んでしまう役でした。

ただ瑞樹ちゃん自体、個人としても結構お気に入りキャラなので「殺すのもな・・・」と思って物語を急遽変更しました。

例え文章と言えど、人が死んでしまうというのは物語を制作してる私でも大変心苦しいところであります。

ただ、これではいけませんよね。今後小説を執筆していくかはわかりませんが、私事だけで物語を変えてしまうのは駄目ですね・・・。


余談ではありますが、最近色んな方に私の小説を評価して頂いています。改めて自分の書いたものを見ると「あ〜、結構ミスあるな・・・」って感じで後から小説を訂正したりしています。

『日々精進』この言葉の様に私もいつか素晴らしい物語が書けるようになりたいです。




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