第七話 映画館へ(後編)
前・後編の物語が終わります。
こういうのは初めてなので、少し戸惑いました。
外は熱かったが、ショッピングモールの中には冷房が効いていて寒いくらいだった。彰介は渇ききった喉を癒すべく、ペットボトルのお茶を一本購入しようとした。
「蓬奈、お前何か飲むか?」
「え? おごってくれるの?」
「……まぁ、うん」
例えわかっていてもそんな事言うなよ。と思いつつも彰介は蓬奈の分も購入。それを渡し、二階の映画館へ行くために二人はエスカレーターに乗った。
天井はガラス張りになっていて、一階と二階は吹き抜けになっている為、開放感がある。また白をテーマにした構造なので清楚感が溢れ出ていた。休日だから他の客も多い。店側からすれば大満足な程だろう。
彰介たちはエスカレーターで二階へ上り、映画館へと足を運んだ。
液晶画面や俳優の等身大ポスターで映画の宣伝をしていて、映画館の独特の雰囲気が漂う。その中に本日観るの予定の映画のポスターもあったのだが、ポスターだけでも見るのは避けたいデザインだった。彰介が極度に嫌がっているだけなのだろうか。そしてそのポスターの下部に白い文字で注意書きが書いてあった。
「ねえ、彰介。十八歳以下は保護者同伴じゃないと観られないって」
「十八歳でも一人じゃ無理って……。どんな内容だよ……」
「だってテレビCMを制作したらあまりにも刺激的過ぎて放送禁止になったくらいだもん。で、代わりに何を観ようか?」
蓬奈が訊いてきたので辺りに貼られているポスターを眺めた。個人的意見としてはアニメ映画を観たいところだけれど今回は蓬奈もいるということで止めておこう。
「えーっと、これとかどうだ?」
彰介は海外の大手映画製作会社の作ったものを選んだ。海外の某有名脚本家が、日本の文化に魅了され作られたものである。戦国時代を舞台にした実写映画だが、中身は少しSFチックで外国の特有の文化も少し混ぜられていた。その対照的な二つを題材にしたことでマスコミで大きく取り上げられて、前売り券は即日入手困難な状況になったという。
「いいよ。これ私も気になっていたやつだし」
蓬奈の承諾も得て、二人はチケットを購入した。上映時間まであと十分。ちょっと時間があるが一足先に指定された席に座った。時間が経つにつれ、続々と他の客が見えてきた。親子連れから年配の人など、客層はとても広い。
しばらくして会場は段々と暗闇に包まれていった。そして大きなスクリーンに映像が映し出される。映画の宣伝や観賞上の注意などの呼びかけが延々と流れ、数分経ってやっと本編が始まった。
いきなり生々しい合戦場の映像が流れ、さすがの蓬奈も目をそらす。その姿を見て彰介は、やっぱり女の子なんだなと思う。別に男だからこういうシーンが平気、という意味ではない。そのシーンに対しての反応の仕方だ。
あっという間に時間が過ぎ映画が終わる。
さて、時刻は昼時。彰介たちは昼食をとることにし、適当な店を探すことになった。ファストフードコーナーで食事を済ませるのは味気無いと思い、ショッピングモールから出て街中を散策した。
「何か食いたいものでもあるか?」
「じゃあちょっと行きたい場所があるんだけど、いい?」
「あぁ、どこでも」
そう彰介が言うと、また蓬奈は彰介の手を引いて走り出し、もう片方の手でポケットから地図を取り出すした。予め調べていたのだろう。
到着した店は、路地裏にひっそりと経営をしている少し洒落た喫茶店だ。店内は女性客ばかりで男一人で入るには少々勇気がいる。木製のシックなドアを開けると、ドアの上部に付いている鈴が心地よい音色の音を響かせた。店員に場所を指定され、そこに座る事になる。場所は店の一番隅で、ここだけ隔離させているような感じの場所だ。
テーブルの上にあるメニューを開くと、意外とパスタなどというちゃんとした料理もあるが、ケーキやコーヒー、サンドイッチなどの軽食がメニューの大半を占めている。どれにしようか決めている中、店の入り口から鈴の音が聞こえた。彰介は少し気になって入口の方を見てみると、和服姿の奏衛門と見知らぬスーツ姿の長い黒髪の女性が入ってきた。
その二人を見て店員も少し戸惑った様子を見せる。無理も無いだろう。和服とスーツの二人組が来たら誰でも自分の目を疑うものだ。
「なあ。あれ、奏衛門さんだよな?」
彰介がそう言うとメニューを見ていた蓬奈も入口の方を眺めた。
「あれ、何でこんな所にいるんだろう」
彰介と比べて反応が薄い。蓬奈の中での彼は神出鬼没なのだろうか。引き続き彰介は奏衛門の方を見てみる。最初、恋人でもいたのだろうかと思ったのだが、よく考えれば彼は軽度の女性恐怖症である。その元凶は彰介の姉の明樹だった。
幼い頃から彼は明樹に引っ張り回されて、最終的にはケンカ。けど奏衛門はいつも負けて、毎回のように泣きながら家に帰ったという。けどその二人の仲が一度も悪くならなかったのが一番の不思議だ。ケンカするほど仲が良い、という言葉は本当にあるようだ。奏衛門はどうやら自分たちの存在に気付いていない様子。
一方共に来店してきた女性の方を見てみると、黒髪の良く似合う顔立ちをしていた。彼女は手持ちのバッグからノート型パソコンを取り出し、電源を入れる。それを奏衛門に見せ、何かの説明をしている感じだった。これ以上様子を調べるのも向こうに悪いか。と彰介は思い、調査を中断。
「食べるもの決まった?」
と蓬奈が訊いてきたので、彰介はシーフードパスタを注文。蓬奈はサンドイッチセットを頼んだ。
数分して店員は二人の注文したものを持ってきた。一口食べてみると、魚介の風味が口の中に広がり、とても美味しいものだった。蓬奈もサンドイッチに満足したようだ。
しばらく食事をしていると、奏衛門と女性は店から出て行った。一体何しに来たんだろうと彰介は考える。けどすぐに止めた。他人の事情に首を突っ込むのはあまりにも失礼なことだ。蓬奈はいつの間にかサンドイッチを食べ終え、デザートのケーキを注文して食べているところだった。それに合わせて彰介もなるべく早く食事を済ませる。
それから数十分後、二人は喫茶店を後にして大通りへと向かった。先日の件のお詫びという形で食事代は全て彰介が払い、時間は二時近くになっていた。
「ごちそうさまでした」
「いいよ、別に改めて言わなくても。そうだ、これからどうする? 帰る?」
「私は帰ってもいいけど、彰介は? 行きたい所とか無いの?」
「うーん……。特にない」
と、いうことで少し早いが大丈駅まで引き返すことにした。切符を買い、三ヶ谷駅から電車に乗る。中途半端な時間帯な為、車両内はとても空いていた。
思い返せば短い時間だったが、結構充実した時間だったと彰介は思う。蓬奈と出かけるのも久しぶりの事だった。たまにはこんな日も悪くはない。蓬奈の方を見てみると、隣にある壁に体重を預けて熟睡していた。彰介は感じなかったが、相当疲れたのだろう。微かに聞こえる寝息は、遊び疲れて寝てしまった子供と同じだ。
彰介は窓の外を眺めた。電車はすぐ土手の脇を走っていて、二人乗りをした自転車が走っている。その自転車に乗った二人は午前中に彰介が見た二人だった。
自転車を運転しているのは茶髪でパーマがかかった髪型をしている背の高い男子高校生。荷台に乗っているのは肌が白く、レッドフレームの眼鏡をかけたショートカットの女子高校生だ。女子高校生は楽しそうに笑っていたが、相変わらず男子高校生の方は何か冷たい目をしていた。冷たいというより、何か大切なものを失ったような目だ。
そして自転車に乗った二人を電車は通り越し、彰介は窓から目を離した。
さて、今回は少し駆け足かな?と思います。
ただ日常パートばかりだと全体的にだれちゃうんですよね・・・。
本来この話は三部に分けるつもりでした。だけど、だれる理由もあり、前編後編で圧縮することに・・・。