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第六話 映画館へ(前編)

田舎少年と田舎少女が都心に近い大きな街へ行きます。


 日曜日。

 カーテンの閉まっている薄暗い彰介の部屋。ベッドで熟睡をしていた時だった。彰介の携帯電話から電子音が鳴り響く。

「ったく、こんな朝から誰だよ……」

 上半身を起こし、枕元にある携帯電話の画面を開いて、耳に近づけた。そしてまたベッドに横たわる。

「もしもし……」

 半分寝ながらの通話は初体験だ。貴重と言うべきか言わんべきか。

「あー、寝てた?」

 声の主は蓬奈だった。声だけで彰介の状況がわかってしまう彼女はある意味凄い。

「こんな朝から電話かけんなよ……」

 さっさと用件を聞いて通話を終わらせて二度寝をしたいところだ。せっかくの休日なんだから。と、彰介は思ったが、二度寝は不可能の様だ。

「もしかして忘れてる? 自分の言ったこと」

 何言ってるんだろう。俺が蓬奈に何か言ったかな。頭を働かせるも、こんなに眠たいと働くものも働かない。

「日曜日、映画観に行くって言ったじゃん」

 少し怒ったような口調で言う蓬奈。そういやそんな事もあったかな。やっと思い出した彰介だった。それに八時に待ち合せする約束も交わしたような気もする。

「今何時だ?」

「八時半」

「わかった、すぐそっちに行く」

 そう言って電話を切り、彰介は活動を開始。すぐさま起きてカーテンを開け、寝巻から白いTシャツと黒い迷彩柄のズボンを穿いた。そして携帯電話と財布をポケットに入れる。そのまま部屋を出て、適当に朝食を済ませ、既に起きていた遥子と明樹に「友達と映画観に行ってくる」と言って家を出た。蓬奈の名前を伏せたのは、言うと明樹にからかわれそうで嫌だったから。


 走って大蔵山の屋敷へ向かうと、門のそばには蓬奈が立っていた。彼女は白いブラウスに赤いチェックのミニスカートを身に着けていた。

「はい、じゃあ行きましょう」

 幼稚園児を誘導するかのように蓬奈はバス停へと歩いて行った。

 こんな口調の時は大体怒っている時だ。三十分の遅れは流石に彰介も悪いと思っている。

「えっと、蓬奈って意外と足細いんだな」

「お世辞はいりません」

 機嫌を取ろうとしたが、効果は無し。むしろ逆効果。謝るしかないか。

「あの……。遅れてすいません」

 何で小さい声なんだろう。自分でもそう思った。

 でも蓬奈は、

「よくできました」

 と言って彰介の方を向いて笑う。完璧に子供扱いされている。だけど蓬奈の機嫌は戻ったようだ。


 バス停から大丈町へ行き、そこからまた少し歩いて町内巡回バスに乗って、大丈駅へと到着した。

 ここからは電車の旅。大丈町は小さい町で、映画館は無い。大丈町から電車に乗り、都心へ行かないといけないのだ。

「久しぶりだな、電車に乗るの……」

 彰介はもう何十年も電車に乗っていない。昔家族で都心の遊園地へ行くために利用しただけだ。そんな思い出を蘇らせながら、電車の中に入った。

 運良く人は少ない。彰介と蓬奈は並んで椅子に座った。電車に揺られて窓の外の景色を見る。住宅街の中を疾走し、次から次へと新しい風景に移り変わる。

「なあ、何観るんだ? 映画」

 ふと気がついた。映画を観に行くといえど、何を観るか決めていなかった。

「えっとね、狂気の独り歩きって言うホラー映画」

「……止めないか? それ」

 実は彰介はホラー映画などというものは大の苦手だった。何でそんなものをわざわざ金を払ってまで観るのだろうか、と思うほどである。それとは対照的に蓬奈はそう言うものが好きだった。

「あ、もしかして恐い? 平気だよ、ホラー映画とか一日経てばただのギャグになるから」

「ギャグにならないって……」

 映画館にまで行く気が少し失せた彰介。せっかくなのだからもう少し明るいものを観たいものだ。

「……本当に観るのか?」

「嫌ならいいけど」

「良いよ、今日はお前に付き合う」


 二人は三ヶ谷という都心に近い街へ着いた。駅は高層ビルで囲まれていて、交通量も多い街だ。駅前ということもあり、付近にはショッピングモールが立っており、そこには映画館もある。

「うわ、ビルでっけえ」

 高層ビルには慣れていない田舎組。駅を出たすぐの場所で立ちすくんでいた。その二人を通行人が横眼で見ながら過ぎ去っていく。通行量の多い場所でずっと立っているから邪魔なのだろう。彰介は察した。

「もうそろそろ行こうか」

 彰介が歩きだそうとしたその直後だった。なぜ自分がそのような行為を起こしたのかわからない。無意識にした事だった。一度も足を踏み入れたことの無い未開拓の地だからだろうか、それともはぐれない為にしたからだろうか。

 そっと彰介は蓬奈の右手を握って歩きだした。三歩程歩いて蓬奈と手が繋がっていた事に気づく。

「あ、ごめん……」

 そっと手を離した彰介。また立ち止まって蓬奈の様子を窺うと、無言で棒立ちをしていた。何か予想外な事でもあったかのように。怒らせたかな。彰介は思った時だった。

「ほら、早くしないと時間が無くなっちゃうよ」

 いきなり蓬奈が彰介の手を引っ張り歩き出す。えっ、と彰介は情けない声を出した。

 だけど蓬奈は聞こえていない様子だった。いや、聞こえなかった事にしているのかもしれない。


 二人はショッピングモールに向かうため横断歩道を渡り、一定間隔に整備された木が生えている歩道を歩いた。

 彰介はふと向かい側の歩道に目を向けた。向かい側の歩道には今の二人と同じような状況の高校生くらいの男女が歩いていた。手を引いている女子学生は西洋人の面影を残した顔立ちをしていて、肌が白い。ショートカットで、レッドフレームの細い長方形の眼鏡をかけていた。 手を引かれている男子学生は背が高く、茶髪でパーマがかかっている。結構筋肉質な体で、目は細くて冷たい感じの目をしていた。

 他人から見ればただのカップルか何かだが、彰介はそれとは違う何かを感じた。その何か、は言葉では表せない。形も無いと思う。しばらく考えていると、蓬奈がいきなり走り出した。バランスを取る為に彰介も合わせて走る。前方を見ると、すぐ目の前に目的地は見えた。だから急に走り出したのか。

「いきなり走るなよ、危ないなぁ……」

 彰介が言うと、蓬奈は静かに笑った。何が面白いのかわからない。わからないけれども、蓬奈につられてだろうか、彰介は軽く微笑んだ。

 今日は笑って過ごせそうだ。

「結局、西洋少女とパーマ少年は何だったの?」

こんな質問が来そうですね。

いや、来ないかもしれませんね。


彼らは後に重要なカギを握ります。

それがこの「夏のひととき」で握るとは限らないと思います。

いや、限ると思います。(どっちだよ)


結局は時間が経てば時期にわかるでしょう。

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