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第四話 善行

さて、いかにも怪しいヤクザさんが出て来ました。


「在庫はまだ来ないのか?」

 薄暗い部屋に大柄の男が座っていた。

 場所は都内の高層ビルの最上階だろう。大きな窓からは無機質に光り輝く灰色の建物が一面に建っていた。

 耳を澄ませば車のエンジン音やクラクションの音が聞こえる。

「はい、今回に関しては彼を試すだけですから。もう何人かは外国船へ運ばれているでしょう」

 薄暗い部屋の片隅にもう一人男が立っていた


 



 さて、彰介はというと、誘拐犯の行先を掴んだところだった。彰介はアパートの階段を登り、ヤクザの風貌をした男の元へと走る。

 その姿に気づいたのだろうか。男は彰介の方を向く。

「おっと、何の用だい?」

 冷静な声。長い髪からは気味の悪い目が見える。

「お前、誘拐犯だろ?」

「……誘拐犯? 知らないなぁ」

 完璧にとぼけた様子を見せる男。その姿に彰介の体には怒りが込み上げてくる。

「ふざけるな。その部屋を見せろ」

 と、言うと男はあっさりと許可をした。

 恐る恐るドアノブに手をかけ、部屋を開ける。カーテンで光が遮断され、部屋は真っ暗。とりあえずもう少し奥へ行こうと彰介は歩き始めた時だった。

 バタンと音をたてて扉が閉じてしまった。だけど、段々と暗さに目が慣れてくる。

「もう良いだろ? 少年」

 背後から聞こえるあの男の声。ふと振り返ると、男はナイフを握っていた。


 不意を突かれた……。


 彰介はすぐに視界を良くするために部屋の奥へと走り、カーテンを開く。外を見れば日は既に沈みかけていた。そして、そのわずか太陽の光で部屋に何があったかすぐにわかった。

 床に横たわっている蓬奈。そして壁に体重を預けて座っている女子中学生の姿。彰介はすぐに蓬奈の元へと駆け寄った。ナイフを持っている男は今は関係ない。

 蓬奈の額とその周辺の床は少しだけ血で染まっていた。きっと頭を掴まれて何度か床に額を打ち付けられたのだろう。眼は閉じているけど息はまだしている。ショックで気を失っているだけだ。

「そいつ大蔵山一家の娘さんだろ?ただの女ならそのまま海外に売り飛ばすところだったんだけどな」

「黙れ、犯罪者……」

 彰介はゆっくりと竹刀を持ち上げ、男を睨みつけた。

「あぁ、僕に仕返しをしたいってわけ?まぁこの現場を見られちゃ帰すわけにはいかないんだけどね」

 薄っすらと笑いながらナイフを構える。あいつの目的は彰介を殺す事。こんなところを見られたら警察に通報される。だから証拠は消さなくてはいけないのだ。


 先手を打ったのは彰介。ナイフ相手に竹刀で挑むのはかなりの無謀。懐に入られたらまず命は無いと言っても良いだろう。

 彰介は走って男の腕を狙う。まずは武器を捨てさせて身の安全を守るのが先決だ。が、あまりの大振りで攻撃はかわされた。気持ちが乱れているからピンポイントで籠手(こて)を打つことはできない。

 その隙に男は彰介の背後に回るのだが、その辺りはやはり身軽な彰介に勝算はある。振り向きざまに男の頬を殴り、そのまま床に押し倒した。そしてナイフを取り上げる。

「お前みたいな野郎は今から警察送りにしてやるよ。少し待ってろ」

 幸秀から教わった関節技を男に掛けて身の自由を奪い取った。何で彼が知っているのか彰介もわからないところだが、たぶん冬衛門辺りが関係していると考えている。

「少年、一応忠告だ。僕を警察に送ったらきっと後悔するよ」

 何を言っているんだこいつ。言葉の意味を彰介は考えた。が、答えは無し。とりあえずポケットから携帯を取り出して警察へ通報。数分後には現場へと急行してくれた。


 男は警察に身柄を確保され、彰介は他の警察官から聴取を受ける。

「では、今度は学校の連絡先を教えて頂けますか?」

「え、今度は学校ですか?」

「良いじゃないですか。悪いことしたわけじゃないんだから」

 自分の電話番号、家の電話番号と住所、そして今度は学校の電話番号。いちいち伝えるのも面倒になってきた。ラマだとこんな地味なシーンは全部カットされるのだろうが、現実はそうはいかない。

 その後、中学生ほどの少女と蓬奈、彰介はパトカーで護送された。サイレンは鳴らしていないが、やたらと通行人がこちらを見てくる。

 パトカーの乗り心地は最悪。窓につけられた鉄の棒と後部座席のすぐ目の前に設置されている透明のアクリル板のようなものが妙な閉塞感を煽る。まるで自分たちは檻の中にいて、それが車の様に動いているように思える。

「パトカーの乗り心地はどう?」

 彰介の不屈そうな顔に気づいたのだろうか、助手席に座っていた警官がそう訊いてきた。

「最悪。周りの人も興味本意で見てくるし……」

 たぶん重い空気を和ませる為に声をかけたのだと思う。最近の警察は質、量ともに低下しているのだが、中にはちゃんとした者もいる。

 早く家に着かないかな……。彰介はそう思いながら窓の外を眺めていた。

 

ヤクザさんは今回で登場終了。

名前を最後まで出さなかったのは、彼は「名もなきしたっぱ」の人間だからです。


ちなみに彰介たちが住んでいる村の名前も挙げていないのも同じ理由です。

地図には載っていない、とてもゆったりとした村として扱っているからです。

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