8月31日②
小鳥ちゃんが死んで、一週間ほど寝込みました。
それから、私はこのままじゃ色々ダメだと思い学園にまた通い始めたのですが、三井名ちゃんはいません。
まだ整理がつかないんだと思います。私もそうです。気持ちを落ち着けようとこの日記を久しぶりに書きました。
帰宅した私は兄の部屋の前に座り、返事が来ないのに話し続けます。
「お兄ちゃん。私どうしたらいいのかな? 友達が死んじゃって、もう一人の友達も学園に来なくって……これって、私が引っ越してきたせいなのかな? お兄ちゃん話がしたいよ……」
・・・・・・・・・・
(ここからは、園田信也の取り調べの調書記録である)
「いつの日か、隠れ家に少女が住み着いた」
「俺の事を兄と思っている様だった」
「この家の住人の中嶋圭一と勘違いしてくれている」
そう語った後、唐突に園田は遠い目をして何故、殺人を行ったのかを語りだした。
あいつは親友だ。
唯一の理解者で、たまにあいつの家に行ったりもした。
そんなある日、いつものように遊びに行くと家の鍵が開いて、おかしいと思いながら声のする方に向かうと、あいつが、圭一が同級生から暴力をうけていたんだ。
俺は怖くなって、逃げだした。凄く後悔している。あいつは自殺してしまったから……
俺は暴行の事を学園に話したが、取り合ってもらえず。親に相談したけど……どうでもいいって、それより勉強をしろと言われた。俺はそのことが、弱い自分が嫌になって、復讐をすることにしたんだ。まず、束縛してくる両親を殺し、いじめにかかわった人を殺して回った。誤算だったのが、家に来た少女だ。俺の周りを嗅ぎ回っていたので、見せしめに友達とその家族を殺してやったんだ。そしたらあいつは家にこもって、自分のせいじゃないかと思い始めたんだ。その事がなければ、俺は捕まらなかっただろう。あいつは俺に殺される前に、手紙を送っっていたんだよな?
園田はそこで、語るのをやめる。
園田と小さめなデスクテーブル挟み、向かいに座る恰幅の良い刑事はその言葉に一枚の紙を見せた。
「その通りだ、だがこれは中島君の意志でもある」
「え?」
その言葉に園田は、目を見開いた。
「真里菜さんは確かに、一連の事件と兄がかかわっていることに気付いた。そのヒントは圭一君の日記にあったんですよ」
「そんなはず、そんなものなかったはずだ!!」
園田は立ち上がり声を荒げる。
「落ち着きなさいな。現にここにあります」
白髪交じりの頭を掻きながら、そう言ってノートを取り出す。
「このノートにね、いじめの事や君の事が書いてあったんだよ」
そう言って刑事は付箋の付いた個所を読んでいく。
「えー、園田にいじめを受けてていることを知られたくはなかった。園田は良いやつだから。
次の日から様子が変だった。たぶん気にしているんだろ、自分も家の事で大変なのに……」
そこまで言って、ページをめくる。
次の付箋の場所だ。
「自分は弱いやつだ、自殺しか考えられなくなっている。ただ、死んだ後の園田が心配だ。家の問題の相談に乗ってやれなくなってしまう。ごめんな、……って、書いてありましてね。それを見た、真里菜さんはきっとすぐに高等部に話を聞きにいって、帰りに手紙を出したんです。それもただの保険のための手紙じゃないんですよ!」
刑事は少し語気を強める。
「……そんなノートなんて……」
園田は下を向いて、聞いていない。
刑事は園田の服の襟をつかんで前を向かせる。
「いいですか! あの子は、真里菜さんは謝罪の手紙を書いたんです! 全部、私のせいだったって。その手紙を見た子が警察に相談してくれたから、貴男にたどり着いたんです」
服の襟を掴んだまま強くゆする。その様子に調書を書いていた、若い刑事が止めに入った。
「ダメっすよ先輩。死んじゃいますよ」
「ああ、裁くのは法廷で、でしたね」
そう言った後、園田を乱雑に突き放す。その勢いで園田は床に倒れる。
「なぁ、刑事さん」
若い刑事が園田をあらためて、パイプ椅子に座らせると園田は咳き込みながら、ポツリとそう漏らした。
「何です?」
「本当に……圭一は俺を恨んでなかったんですか?」
「はぁ、日記に書いては心配としか書かれていませんよ。強いて言うなら、園田と遊んだ楽しかったことが書いてあったくらいです」
「あいつの本当のことを言ってたんだな……」
「何の事です?」
「真里菜だったけ。殺したとき助けを乞うんじゃなくって、圭一さんのために自首して人生をやり直してくださいって。それが、圭一望みだろうって。何様だよって、何がわかるんだよって思ったけど、ホントだったんだ……」
「それなのに、何度も刺して殺したんですね」
「ああ、ムカついて苦しむように刺してやったよ」
そう言った瞬間、刑事が力強くテーブルを叩く。
「貴男の思い込みで、勝手な感情でどれだけ人を殺す気だ!!!」
怒鳴り声が取調室に響いた。
その後、園田は一言も話さずただ俯いて涙を流し続けている。
その涙が、親友の気持ちに気づかなかった後悔なのか、殺人という罪の重さからなのかは解らない。
けれど、確かに一連の事件はこうして幕を閉じたのだった。
(完)