7月2日②
放課後、いったん分かれた三井名ちゃんが小鳥ちゃんを連れて家に来ました。
「お邪魔します」
「邪魔するぞ」
「どうぞ、上がって。二階の手前の部屋が私の部屋だから先に行ってて」
「はい。行きましょうか小鳥」
「ああ」
私はそう言ってリビングに向かい、食器棚からカップを取り出して、お茶と手作りしたビスケットを準備をしてから部屋に向かうことにします。
「お待たせ。って……何してるの?」
何故か、三井名ちゃんはタンスの裏をのぞき。小鳥ちゃんはベッドの下をあさってました。
「すみません。お札がないか、探してました」
三井名ちゃんがまず謝ってきます。
「三井名に言われてな」
と、小鳥ちゃんはあきれたように教えてくれます。
「もう!! そんなのないよ」
私は少し怖くなってしまいましたが、怪談の事を聞くためにまだ何とか冷静を保ちました。
部屋にある折り畳み式の小さなテーブルを、三井名ちゃんに出しってもらってそこに持ってきたものを置きます。
「あら、わざわざありがとうございます。真里菜さん」
「うん。こんなものしかないけど、よければどうぞ」
「マジか、真里菜は良いやつだな」
嬉しそうに小鳥ちゃんはビスケットを食べてくれました。
「もう、小鳥ったら。あら、これって手作りですか?」
小鳥ちゃんの様子に呆れながらも、一口食べた三井名ちゃん聞いてきました。
「うん……美味しいかな?」
「おう、うまいぞ」
「はい、とてもおいしいです」
「良かった~」
私はその言葉に安どして、机に顏をのせてフニャーとします。
急いで作ったけど、喜んでもらえて良かったなって思いました。
「本当に真里菜さんは面白いですね」
「え~。どこが? 普通だよ?」
「普通ではないな」
「小鳥ちゃんまで」
二人のいじりに少し、拗ねてしまいます。
「ふふ、そろそろ怪談を話しますか?」
三井名ちゃんが、楽しそうに聞いてきました。
「あ、そうだった。うん、お願い」
「忘れてたのかよ」
小鳥ちゃんが呆れたように言ってきます。
「ごめん、楽しくって」
「はぁ~。何だよそれ、電気暗くするぞ」
そう言いながら、小鳥ちゃんが照明のヒモを引っ張りました。
「雰囲気、でますね?」
「ちょっと怖いかな?」
私たちの反応に、小鳥ちゃんはますます生き生きした声で話を始めます。
「これは、一組の奴から聞いた話だ。通学の時はこの家の前を通ってたらしいんだけど、街頭が少ないこの場所で……」
そこで何故か黙り込んだ、小鳥ちゃんに息をのんで続きを促しました。
「家の門の前に目を充血させてた長い黒髪の人を見かけたらしいんだ……そこで怖くなって逃げたんだって」
「え? それで終わりですか?」
三井名ちゃんが、ツッコミを入れます。
「なんだよ? 怖いだろ? な、真里菜?」
「うん。怖いけど……落ちがね……」
私の言葉に、小鳥ちゃんが電気をつけてしまいました。
「しょうがないだろ。こういうのは苦手なんだよ」
「まぁ、確かにこの家の怪談はそう言うのが多いですものね?」
三井名ちゃんが、そう言ってきます。
「え? 他にもあるの?」
「ああ、窓からのぞく男とか、血まみれの男とか」
「やゃ、やめてよ~。住みづらくなるよ~」
「そういえばその話の窓って、横の部屋ですよね?」
三井名ちゃんが小鳥ちゃんに確認しました。
「……だな。横の部屋って、どうなってんだ?」
「えっと、お兄ちゃんの部屋かな?」
「なら、見せてもらえないのか?」
「う~ん。引きこもりで、喋ったことないから難しいかな?」
「え、でもカツ丼食べったってくれたっていってなかったか?」
小鳥ちゃんが、不思議そうに聞いてきました。
「うん、そうなんだけど……顔は見てないの」
どう説明していいか分からず、困ってしまいます。
「なら、見に行こうぜ」
小鳥ちゃんが立ち上がりました。
「無理だよ、鍵かかってるもん」
「何か怪しいですね」
「何が?」
「そりゃ、部屋に鍵かけてまで何してんだって話だよ」
三井名ちゃんの言葉に小鳥ちゃんが座り名をして補足を入れてくれます。
「物音もしませんか?」
「昨日、何かが倒れる音がしたよ?」
「それ、死んでないか?」
「だ、大丈夫だよ小鳥ちゃん。朝ごはんも食べてくれてるし」
「そうなのか、なら大丈夫か」
小鳥ちゃんはそう言って、すぐに引き下がってくれました。
「ですが、交流しないのは良くないですよ?」
「私もしたいんだよ? でも、出てこなくって」
「バル○ン焚こうぜ」
「死んじゃうよ!」
小鳥ちゃんが恐ろしいことを言います。
「では、手紙はどうでしょう?」
「手紙?」
不思議に思って、三井名ちゃんに聞き返しました。
「はい、ご飯に添えたら読んでくれるかもしれませんよ?」
「なるほど」
「さすが、三井名。頭いいな」
私と小鳥ちゃんは感心してしまいます。
「晩御飯の時、試してみるね」
「はい、ぜひ」
「兄がどんな奴か分かったら、また教えてくれよな」
「うん、小鳥ちゃん」
私たちは何時しか、怪談から興味がそれ兄の正体を探る方にシフトしていきます。
その後、三井名ちゃんのお父さんが迎えに来てお開きとなりました。
私は早速手紙を書いてご飯に添え、返事にワクワクしながらその日は少し遅くに眠りにつきました。