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集会(一)

 ケンタは週末は引っ越し屋のアルバイトをしている。

 今日の仕事は重たい荷物が多く、しかも二階建てでキツかった。

 それでも休憩時間があるたびにココロの写真を取り出し、人に会うたび見覚えはないか聞いた。


 若いお母さんが写真を見て言った。

「あら、可愛い娘ね。お兄さんの彼女?」

「幼馴染みです……」

 

 バイトも終わる頃になるとさすがに疲れ、ケンタは壁にもたれてスポーツドリンクを飲んだ。

「とーちゃん、こんなキツい仕事を毎日してんのかなぁ……」

 そう呟き、改めて父と兄への感謝を胸に抱いた。

 二人に言われた言葉が頭に浮かぶ。

『働くのは俺と優太に任せて、お前は青春を精一杯頑張れ』

『兄ちゃんは頭悪いから無理だったけどお前はそこそこ勉強できるだろ。大学、行けよ。行かせてやる。その代わりいい仕事に就いて恩返ししろな』

「甘えてばかりもいられねー。自分の小遣いは自分で稼いで、余ったぶんは家に入れるんだ」

 ケンタは独り言を呟きながら立ち上がった。

「……しかし、これで帰って寝れりゃいいのに……。面倒臭ぇな」

 テンシに出席を強要されている『集会』が今夜あるのだった。


 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


 カフェ『てんにん』には既に店内を埋め尽くす人数が集まっていた。

 特に怪しい集会という感じはなく、カフェを借りきってこれから誰かのライブが始まるような雰囲気だった。知った顔でもいるかと見回したが、見当たらなかった。

 後ろから肩をぽんと叩かれ、振り向くと、短い金髪の下に横柄そうな顔が見えた。

「イシさん」

「来たか、我が部下。ご苦労」

「ぶ、部下?」

「ジョークだよ。えっと……チンタだったっけ」

「ケンタです。吉岡健太」

「上の名前はどうでもいい。ケンタ、な。よし覚えた」

「イシさんはフルネームなんて言うんスか?」

「イシだよ」

「イ・シさん? 何人(なにじん)?」

「日本人だよ。名前なんてどうでもいいっつってんだ。そんなもん破壊しろ」

「ところで」ケンタは今さらながら聞いた。「仲間になったはいいけど、これって何かの宗教ッスか?」

「宗教なんかじゃねーよバカヤロー」

「じゃあ何の団体?」

「団体でもねーよ」

「じゃあ、一体何?」

「俺達は破壊人だ」イシは無愛想に言った。「同じ力を持ち、同じ敵と戦ってる。それだけで集まってるだけだ。思想的繋がりとかはねーよ」

「力って、これ?」ケンタはおもむろにイシのポケットに手を入れようとした。

「あっ! やめて!」イシは必死に身をよじってそれを避けた。「偉そうな喋り方してごめんなさい!」

「ところでイシさん」

「はい」

「テンシさんて、どんな人?」

「何? お前、アイツの知り合いだったんじやねーの?」

「っていうか、知り合いの知り合い。だからよく知らない」

「そっか。どんな人かって、名前通りだよ」

「名前通り?」

「天使だよ、アイツは。ムカつくけどな」

「うん。なんか俺もムカつく」

「なんでだよ」イシは笑うと、言った。「ま、本人にいろいろ聞いてみ」


 少しするとテンシがやって来た。

 テンシはケンタの姿を見ると嬉しそうに微笑み、声をかけた。

「やぁ、ケンタ。楽しんでるかい?」

「えっと……。何を楽しめば?」

「店のメニュー飲み放題に食べ放題だ。遠慮なく頼め」

「家で兄ちゃんの豪華な料理、食べて来たんで」

「そうか」

 会話が途切れた。

「ココロの捜索……」ケンタが聞いた。「進展なしッスか?」

「なしだ」

「じゃ、俺、顔出したんで、帰ってもいいッスか?」

 ケンタはイシに聞いておきながら、テンシのことなどどうでもよくなった。

「まぁ待てよ。親交を深めよう」

「すいません。用事があるんで」

「おい」テンシが目で何か合図をする。

 するとイシが背後からケンタに掴みかかり、動きを封じた。

「な、何すんだ!」

 テンシは身動きできないケンタにゆっくり近づくと、華奢な体に似合わない大きな掌を伸ばし、ズボンのポケットに差し入れた。

「あっ! なんか嫌だ! やめて!」ケンタは女の子のように泣き叫ぶ。

「君の魂を見せてもらうよ」

 そう言うとテンシはポケットの中からずるりとそれを引き抜いた。

 ココロだった。

 林原真心(はやしばらこころ)そのもののミニチュアが、天使のような微笑みを浮かべ、ロックな服装に身を包んでいた。

「へぇ」テンシは意地悪そうに笑った。「これが君の魂なんだね」

 ケンタは自分の魂を見ると、なぜか感動したように目を潤ませた。

「これを僕の姿に作り替えよう」テンシが言った。「そうすれば君は僕のことしか考えられなくなる」

「や」ケンタは声を張り上げた。「やめろぉぉぉ!」

 テンシはココロそのものの魂に手をかけると、そのまま大笑いした。

「嘘だよ。僕らはそんな悪いことはしない」

 テンシは魂をケンタのポケットに返した。イシも手を離すと、悪戯小僧のように笑った。

「この能力を悪いことに使う奴ら……それが僕らの敵だ」

 ケンタはほっとすると、ついどうでもいい筈のことを聞いてしまった。

「敵って何なんスか?」

「うん。いい質問だ」テンシは嬉しそうに笑った。

 しまった、なんだか乗せられた、と思うケンタをよそに、テンシは話しはじめた。


「敵のリーダーの名は坂本阿玖磨(さかもとあくま)

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