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 ケンタはココロを監禁していると疑っている淳美天士(あつみてんし)の『アジト』に自分を連れて行けと要求する。

 テンシはあっさりとケンタを『アジト』に案内した。

 扉が中から開いた。

 中に人の気配がする。

「どうぞ」テンシが先に入るよう促す。

「アンタが先に入れ」

 ケンタは扉の先がすぐに鉄製の階段になっているのを見、言った。後ろから押されて転げ落ちてはたまらない。

 素直にテンシは先に行き、ケンタはその背中をついて行った。

 すぐに部屋の全貌が見えた。

 薄暗い中にオレンジ色のランプがひとつあり、それで一応足りる程度の狭い空間だった。

 アンティーク調の人形や彫像、模型が棚に並べられ、小さなテーブルの上には何やらパソコン関係の機械らしいものが所狭しと置いてある。

 使い古されたソファーの上に、短い金髪の男がいた。

 テンシはその男に声をかけた。

「イシ。なんでインターフォン取った?」

 それには答えず、イシと呼ばれた男は後ろのケンタを見ながら、言った。

「そいつ、新しい仲間?」

「いや」テンシは答えた。「僕がここに女の子を監禁してるとか言うから、証明するため連れて来た」

「なんだ。モニター見たら知らん顔だったから、敵かと思った」

「それでインターフォン隠したのか」

「ってか、そん時俺、ちょうどパソコンでエロ動画観ててよ。だから来たのがお前以外だったら絶対開けることなかったんだわ」

「なるほど」テンシは可笑しそうにケンタを振り返った。「君が聞いた女性のうめき声というのはそれか」

 ケンタは何も言えなかった。見渡すまでもなく、ここにココロはいない。

「すいません……。俺……」ようやく謝りながら、諦めずに周囲を観察する。

 隠し扉でもないか、探したが、壁はアンティークの置かれた棚で囲われており、そんなものがありそうな場所もない。

「……なんでここだと決めてかかっちゃったかな……」

 恥ずかしそうに項垂れるケンタを、テンシは上から見下ろしながら、ふっと笑った。

「いいよ。疑いが晴れたんなら」

「本当、すみません」

「でもこの場所を知られたからには……」

「えっ?」ケンタは後退った。

「君にも僕らの仲間になってもらうしかない」

「仲間?」

「ああ」テンシは優しい口調で言った。「僕らはある敵と戦っているんだ」


 ケンタはソファーに座らされた。

 早くココロを探したかった。

 仲間になればすぐに出してやる、ならないのなら出すわけにはいかない、と言われたら、わけがわからなくても従うしかなかった。

「10分ぐらいで済みますか?」ケンタはひきつった笑いで聞いた。

「それは君次第」と、テンシが答えた。「これから君をテストする」

「テスト?」

「ああ。イシのポケットから魂を引き抜くんだ」

「なんで俺?」イシが嫌がった。

「僕はリーダーだ。実験台になるのは部下の役目だろ」

「誰がいつ、お前の部下になったんだよ?」

「あのう……」ケンタが話に割って入った。「仰ることがよくわからないし……。僕、急いでるんですが」

「うん。そうだね」テンシは(うなず)いた。「君は他人のポケットに手を入れたことはあるかい?」

「え? うーん……。あんまりないと思います」

「そう。無闇に他人のポケットに手を入れちゃいけない。そこにはその人の魂が入ってるからね」

「魂……って、人間の中にあるもんでしょ?」

「いや。魂は人間の外にあるんだ。だから魂を引き抜かれたところで、その人間は死にはしない」

「すいません。帰ります」

 バカバカしくなって帰ろうとしたケンタの肩をテンシが掴んだ。華奢なくせに意外に大きな掌に驚いて振り向くと、テンシは怖い顔をして言った。


「帰ると言うのなら君の魂を引き抜くぞ」


 思わずケンタの脳裏にカフェ『てんにん』で店長に言ったテンシの言葉が甦った。


 ──『何もない……ことはないけどね』


 あれどういう意味だったんだろう? 確かにここには何もないことはない。テーブルやソファー、パソコンや古い人形がある。でもそういう意味ではないような気がする。


「わかりました」ケンタは観念し、一刻も早くここから出たいこともあり、承知した。「その人のポケットから魂を抜き取ればいいんですね」

「や、やめろよ」イシが後退った。

「いきなり出来るとは思っていない」テンシがアドバイスする。「魂がそこにあると信じるんだ。かけらでもいい、一滴の液体でもいい、何かを取り出すことが出来れば、それで合格だ」

 テキトーにゴミでも入ってたらそれを抜き出して「抜き取りました」とでも言おう、そう思いながらケンタはイシに近寄った。

「失礼します」

 そう言いながらまるで襲うように、イシのズボンのポケットにずっぽりと手を挿し入れた。

「あ……あんっ!」イシが女の子のように悶えた。

 すると指が何かに触れた。それは生き物のようにうようよと動いている。

「何だこれ」

 そう言いながら手を引き抜くと、自分の手が妙なものを掴んでいた。

 アワビのようなナメクジのようなものが、掴んだ手の中で身をよじらせている。

「わあっ!」

 思わずケンタはそれを床に投げつけようとした。

「ちょっ……!」イシが悲鳴のような声を上げる。

 テンシがケンタの腕を掴んでいた。危なかった、というように安堵のため息を吐き、ケンタの手からそれをそっと取ると、言った。

「凄いな。君にはとても素質があるようだ」

 イシはテンシからそれを返してもらうと、ほっと息を吐きながらポケットに戻した。

「よかった……。壊されてたら俺、廃人になってたとこだ」

「大合格だ」テンシが言った。

「か、帰ってもいいんスか?」ケンタは妙なものを見たことも忘れて喜んだ。

「その前に、仲間になった『しるし』を受けてもらう」

 テンシはそう言うと、棚から何かを取り出した。

 拷問器具のように見えた。



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