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悪魔天使

 行方不明になった幼馴染みの林原真心(はやしばらこころ)を探しに、ケンタは授業中の教室を飛び出した。

 廃屋になっているカフェの裏の地面に扉があり、その向こうから女性のうめき声が聞こえた。

 ココロが監禁されていると確信したケンタは助けを求めに走る。

「同級生の女の子が監禁されてるんです」と言えば、警察官は飛び上がり、真剣な顔ですぐに出動してくれるものだと思っていた。

 しかし飛び込んだ交番にいた年配の警官は、ケンタの話を聞くとまるで馬鹿にするように笑った。

「君、いくつ?」

「じゅ……う、きゅうさいです」

「身分証、ある?」

「それどころじゃないでしょう! アイツ、早く助けないと殺されるかもしれねー!」

 警官はため息をつくように笑うと、地図帳を取り出し、ケンタがカフェのオッサンから聞いていた住所を調べた。

「そこは空き家だね。不動産会社の持ち物だよ」

「一緒に来いよ! 見せてやるよ!」

 警官が少し怒ったような目でケンタを見た。

「あ……。いや、一緒に来てくださいよ。目で見て、耳で聞いてもらえれば信じてもらえるはずです」

「じゃ、あなたのお名前と住所をこれに書いて」

「それどころじゃないって言ってんだろ!」

「必要なんですよ。あと、身分証」


 急いで兄の名前を記し、身分証は今持っていないと誤魔化し、タラタラとようやく重い腰を上げた警官を案内し、廃屋カフェの裏へ回り、ケンタは声を上げた。

「あれ!?」

 杭に付けられてあったインターフォンがなくなっている。

「ここにあったのに!」

「やっぱり誰も住んでないねぇ」警官は一応仕事をする動作で周囲を確認した。

「本当なんです! さっきまでここにインターフォンがあって……」

「我々も忙しいんだよ」警官は顔に親しみやすい微笑みを貼りつけると、背中を向けた。「あ。一応言っとくけど、廃屋でも壊したりしたら犯罪になるから。気をつけてね」


 ちょうどバールでも持って来て扉を破壊しようと思っていたケンタは釘を刺された。

 警察に助けを求めても無駄なら、どこに助けを求めれば?

 ケンタは地面に付けられた扉に飛びつくと、手で激しく叩きながら、声を上げた。

「ココロ! ココロ! 大丈夫か!? すぐ出してやるからな!」

 そう叫びながら、しかし本当に彼女がその中にいる確証はもてなかった。

 それをはっきりさせたいという思いが、ケンタを再びカフェ『てんにん』に走らせた。


 今日、ここまででも一体どれだけ走ったのだろう。

 なんで自転車で来なかったかな、俺?

 そう考えながらも、ケンタは荒い息のままカフェ『てんにん』の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

 あの夜見た、背の高い細身の大学生バイト、淳美天士(あつみてんし)が、入って来たケンタを見て営業スマイルを浮かべた。

「あーーっ!」

 突然大声を上げたケンタにテンシの営業スマイルが消えた。

「ぅあーーーっ!」

 奇声を上げながらこちらを指差して詰め寄って来るケンタにテンシは後退(あとずさ)った。

「あっ」と言いながら、奥から現れたオッサンが頭を掻いた。「すまん少年。そう言えばテンシくん、昼からバイトの予定、入ってたわ」


 テンシはケンタの話を聞くと、真剣な表情で言った。

「林原さんが行方不明?」

 その顔は本当に驚いているようにも、俳優が大袈裟な演技をしているようにも見えた。

「おいおい」オッサンがケンタをたしなめた。「そういうことは先に言ってくれないと」

「……っていうか」ケンタは後退りながらキレた。「アンタだろ? アンタがココロを監禁してる! 知ってるんだぞ!」

 またしても指を差され、しかしテンシは動揺した様子も見せず、落ち着いた声で言った。

「友達が行方不明になって動転するのはわかる。でも落ち着きなよ。どうして僕が……」

「アンタが住んでるっていう変な場所、行ったんだよ! 地面の扉の向こうからココロの声が聞こえた!」

 そう言いながらケンタはオッサンの後ろに隠れた。

 テンシの顔色が変わった。爽やかだった表情が一転、黒い翳りを帯びた。

「店長」テンシはどこを見ているかわからない目でオッサンに聞いた。「アジトの場所、教えたの」

「うん」店長のオッサンは無表情で(うなず)いた。

「なんでだよ。そいつ、仲間でもないのに」

「熱い若者は好きだからな」そう言って店長ははっはっはと笑った。

「なんだよ」ケンタは店長の背中に強く掴まりながら、言った。「なんだよ『仲間』って? ココロをどうしやがった?」

 するとテンシは再び爽やかな微笑みに戻り、言った。

「本当に林原さんのことは知らないよ」

「じゃっ、じゃあ、あの扉を開けろ! 開けてみせろ! 今からだ!」

「俺、バイト中なんだけど」

「いいよ。行って、中を見せておやり」店長が言った。「本当に何もないんならね」

「何もない……ことはないけどね」テンシは笑った。「でも林原さんはいない」


「かぶりなよ」

 そう言ってテンシから渡されたヘルメットをケンタは暫くじっと見つめた。

「店長のだから加齢臭染みついてるかもしれないけど」

 テンシはそう言うと、250ccスクーターのセルモーターを回した。

「ところで吉岡健太くんだったっけ? 高校生だろ? 学校はどうした」

 ケンタはテンシの顔を睨みつけると、命令するように言った。

「いいから早く連れてけ」


 ケンタを乗せたテンシのスクーターは、廃墟のカフェの裏に回ると、停まった。そのままスクーターを繁みのトンネルの中へ隠すように入れるテンシを見ながら、ケンタは緊張していた。

『ゴシにでも知らせてから来ればよかった……』

 そう思ったが、もうそんなことをさせてもらえる暇はなかった。

 スマホを取り出し、何かしようとしているケンタを見つけ、テンシが言った。

「おい何してる。ここは僕らの秘密基地だ。外部と連絡するな」

 その顔は脅迫しているかのように厳しかった。

「君を連れて来たのもしょうがなくなんだ。自分の潔白を証明するためにな」

 廃屋を取り囲む木々が風でざわざわと音を立てた。

「扉を開けろ」ケンタは負けずに脅迫口調で言った。「中を見せろ」

 テンシは杭に付けられたインターフォンがないのに気づいた様子でスマホを取り出すと、電話をかけた。

「悪魔天使」と、テンシは言った。

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