心
ケンタの幼馴染みの林原真心が突然行方不明になった。
その行方を知る生徒は誰もおらず、警察に捜索願いが出されることとなった。
ケンタはすぐにココロのスマホに電話をかけたが、予想通りに無駄だった。何度かけても同じだった。
『これで今日の告白は延期になったな……』
そんな思いが頭に浮かび、どこかほっとしている自分に気づいてケンタは自分を殴りそうになった。
「探さないと……!」
慌ててどこかへ行こうとしてその場でジタバタするケンタを見て、ゴシが笑いながら言った。
「警察に任せておけばいいでしょ。ケンタくんがジタバタしたってしょうがないっしょ」
「あ? 警察なんかに任せてられっかよ!」
「大丈夫。しっかり探してくれるよ。ココロちゃんは未成年ですからね。……これが行方不明になったのが成人で、しかも事件性がなかったら、本当に任せておけないらしいけど」
そう言ってゴシはまたシシシと笑った。
「てめえ、何笑ってやがる!」
「あ。失敬、失敬」そう言うとゴシはメガネをくいっと直し、真面目な顔で言った。「ケンタくんはココロちゃんが好きなんだもんね?」
「悪いか」
「大好きな幼馴染みのココロちゃんがいなくなったら、生きて行けないもんね?」
「るせー!」
「だってそうなんでしょ?」
ケンタは黙った。ココロがこのままいなくなってしまったら?
ゴシの言葉に、あってほしくない想像をしてしまい、思わず本心を呟いた。
「俺、アイツがこの世に存在してるってだけで感動して涙が出ちまうんだよ……」
ケンタの頭の中にココロの顔が浮かんだ。
小さな頃、公園でよく一緒にサッカーをして遊んだ。まるで自分の弟のようだった。そのサルみたいな顔が、現在の天使のような女の子の顔に、一瞬で繋がった。
「アイツがこの世にいなくなったら……俺……」
涙がこぼれた。
はっとしてゴシを見ると、面白がるようにニヤニヤと笑っていた。
殴りかかろうとした時、担任が戻って来た。
「遅くなりましたが、朝礼を始めます」
朝礼が終わり、いつものように一限目が始まった。ココロの席に穴が空いているというのに、そんなことはどうでもいいかのようにコツコツと鉛筆の音を立てる前の席のヤツに苛々した。
ケンタは授業に集中することなどいつも以上に出来なかった。ココロの行方を頭の中で全力で追っていた。
親や友達を心配させるようなことするヤツじゃない。
あれから一度家に帰ったのは間違いない。一体、またどこへ出掛けたのか?
誰かにさらわれた? ……いや、家には両親もいたんだぞ?
自分で出掛けたんだ……。一体、どこへ?
その時、ケンタの脳裏に昨夜のことが浮かび上がった。
バイト先の大学生にやたらなついているココロの、自分には見せたこともない笑顔が。
「先生!」ケンタはいきなり立ち上がると、手を挙げた。「早退します!」
そう言いながら荷物も持たずに駆け出し、止める暇も与えず教室を飛び出して行った。
道はなんとなく覚えていた。
息を切らしてケンタはカフェ『てんにん』の前で足を止めた。
喧嘩を売る勢いで扉を開けた。
「いらっしゃい」ポケモン柄のエプロンをした50歳代ぐらいのヒゲ面のオッサンが言った。
「おいっ!」ケンタは自分に突っ込んだ。「アイツ大学生って言ってたろーが! 今の時間は学校だろーが!」
「何? 1人ボケツッコミ?」オッサンはきょとんともすることなく言った。「もしかしてテンシくんに会いに来たの?」
「あ、すみません」ケンタは恐縮して頭を下げた。「その人……今、大学ですよね」
「アジトだと思うよ」
「アジト!?」
「あ、いや。家、ね」
「よかったら教えてもらえませんか、家!」
「高校生?」オッサンはケンタの学生服を見ながら、言った。「それともコスプレ?」
「あ……。その……」ケンタは高校生がこんな時間に外にいる言い訳を考えた。
「あ」唐突にオッサンが言った。「集まれ?」
「は?」
「あ」
「え?」
「違うのか」オッサンは無表情で頭を掻いた。「まぁ、高校生にも色々あるよね。自由でいいと思うよ、うん」
「はぁ……」ケンタはわけがわからず、黙るしかなかった。
オッサンにあっさりバイトの大学生、淳美天士の住所を教えてもらい、ケンタはそこへ向かった。
そんな格好じゃおまわりさんに補導されるよ、とオッサンが貸してくれたポロシャツと綿パンツ姿で町中を歩き、そこへ辿り着いた。
家、というよりは廃墟だった。
潰れてツタの生えたカフェの裏に回ると、教えられた通り、地面に扉があった。
その脇にインターフォンだけが付けられた杭が立っており、怖じけ付くことなくケンタはそれを押した。
テンシの声が合言葉を言うのを待つ。
オッサンが教えてくれたのだ。
──「集まれ」と彼が言うから、君は「悪魔天使」と答えなさい。そうすれば開けてくれる。
ケンタは待った。
しかしテンシの声はしない。
部屋の中の音がうっすらと聞こえる。
何やら小さく、女性のうめき声のようなものが。
「……ココロ?」
ケンタは震え上がり、叫んだ。
「ココロか!? 俺だ! ケンタだ! そこにいるのか!?」
しかしインターフォンの向こうから小さく聞こえて来る声の調子に変化はない。
ケンタは地面に付けられた扉を激しく叩き、何度も足で蹴った。
インターフォンの中のうめき声が少し大きくなった。
「待ってろ!」
そう言うとケンタは振り返り、全力で走り出した。