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MASKULL.K  作者: ホーリン・ホーク
8/15

8.Dr.グリーン

挿絵(By みてみん)



 ****



 ……「ケイ君、おい、大丈夫か?」


 ケイはゆっくり目を開けた。

「ケイ君わかるかい? 俺だ。ショーンだ」

「……ここは……僕はいったい……うっ!」

 激痛が走る。それは失くした右足の痛み。

「ひどくやられたな……でも生きていてよかった」


 そこはベッドの上。

 ショーンは隣りで椅子に座っている。

 ケイの右大腿部の付け根には包帯が巻かれている。


「……君が……手当てを?」

 ショーンは首を横に振り、立ち上がった。

「ちょっと待っててくれ」

「……ショーン、ここはどこなんだい?」

「サウスラフォーレ。プリテンディアより遥か南さ」

「……そうか」とケイは部屋の壁や床を見渡した。


 外から波の音が聞こえてくる。

 ――どれくらい眠っていたのだろう……あのデモリスの破砕砲に……足をやられて……それからはあまり覚えていない。メタルブロウは? 僕の……唯一のバイク……。



 部屋を出て行ったショーンが誰かを連れてきた。

 物静かにその男はケイの傍らに。ショーンが彼を紹介した。

「この方が君をここへ呼び、足の手当てもした。三日前に」


 男の、印象よりも厳つい手が差し出される。

「私はグリーン。ゴウ・グリーンだ」

 握手。それは力強くケイの本能を掻き立てた。


「助けていただいて、ありがとうございます。あなたは……」

「元、科学者。そう、ナピス……そしてかつてDr.フォレストンと関わりがあった」

「え?」とケイは身を起こす。

「メタルブロウは私が設計した。元々、私自身のために」


 ケイの窮地にメタルブロウを遠隔操作し、彼がここへ呼び寄せたのだ。

 グリーンはケイの手の甲を撫で、語った。


「私も君と同じ。ネオ・ナピスを抜け出た身。君よりも前に組織を出て、追われ、戦い、闇に潜んできた。ナピスの新たな侵攻を感じ取った時、先日こちらのショーン君が訪ねてきた。君と出会ったこと、命を救われたこと、街で暴れたマスカルズと、Dr.フォレストンのこと……いろいろ聞かされた。君は奴らと敵対し、手酷く傷ついた。私が力を貸そう。奴らを倒すため」

 グリーンの熱い眼差し。

 だがケイはふさぎ込む。

「僕は……ただジュリアを救け出したいだけ……。マスカルズと……同じ改造人間と戦うのはやはり苦しい。ブライノスという男は誇り高く潔い武人だった。そういう者もいるんだ」


 グリーンは驚嘆した。

 底知れぬ力を秘めた究極体とは……なんと純朴なことか。

 その目に宿した優しさ。憂いを帯びた青い瞳。

 彼はただの戦闘マシーンではない、と察した。

 グリーンはしばしケイの思いに耳を澄ませた。


《――ブライノス……。君も本当は生きたかったはずだ。僕は長い間一人、この鼓動を聴き続けてきた。命はきっと皆、生きようとしている。生存せよと。そして思いを果たすんだ。僕は――》


 ショーンが言う。

「ケイ君。俺はあのマスカルズが怖い。奴らは俺の目の前で子供まで襲ったんだぞ! 俺は君ならネオ・ナピスを叩き潰してくれると信じている。守ってくれるのは君しかいないと」


 グリーンはショーンの肩を叩き、冷静にケイに言った。

「倒すべきは脅威のコンピューター〝ネオ・ブレイン〟。そのための戦闘はやむを得ない。私は戦う。いや、戦わなければならない。私も奴らに加担した一人として。組織の目的を知らなかったとはいえ、責任がある。ただ、今の私にはもう奴らに敵う力がない」

 ケイは眉をひそめた。

「Dr.グリーン。あなたはいったい」

「言ったろう? 私も同じだと。私は師フォレストンの助手を務め、改造手術も受けた。この体には軽く飛翔できるほどの強靭な脚力が与えられた。高い精神感応力も得た」


 グリーンは立ち、眼鏡を外した。

 ジャケットを脱ぎ、ショーンを見て頷いた。

「よくこの私を捜し当ててくれた……」



 部屋中の空気の流れが変わった。

 風が渦巻く。吹き荒れてゆく風に包まれ、グリーンの額や頬に傷が浮かび上がった。

 眩く皮膚が散り、メタリックな頭蓋が露わになる。

 両の目は赤く輝き、手の爪は刺々しく、隆々とした脚は装甲具で補強されている。

 そして爆風になびく真紅のマフラー。


 彼はマスカルコードG、蝗虫(こうちゅう)を想わせるマスカルズだった。

 ショーンはおののき床にへたり込んだ。ケイも息を飲んだ。



 金属音が混じる声でグリーンは言った。

「私は不完全なリブラスト体。独自の治療では限界があった。再生機能も著しく低下している。おそらくもうあと一年ともたないだろう」

 見ると錆びついたマスク、弾痕の残る首筋、傷だらけの胸元、ボロボロの銀の腕……。

 痛々しげにケイは見つめた。

 グリーンは彼に手を差し伸べた。

「そう。私も命の声に突き動かされてきた。半分生身、だからこそ命の叫びが愛おしく。生き抜いて思いを遂げよと」

 その言葉に自ずとケイの手に力が入る。


「ケイ君。君に私の右足をあげよう」

「え?」

「一緒に戦おう。ジュリアも捜す。協力する。二人でやろう」



挿絵(By みてみん)



 ****



 そこは雨が打ちつける採石場。

 スピーコックのフルスパークによって、デモリスは爆死した、はずだった。

 四散した残骸から丸焦げの物体がもごもごと動き出す。

 それはデモリスの頭部だ。

 音も立てず宙に浮かんだそれは朱色の光を帯び、やがて闇の中へ消えていった……。

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