7.ナピス包囲網
「……それが死神が言う台詞か!」
とブライノスが叫んだその時、闇を縫い一筋の光が飛んで来る。
その銀の剣は瞬く間にブライノスの脳髄を突き刺した。
揺らめく殺気にKが振り向くと、そこに立っていたのは――ジェネラル。
「我が名はガイセル。覚えているか? K」
銀の鎧に白いマントを纏ったネオ・ナピスの将軍ジェネラル・ガイセルだ。
次の瞬間Kは動けなくなった。
重い念波が覆い被さる。
Kは頭を抱え、片膝を着いた。
ガイセルは歩み寄る。
Kの戦闘形態は解かれ、じわじわと〝ケイ〟の姿に変わってゆく。
ガイセルは左手でその顎を掴み、引き寄せた。
「フフフ。見事なものだ。四十八年経っても若く、崩れもしないとは。昔を思い出す。なぁケイよ」
「……ガ、ガイセル」
「親愛なる友人よ。お前を迎えに来た」
ガイセルの右手がケイの額に当てられた時、凄まじい閃光が二人の間を襲った。
咄嗟にガイセルがマントを翻すと、弾いた閃光はケイの右足を粉々に砕いた。
「うわぁーーっ!」
ケイはもがき、のたうち回った。
見上げる断崖に黒いロボット。現れたのは分子破砕銃ブラスターショットを手にしたデモリスだった。
ガイセルはブライノスの頭に突き刺した剣を抜き、声を轟かせた。
「出でよ! マスカルズの精鋭たち! デモリスを破壊せよ!」
するとデモリスは足元に手を伸ばし何かを掴み上げた。そのままガイセルの方へ遠投されたのは呼んだはずのマスカルズの精鋭たち。
「何だと?!」
次々と投げられる五人の改造人間たち。
それは狼狽えるガイセルの前に死体の山を作った。
崖から飛び、デモリスは降りてくる。
「そいつらは私が倒した」
その場を離れ、ガイセルは向かう。
「デモリス、貴様……」
一方、ケイのバイク・メタルブロウは既に起動していた。
騒ぎの一瞬の隙にケイのもとへ。
右足を失ったケイは朦朧としながら左足だけでメタルブロウに飛び乗った。
疾風のように走り去る。はるか地平線の彼方へ。
「待てケイ!」
飛ぶガイセルをデモリスが阻止した。
「お前に用がある」とその腕を掴み、引き寄せた。
「もうやめるんだガイセル。愚かな侵攻など」
「貴様、ロボットの分際で」
「お前たちは騙されている。お前はただの操り人形で終わるか?」
「くっ、何をほざく!」
ブラスターショットを構えているデモリスの背後に身を潜めていたマスカルズ二人が突如襲いかかった。
それは孔雀のスピーコックと死の女王ヘル・クィーン。
二人の超音波と幻覚による攻撃がデモリスの動きを封じた。
頭部に亀裂が入り、デモリスはガタガタと震え白煙を上げた。
全開で追い詰めながら数分後スピーコックが言う。
「ガイセル様。お逃げください。我々の攻撃ももたない」
「そろそろ限界です。早く、撤退を!」
叫ぶヘル・クィーンもデモリスの再起動を感じ取った。
「お前たち……まさか」とガイセルが躊躇う中、ブラスターショットの乱射が始まった。
怒号を発し狂乱したかのようにデモリスが暴れ出した。
パワーを使い果たしたヘル・クィーンがリブラスト粒子を浴び、砂のように散ってゆく。
スピーコックは捨て身の電磁パルス攻撃に切り替えた。
「こいつはフォレストンが造ったリブラスト体。Kと変わらぬ化け物です」
「スピーコック……」
「ジェネラル! 早く!」
ガイセルは飛行戦艦に飛び乗り、立ち去った。
スピーコックの断末魔の叫びが遠のいてゆく。
激しい爆発が夕空を漆黒に染める。
ガイセルは屈辱に怒りを燃やし、無念を背負ってネオ・ナピス基地を目指した……。
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遠い遠い海の上をふわふわと、ケイは漂っていた。
ケイの体は小さく、まるで赤ん坊だ。
ずっと向こうでママが呼んでいる。
小さな手足で精いっぱいケイは泳ぐ。
でも動くほど体が重くなる。
もがいて喘いで海の底。
――リュウ……リュウどこにいるの?
――ママ、ここだよ、ぼくはここだよ……。
あれはいつかの青空に飛んでいったしゃぼん玉?
ではない……数多の気泡が立ち昇る……
ガラス越しに誰かが見ている……
誰? 僕を呼ぶのは……パパ?
……目覚めよ……K。
……ぼくは……だれ?
お前はケイ。ケイだ。
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