6.ハイパー・キリング・モード
仮想訓練では飽き足りず、犀男ブライノスは仲間にも実戦を挑んだ。
ハイスペックの二人、ネプラスとライオーが受けて立つ。
海神を模すネプラスはブライノスを侮り、迂闊に組み合って一気に胴を貫かれた。
ライオーは百戦錬磨、獅子の武人。
ネオ・ナピスの武闘ナンバー2と言われる男。
ブライノスは更に闘志を燃やし、ぶつかり合った。
地下闘技場の壁や床がひび割れる、轟く雷鳴が基地内を揺るがす。
響き渡る咆哮。……やがて膝をついたのはライオーの方だった。
差し伸べられるブライノスの手。
誇り高き武闘家同士、ライオーはブライノスと固く手を握り肩を叩いた。
「勝ってこいブライノス。その後またお前に勝負を挑む」
ジェネラル・ガイセルは、武士然たるブライノスに「敗れれば後はない」と命じた。
肢体を漲らせ、ブライノスは出陣した。
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ジェネラル・ガイセルは専用のコンディションルームに入った。
完全な個室で銀の鎧を脱ぎ、酸素マスクを着ける。
高感度スキャナーが体内部の映像をモニターに映す。
朽ちた外皮が剥がされ、新たな人工皮膚が移植される。
おぞましい素顔が憎悪を露わにした。
――Dr.フォレストン。わかってる。あんたは死んではいない。いったいどこでデモリスを操っている? あんたにはこのネオ・ナピスに加担した責任がある。必ず見つけ出してやる!
ネオ・ブレインのコネクタがガイセルの後頭部に繋がれた。
目を見開いた彼はそこを出て壇上に立ち、剣を天に突き上げマスカルズたちに命じた。
「Kを捕らえよ! 奴は究極の素体。ナピスの所有だ。デモリスこそ忌むべき存在!」
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街で暴れるブライノスの前に、メタルブロウを駆りKは降り立った。
「待っていたぞ。K!」
「場所を変えよう。ここは狭い。存分に力を出せない」
ブライノスは承知した。
Kが導いた先は人気のない採石場。
飛行戦艦ドランホエイルから飛び降りた二・三メートルの巨体ブライノスが気を放電する。
「安心しろK。殺しはせん。生け捕りにしろとの命令。お前は貴重な素体なのだと」
Kは拳を握り身構えた。
「とは言っても俺は死力を尽くして闘う。ここには一対一、全てを出し切る」
ブライノスの言葉にKは頷く。
「君のような男もいるんだな、ナピスには」
「改造されても誇りは忘れん。さあ、俺のグラフェン製アーマーをお前は破れるか?」
暗雲が立ち込め、稲妻が走った。
眩くぶつかり合う二人。衝撃が耳を劈く。
突き出た犀角をよけ、ブライノスの胸元に入るK。
ブライノスの太い腕と脚はしなやかにKの体を絡め、回転しながら上昇した。
その風をKはベルトのバックルから吸収する。
「させるか!」とブライノスは突如急降下し、Kを岩盤に叩きつけた。
そして杭打ち機のように踏みつけた。
「……うぅ!」
「なんだそのザマは!」
ブライノスは飛び、両脚で一気に踏み潰す。
地に膝までめり込む、巻き上がる土埃と粉塵。しかしKがいない。
すると百メートル程先に全身をスピンさせながら地表を割ってKが飛び出してきた。
「まだだ、K! 本領を発揮せよ!」
Kの両目が光る。
それは真っ赤にほとばしっていた。
地獄からの使者、爆風を巻き起こす――
〝HYPER・KILLING・MODE、K!!〟。
ブライノスは突進した。
「Kよ! かつてお前が倒したマスカルズ……コブラやエレファント、イカロスたちの能力を得た俺は無敵! 選ばれしキサマとは互角、いやそれ以上!」
「来い! ブライノス!」
超硬合金のブライノスの背に翼が広がる。
飛翔し襲いくるブライノスに対しKはスピンさせた体で両腕のブラストハンドを発動した。
分子破砕線の青白い竜巻。二人の激突。
そして爆裂四散するブライノスの両腕。
「……おのれ!」
立ち上がり、その一角に二百万ボルトの全エネルギーを集中させた。
金色に放電する犀男と髪を銀色に逆立たせた死神。
再度の衝突は天を裂き、地をも砕いた。
唸り声を上げ、ブライノスは崩れ落ちた。
着地したKはその息の根を止めるため、歩み寄る。
冷酷に煌めくブラストハンド。
「……そうだK。殺れ! 俺にトドメを」
醜く顔が潰れたブライノスは堂々と座し、目を閉じた。
Kは右腕を振りかざした。
リブラスト粒子が形成するそれはまさしく死神が振るう大鎌だ。轟々と膨張してゆく光刃。
だが、突如それは止められた。
赤く怒り続けたその目も元の青に戻る。
ブライノスは叫んだ。
「バカな! 何を躊躇うK。お前に敗れた俺には死しかない。無様な生より死を!」
吹き荒ぶ風。
黙したまま、Kは背を向けた。ブライノスは呼び戻す。
「頼む。武士の情けだ。腹を切る。介錯を……」
Kは静かに告げた。
「生きろ。生き恥をさらしてでも。人には生きる使命がある」