3.愛しのジュリア
マスカルズの究極体〝K〟を生み出したのは天才科学者Dr.フォレストンだ。
Kの動力エネルギー源は組織が発掘した鉱石〝リブラスト〟。
それはビッグバンの無限の力を内包した石。
リブラストを埋め込まれたKは究極の改造人間と言えた。
だが、手術後覚醒したKはある時暴走してしまう。
研究所を斬撃し、基地を半壊させ、ジュリアを連れ、逃亡した。
フォレストンはKの力を恐れ、その機能を停止すなわち抹殺を決意する。
マスカルズ最強体のKを称揚する組織ネオ・ナピスに反し、フォレストンは破壊ロボット・デモリスを放ち、逃げたKを追わせた。そして自らもナピスを抜け出た……。
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ショーンは少し部屋を片付け、ケイを招き入れた。
きょろきょろと壁を見回すケイをソファに座らせ、コーヒーを淹れる。
「お礼のコーヒー」
「あ、ありがとう」
「俺はショーン・オノデラ。三十五歳。新聞記者やってる」
「写真がいっぱいだ」
「この大峡谷、凄い景色だろう」
ショーンも腰掛け、向かい合う。
「三流だがね。ズバリ訊くが、あの怪物と君の正体、何者なんだ?」
ケイは無表情に見つめる。
ショーンは顔を寄せ、その目を覗き込んだ。
「綺麗な瞳だな。その青い目はカラコンかい?」
「から……こん?」
まぁいい、という感じでショーンはどかっと背もたれた。
ケイは語り出した。
「僕は改造人間。僕もあの怪物たちと同じ、ネオ・ナピスという組織が造った〝マスカルズ〟。でも抜け出した。そこを……四十八年前に」
ぽかんと口が開いたままのショーン。
「僕はずっと逃げてきた。ジュリアを捜しながら」
「……ナピスという名は知る人ぞ知る……四十八って、君は今いくつなんだい? そんな歳には見えないが」
「わからない。改造されて老けもしないらしい」
「……ほう。俺よりずっと若く見えるのに俺よりずっと年上か。で、そのジュリアって人は君の」
「愛する人だ」
ケイはたどたどしく語る。
半世紀ほど前のことを昨日のことのように。
ショーンはじっとケイを見つめた。
ジュリア・メイスンは当時Dr.フォレストンの助手で、目覚めたばかりのケイを介抱した。
話す練習も歩く訓練も彼女が寄り添った。
ケイが覚醒したのは彼女への愛ゆえ、だった。
「ジュリアの話した海を見せたかった。彼女は海の近くで生まれたんだ」
「……そうか。彼女を連れ出し逃げたってことか。でもどうして」
「不覚にも、その後ジュリアをさらわれた。黒いロボット、デモリスに。Dr.フォレストンは奴を使って僕を殺そうとする」
「それは……君が危険だから?」
ケイは頷く。そしてその手のひらを見つめた。
「……ジュリアはフォレストンのもとに。だが彼も組織を抜けたとデモリスから聞かされた」
頬杖をつき深い息を吐くショーン。
「……ケイ君。君はどこで生まれたんだい?」
「え? あ、ああ僕は……それまでの記憶がないんだ。目覚めたらこの体で……元々何をしていたかも今も何も思い出せない」
ショーンはコーヒーをすすり、こめかみに手をあてじっと考えた。
彼の長い孤独を想像した。
ケイは胸元から傷んだ紙を取り出す。折り畳んだ画用紙を。
ケイはそれを広げ、ショーンに見せた。
「ジュリアの似顔絵だ。僕が描いた。……もし、記者だという君に頼めるなら……情報が欲しい」
手に取った絵を見つめながらショーンは頷いた。
「……俺に協力してくれと?」
「そう。彼女の生体波動を求め、捜し続けた。そして現れたデモリスの後も追った。この街のどこかに、奴はいる」
ジュリアの無事を切に願うケイ。ショーンが
「わかった。君は命の恩人だからな」と応えたその時、家が大きく揺れた。
ケイは立ち上がった。ショーンは慌てふためく。
「じ、地震か?!」
ショーンの背後の戸棚が傾くのをケイが止めた。
いくつかのフィルムやフォトフレームがこぼれ落ちる。
ショーンを守りながらケイは彼の肩を確と握った。
「違う。これは奴らの仕業だ」