14.再会
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大峡谷は黒煙を吐き、地が揺れ、崖が崩れた。
魔の巣窟、ネオ・ナピス基地の大爆発。
地獄の炎が冷たい空に野望の死骸を巻き上げた……。
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とある海岸。
Kは砂浜に辿り着き、膝を着いた。
抱きかかえていたジャガールを静かに砂場に下ろした。
彼女の頬を覆っていた真紅のマフラーを外す。
彼女の顔は人の顔に戻っている。
ブロンドの長い髪は傷み、鋼鉄の爪は折れていた。
K――ケイはずっと彼女を見守り続けた。
暗い海には四散した残骸が浮かび、残響が漂う。
やがて彼女は目蓋を開けた。
ケイは震える声で呼びかけた。
「ジュリア……僕がわかるかい?」
「……」
「僕だよ、ケイだ。やっと会えた……」
ジュリアの手がケイの頬に。
「……あなたは……誰?」
「え? ……ジュリア、僕のこと」
ケイは目を腫らしてボロボロ泣き出した。
胸元まで流れ落ちる涙を撫でるジュリア。
ケイは、長い年月で彼女が自分を忘れたのか、それとも全く記憶を失ったのか訊ねた。
「ジュリア、あれから半世紀近く経ったんだ。君は僕に優しかった。短い間でも君と旅したろう? ほら、君の見たかった海だ。これが海だ」
「……うん。海……」
「名前は? 僕はケイ、君の名はジュリア。覚えてるかい?」
すると彼女の目に何かが止まった。
それはケイのブレストアーマーの中に仕舞ってある画用紙、彼女の似顔絵。
ジュリアはそれを引っ張り出し、広げてみた。
「……あ、それは君の」
「……これ……は」
「僕が描いたんだ」
鉛筆で描かれたやわらかい線の、ジュリアの絵。
「これ、私ね?」
惹きつけられたその目はキラキラと輝いた。
ケイはジュリアを抱きしめた。
彼女もケイの背中を強く引き寄せた。
「そ、そうだよジュリア。ずっと、君を想っていた」
「ケイ。知ってるわ。私も、あなたを愛してる」
穏やかな波の音が聞こえる頃、後ろの松の木の枝から落ちてくる物体が。
焼け焦げたその丸い物体は二人の手の届く位置まで転がってくる。
ひやりと、ケイとジュリアは身を反らした。
それはデスパイダーの頭だった。
ケイに敗北しロボットと化し、またジャガール=ジュリアに倒されたマスカルズ・蜘蛛男の頭。
ジュウジュウと音を立て、つり上がった目と複眼の額が二人をじろりと見つめた。
デスパイダーはおぞましい声を発した。
「……フォ……レストンは……生き……ている」
脳だけは人のままの、その眠っていた記憶が発した言葉。
「……Kよ……俺はあの時……追い詰めていたんだ……奴を」
そこでショートし、デスパイダーの機能は停止した。
ゆっくり立ち上がるケイ。
見上げるジュリアの髪を撫で、ケイは言った。
「……わかっている」
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